抜き勾配|金型から成形品を抜くための傾斜

抜き勾配

抜き勾配とは、金型や鋳型から成形品を取り出すため、型の開閉方向と平行な面にわずかな傾きを付けることをいう。英語ではdraft angleまたはtaperと呼ばれ、図面上では角度(°)か、1/50のような比率で指示される。射出成形、ダイカスト、鋳造、鍛造など、型を使う加工法のほぼすべてで必要になる基本的な設計要素である。

勾配がない成形品で起きること

型の側面が完全な垂直、つまり0°のまま成形すると、取り出しの瞬間に製品と型の壁面が全長にわたってこすれ合う。樹脂は冷えるときに縮むため、とくに内側の形状を作るコア側に強く抱きつく。その結果、エジェクタピンで押した部分が白く変色する「突き出し白化」、表面の擦り傷、ひどい場合は製品の変形や割れが生じる。鋳造でも同じことが起きる。砂型鋳造では、木型を砂から抜くときに型崩れを起こし、鋳肌の不良につながる。

角度と寸法の関係

勾配を付けると、型の奥と入口で寸法に差が生まれる。片側の寸法変化量は次の式で求められる。

Δ = H × tan θ
(Δ:片側の寸法変化量、H:抜き方向の深さ、θ:勾配角度)

深さ50mmの壁に1°を付けると、片側で約0.87mm、両側では約1.75mm寸法が変わる。深いリブやボスでは、この差がはめ合いや肉厚に影響する。設計段階で「どの面を基準寸法にするか」を決めておかないと、成形後に組み付けできない部品が出てくる。勾配を外側へ逃がすのか内側へ逃がすのかを、パーティングラインの位置とあわせて検討するのが定石である。

工法ごとの目安値

必要な角度は、材料の収縮の仕方や型の材質によって大きく異なる。以下は設計時によく使われる一般的な目安で、実際の値は材料メーカーや金型メーカーと協議して決める。

工法 外側(キャビティ側) 内側(コア側) 補足
射出成形 0.5〜1° 1〜2° 鏡面仕上げなら0.5°以下も可能
ダイカスト 0.5〜1° 1〜2° アルミ合金は焼付き対策で大きめにする
砂型鋳造 1〜2° 2〜3° 木型の精度と砂の性状に左右される
熱間型鍛造 5〜7° 7〜10° 公差はJIS B 0415を参照

どの工法でも内側の値が大きいのは、冷却に伴う収縮で製品がコアを締め付けるためである。樹脂の場合、収縮率が1.5〜2.0%と大きいPPやPOMは、0.4〜0.7%程度のABSやPCより抜けにくく、同じ形状でも角度を増やす必要がある。

シボ加工と勾配の関係

家電の外装や自動車の内装部品では、表面に細かな凹凸模様を付けるシボ加工がよく使われる。凹凸があると、型から抜くときに模様の山が引っかかり、表面がこすれて光沢ムラになる。現場では「シボ深さ0.025mmごとに1°を追加する」という経験則が広く知られている。深さ0.1mmの皮シボなら、基本の1°に4°を足して5°前後を確保するという計算になる。シボメーカーは模様ごとに推奨勾配を公表しているため、意匠を決める段階で必ず確認しておきたい。製品デザインが固まった後に勾配不足が判明すると、外観形状そのものを修正することになり、手戻りが大きい。

図面での指示方法

図面への記入方法は大きく3通りある。

  • 対象の面に個別に角度を記入する(例:「抜き勾配1°」)
  • 注記で一括指示する(例:「指示なき抜き勾配は1°以下とする」)
  • 比率で示す(1/50は約1.15°、1/100は約0.57°に相当)
  • 3Dモデルに勾配を反映させ、図面には基準面のみを示す

近年は3次元CADのドラフト機能で勾配をモデルに直接付け、そのデータで金型を加工するのが主流になった。CADの勾配解析機能を使えば、角度が不足した面を色分けで確認できる。ただし、モデルに勾配を付け忘れたまま金型メーカーへデータを渡すと、型設計者の判断で勾配が追加され、意図しない寸法になることがある。取引先との間で「勾配込みのモデルか否か」を明確にしておくことが、トラブル防止につながる。

勾配を付けられない場合の対処

嵌合部や外観の都合で、どうしても垂直面が必要になる場面はある。その場合の手段としては、型の可動部品であるスライドコアを使って側面を横方向へ逃がす方法、型表面にDLCやテフロン系の被膜処理を施して摩擦を下げる方法、離型剤を併用する方法などが挙げられる。どの方法も型費や成形サイクルに跳ね返る。スライドコアを1か所追加するだけで、金型費が数十万円単位で上がるのも珍しくない。そのため実務では、垂直が必要な範囲を嵌合に関わる数mmだけに限定し、残りの部分には通常の勾配を付ける「部分勾配」で折り合いをつけることが多い。

アンダーカットとの違い

勾配不足と混同されやすいのがアンダーカットである。アンダーカットは、型を開く方向に対して形状そのものが逆向きに引っかかる状態を指し、勾配の角度をどれだけ調整しても解消できない。勾配が0°の面は「抜けにくい」状態、マイナス角度の面は「抜けない」状態と区別して理解するとよい。

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