周波数調整
周波数調整とは、電力系統において需要と供給の有効電力を即時に均衡させ、標準周波数(日本では50/60Hz)を許容帯域内に保つための制御と運用の総称である。周波数は全発電機・変換装置の同期状態を表すマクロ指標であり、逸脱は系統全体の安定度低下、保護リレー動作、最悪の場合は広域停電につながる。系統の周波数ダイナミクスは慣性、負荷の周波数感受性、ガバナのドロップ特性、連系線潮流の相互作用で決まり、設計者・運用者は一次・二次・三次の階層制御と市場調整力を組み合わせて対処する。
周波数ダイナミクスの基礎
発電機群の角速度は回転体の運動方程式(いわゆるスウィング方程式)に従い、系統慣性が大きいほど事故直後の周波数変化率(RoCoF)は小さくなる。負荷の一部は周波数上昇で消費が減る「負荷周波数特性」を持ち、全体の周波数応答を減衰させる。ガスタービンや水力のガバナはドロップ特性(R)により、周波数偏差に比例して機械入力を自律調整し、初期の周波数なだれを抑える。デッドバンド設定は不要なハンチングを避けつつ、感度を確保するための実務要点である。
階層型制御(一次・二次・三次)
- 一次(Primary):各単機がローカルなドロップ制御で数秒〜数十秒に反応し、周波数の落ち込み(nadir)を浅くする。一次は自律分散であり、通信に依らない。
- 二次(Secondary):制御所のAGC/LFCがエリア制御誤差(ACE)を用いて数分スケールで周波数と連系線潮流を目標に復帰させる。PI系のゲイン設計とフィルタが鍵である。
- 三次(Tertiary):再合意・市場指令・起動停止最適化により、15分〜時間単位で持続可能な出力配分へ整える。計画外偏差の平準化も担う。
主要指標と運用目標
運用では通常運転帯域、緊急帯域、遮断・負荷遮断(UFLS)しきい値を明確化する。評価指標にはRoCoF、nadir、整定時間、残留偏差、ACEの収束特性などがある。要求事項の例として、一次応答の立上り時間、二次の目標復帰時間、起動待機容量や予備力クラスの配分が挙げられる。
装置と制御方式
- ガバナ・タービン系:R設定、デッドバンド、燃料系時定数の整合が周波数安定度を左右する。
- AGC/LFC:エリア間の連系を考慮したtie-line bias制御でACEを零化する。計測遅延と制御周期は位相余裕に直結する。
- 蓄電池BESS:高速有効電力制御によりFFRや仮想慣性を提供し、SVCやSTATCOMと異なり直接周波数を支援する。
- デマンドレスポンス:需要側の一時的抑制・移動により実効的な一次・二次応答として機能する。
- HVDC連系:直流連系は変換制御で有効電力を瞬時変更でき、広域の周波数調整に有効である(周波数偏差追従・電力指令モード)。関連項目:HVDC、FACTS。
再生可能エネルギーとIBR時代の課題
非同期型のIBR(inverter-based resources)が増えると回転慣性が減少し、事故直後のRoCoFが大きくなる。これに対し、P/fドロップをもつグリッドフォーミング制御、VSG(virtual synchronous generator)、シンセティックイナーシャ、超高速FFRが導入される。風力・太陽光は有効電力ヘッドルーム確保(デルタ制御)が必要で、過度な最大出力運転は周波数応答力を枯渇させる。
日本における運用上の論点
日本は50Hzと60Hzの二周波に分かれ、地域間の周波数協調には連系容量制約が影響する。需給調整市場や同時同量管理の厳格化により、一次〜三次の機能分担が透明化しつつある。広域運用では、計画外偏差の監視、予備力のクラス分け、事故時の段階的UFLS設計と自動復帰手順が重要である。電圧・無効電力問題(無効電力補償、電圧不平衡)は直接の周波数制御対象ではないが、安定運転の前提条件となる。
モデル化と同定
線形化した小信号モデルでは、ガバナ・タービン・発電機・負荷・連系線の伝達関数を接続し、AGCのPIゲインとフィルタで閉ループを設計する。実運用ではステップ試験・擾乱再現・同定により、慣性定数、負荷周波数特性、ドロップ有効値を推定し、制御器を再調整する。高調波やインバータ制御の相互作用(高調波電流やTHD)は計測系の位相遅れ・ノイズを通じてLFC性能を劣化させ得る。
設計・運用の実務ポイント
- ドロップ設定:過小はハンチング、過大は残留偏差を招く。機器間の配分でエリア全体の一次応答を最適化する。
- デッドバンド:ガバナ摩耗や過調整を避けつつ、細かな周波数保持力を確保する幅に設定する。
- AGCチューニング:ACEフィルタ時定数とPIゲインは連系特性を踏まえて余裕を確保する。
- FFR・仮想慣性:BESSや風力の制御更新率と実効レイテンシが性能を左右する。
- 保護協調:UFLS段数、周波数復帰ロジック、重要負荷の免除条件を明確化する。
- 検証:擾乱再現試験、シナリオ解析、モデルと実測の乖離管理を継続する。
関連する品質・設計概念
系統の周波数調整は単体機器の設計余裕にも影響する。例えば電源機器のデザインマージンや評価のマージンテストは、短時間の周波数偏差とそれに伴う電圧・熱・機械応力の変動を見込んで決めるべきである。システムと機器の階層で整合を取ることが、安定度と信頼度を同時に満たす近道である。