FACTS
FACTS(Flexible AC Transmission Systems)は、送電系統における電圧・無効電力・潮流・安定度を、パワーエレクトロニクスを用いた高速制御で最適化する技術群の総称である。従来の機械式設備に比べ応答が速く、可変性と精密性に優れる。VSC(電圧形コンバータ)と高耐圧半導体、デジタル制御(DSP/FPGA)の発展により、電圧維持、送電容量向上、過渡安定度の改善、フリッカや高調波低減、再生可能エネルギー連系の平滑化など、多目的に適用される。本稿ではFACTSの原理、主要機器、性能指標、制御・保護、設計の要点を体系的に解説する。
動作原理
FACTSの基本は、系統側の電圧位相と大きさに同期しつつ、無効電力Qを動的に供給・吸収し、必要に応じて有効潮流Pの経路や大きさを調整することである。VSCベース機器はDCリンクに蓄えたエネルギを介して交流側へ電流を注入し、dq同期座標系で電流指令を生成する。シャント接続は主に電圧・無効電力の制御、シリーズ接続は主に潮流・線路インピーダンスの見かけ調整に用いる。潮流近似式P≈(V1V2/X)sinδ、無効電力Q=V·I·sinφを念頭に、局所的な電圧下落や角周波数偏差に対して数十ms〜数百msで補償が動作する。
主要機器の体系
用途に応じて複数の機器が定義されるが、実務上は以下の分類で理解すると整理がよい。
- STATCOM(静止形無効電力補償装置):VSCで無効電流を直接注入し、低電圧時でも大電流を供給できるため電圧安定度に有効。
- SVC(静止形無効電力補償装置):TCR/TSC等のサイリスタ制御で連続的にQを調整。大容量・高信頼で広く普及。
- TCSC/FC-TCR:シリーズコンデンサにサイリスタ制御リアクトルを組み合わせ、見かけの線路リアクタンスを可変化して潮流を制御。
- SSSC:VSCで直列に電圧ベクトルを注入し、線路潮流を能動的に制御。
- UPFC:直列・並列の両機能を統合し、電圧・位相角・インピーダンスを同時制御できる高機能形。
効果と評価指標
FACTSの導入効果は、安定度と電圧品質、送電能力の観点で評価する。主な指標は以下である。
- 電圧維持とV–Q曲線(無効電力余裕、感度∂V/∂Q)
- 小擾乱安定度(減衰比ζ、固有値の実部、PSS併用時の減衰改善)
- 過渡安定度(臨界故障時間CCT、故障除去後の再加速抑制)
- 送電余裕度(ATC、N-1時の潮流分散、線路利用率)
- 電力品質(電圧フリッカPst、THD、不平衡率、瞬低耐性)
- 損失・効率(装置損失、ライン損失低減によるOPEX効果)
制御アーキテクチャと保護
制御はPLLで位相同期し、dq座標の電流制御にPI/PR制御やモデル予測制御(MPC)を適用する。電圧フィードフォワードと電流制御の二重ループで応答性と安定余裕を確保し、デッドタイム補償や電流リミットで半導体を保護する。保護は過電流・過電圧・地絡・DCリンク過電圧・冷却異常等を多層で監視し、迅速な遮断・バイパス・クラウバ動作で系統影響を最小化する。
設計・実装の要点
定格(電圧・電流・Mvar帯域・過負荷曲線)を潮流計算と故障解析から定め、フィルタはLCLやチューニング型を用いて高調波・ノイズを抑制する。EMC/EMI対策、絶縁協調、避雷・接地、冷却(空冷/液冷)、冗長化(N+1)を考慮し、保守性(モジュール交換、バイパス運転)も設計要件に含める。系統連系規程(グリッドコード)のFRT、無効電力応答、電圧・周波数サポート要件に適合させる。
適用領域と導入効果
再生可能エネルギーの大量導入地域、長距離送電路や海底・地中ケーブル系統、都市部の電圧変動対策、製鉄・電炉・鉱山・電鉄といった大きな負荷変動設備で効果が大きい。計画段階ではPSS/EやDIgSILENT等で潮流・短絡・安定度を評価し、最小容量で最大のシステム便益(安定度余裕、託送量増、停止回避)を狙う。
方式の整理(補足)
シャント系は電圧と力率の改善、シリーズ系は潮流と線路利用率の最適化、ハイブリッド系は広域的な電圧・位相・インピーダンス協調に適する。設備計画では設置点の短絡容量、局所的なQ需要、故障除去時間、通信LATENCYを併せて検討する。
数式と簡易見積り
皮相電力S=√(P²+Q²)、無効電力はQ=V·I·sinφで表され、STATCOMでは目標電圧偏差ΔVから必要Q≈V·ΔV/(∂V/∂Q)を概算する。潮流はP≈(V1V2/X)sinδ、シリーズ補償では有効リアクタンスXeffを低減して|∂P/∂δ|を高め、小擾乱の減衰を改善する。設計初期はこれらの近似で容量帯域を掴み、詳細は時系列・過渡解析で詰める。
導入プロセス
- 系統解析:負荷潮流、短絡、固有値、過渡安定度を現状の運用点で評価する。
- 要件定義:Mvar帯域、応答時間、FRT、過負荷、電力品質目標を数値で規定する。
- 基本設計:接続点、保護協調、通信(SCADA/PMU)、設置・冷却・遮蔽計画を立案する。
- 詳細設計/製作:VSC/SVC構成、フィルタ、絶縁・冷却、冗長・保守設計を実装する。
- 試験/立上げ:工場試験、現地統合試験、ステップ応答、FRT、並列運転検証を行う。
- 運用/監視:トレンド監視、予知保全、季節負荷と再エネ発電量変動に合わせ最適化する。
関連技術と将来展望
FACTSはHVDC、同期調相機、BESS、PSS、広域計測(PMU/WAMS)と協調し、広域安定化と電圧品質の両立に寄与する。広域最適化ではモデル予測と分散制御、サイバーセキュリティを含む耐故障設計が重要となる。半導体の高耐圧化や損失低減により、より高周波・高効率化が進み、装置の小型化と設置自由度が向上する。