STATCOM|瞬時無効電力補償で電圧安定化実現

STATCOM

STATCOM(Static Synchronous Compensator)は、電力系統に並列接続して無効電力を高速に供給・吸収する電力用アクティブ機器である。電圧源形変換器(VSC)と直流リンク、結合リアクトル(または変圧器)から構成され、系統電圧の瞬時値に同期した三相電流を指令生成することで、母線電圧の安定化、フリッカ抑制、低電圧時の電圧支持、風力・太陽光の出力変動緩和などに寄与する。スイッチング制御(PWM)と位相同期(PLL)を用いるため、機械式やサイリスタ受動機器に比して応答が数ミリ秒〜数十ミリ秒と極めて速いことが特長である。運用上は無効電力容量(±Mvar)と電流制限が主要制約であり、電圧低下時でも定格電流を維持しやすい点が系統安定度改善に有利に働く。

構成要素と回路構成

主構成は、(1)VSC本体(IGBT/IGCTを用いた2レベル、3レベルNPC、あるいはMMCなどのトポロジ)、(2)直流リンク(大容量コンデンサとブリーディングおよびチョッパ抵抗)、(3)交流側の結合リアクトルまたは結合変圧器、(4)高調波フィルタ、(5)制御・保護装置、(6)冷却系からなる。直流リンクは瞬時の有効・無効電力授受に伴うエネルギ平衡を担保し、過電圧対策としてブレーキチョッパが直流エネルギを熱に逃がす。交流側は短絡耐量とインピーダンス整合を満たすようにリアクトル値と絶縁階級が選定される。

動作原理(d–q制御の観点)

PLLで系統位相を追従し、三相をd–q座標へ変換する。d軸電流Idで直流リンク電圧を間接的に制御(損失補填のための有効電力)し、q軸電流Iqで無効電力を制御する。母線電圧をd軸に整列させれば、無効電力は近似的にQ ∝ V·Iqで表せ、STATCOMIq指令の符号と大きさを変えるだけで供給(遅れ無効)と吸収(進み無効)を瞬時に切替えられる。結合リアクトルを介した電圧差と位相差が交流電流を規定し、過電流保護はデジタル制御とハードウェア両面で実装される。

制御系アーキテクチャ

  • 外側ループ:母線電圧一定制御(AVR)、端子電圧ドロップ特性(ドロop)設定、無効電力/電流リミット管理
  • 内側ループ:d–q電流PI制御、デッドタイム補償、電圧飽和時のアンチワインドアップ
  • 同期・座標変換:PLL、パーク/逆パーク変換、サンプル同期
  • 保護・補機:過電圧/過電流、直流過電圧チョッパ投入、ブラックボックスレコーダ

設計指標と仕様決定

基本仕様は、定格無効電力(例:±50〜±300 Mvar)、系統電圧階級、短絡容量比(SCR)、応答時間、許容高調波(IEEE 519等への適合)、高調波フィルタ構成、スイッチング周波数、直流リンク容量、冷却方式(空冷/水冷)、可用性目標(例えば99%超)などで定義する。リアクトル値は安定性と電流リップルの折衷で選ぶ。EMT/SMALL-SIGNAL解析により、PLL帯域、電流ループ帯域、外側電圧ループの位相余裕を確保し、系統側の弱結合条件(低SCR)でもハンチングや負性抵抗的振舞いを避ける。

適用分野と導入効果

  • 製鋼用アーク炉:フリッカ抑制と無効電力平準化により電圧変動と灯りちらつきを低減
  • 再生可能エネルギ:風力・太陽光の出力変動時に端子電圧を支持し、グリッドコードの無効電力要件に適合
  • 弱系統・長距離送電:故障時の電圧回復支援、低電圧時でも定格電流が確保しやすい利点
  • 大容量モータ起動:起動無効電力の急峻な需要に追従し電圧ディップを緩和
  • 配電・産業母線:力率改善と変圧器負荷の最適化、設備余寿命の延伸

高調波・電磁環境(EMC)

PWMに起因するスイッチング高調波が必ず発生するため、交流側フィルタと適切な搬送周波数選定が要点である。多レベル(NPC/MMC)は等価ステップ電圧が低く高調波が減りやすい。フィルタ設計では系統インピーダンスとの共振回避、減衰抵抗の損失・温度上昇、並列機複数台時の相互干渉などを評価する。EMI伝導・放射は規制値に適合させ、ケーブリングや接地の実装規範を守る。

信頼性・保全性

半導体素子は温度・電流応力による劣化に敏感であり、熱設計(ヒートシンク、液冷プレート)、ゲートドライブの保護(短絡検出、ミラークランプ)、直流リンクの不平衡・突入対策が重要である。冗長化(アーム/サブモジュール冗長、ファン冗長)、オンライン診断(部分放電監視、振動・温度モニタ)、予兆保全(MTBF解析、Weibull解析)を取り入れ、計画停止でコンデンサ・ファン・接点の交換を行う。

系統連系・保護協調の要点

保護協調では過電流、地絡、逆電力(有効電力流入異常)、直流過電圧、変圧器差動等を整理する。故障除去中は電流指令をソフト制限し、直流リンク過電圧時はチョッパで消散、復旧時はランプアップで電流外乱を小さくする。並列補償装置や自励式インバータとの相互作用は潮流計算だけでなくEMTモデルで事前検証する。

計画・導入時の実務ポイント

  • 系統解析:短絡容量、インピーダンス、故障様相、電圧規制範囲、周波数偏差を整理
  • 容量決定:運用シナリオ(昼夜、季節、再エネ比率)から±Mvarと電流限界を設定
  • 据付・環境:設置スペース、騒音、熱風ダクト、保守動線、耐震/耐塩害/耐雷
  • 規格適合:電力品質(THD、フリッカ)、絶縁協調(BIL)、安全規格、系統コード
  • 運用:ドロop設定、優先制御(電圧一定/無効一定)、遠方監視(SCADA)

メリットと限界の整理

STATCOMは高速応答、低電圧での電流供給能力、連続可変の無効制御、設置面積の合理化などが利点である。一方で、半導体・フィルタ由来の損失と複雑性、初期投資、熱・EMC設計の難易度が課題となる。有効電力源を持たない基本構成では直流リンクエネルギは有限であり、長時間の有効電力供給はできないため、必要に応じて蓄電・チョッパや上位の系統設備と役割分担を図る。