電圧不平衡
電圧不平衡とは、本来等しいはずの三相系の相電圧の大きさや位相が一致せず、各相で偏差が生じている状態をいう。三相誘導電動機や整流器・インバータなどの電力変換機器にとって、わずかな電圧不平衡でも負相成分(逆相成分)が発生し、銅損・鉄損の増加、トルクリップル、振動・騒音、温度上昇、絶縁寿命の低下など多面的な悪影響を与える。配電系では単相負荷の偏在、変圧器タップ・線路インピーダンスの不均一、故障や接触不良、コンデンサバンクの不均衡投入などが主因であり、設備計画・保全・運用の各段で抑制が求められる。
定義と評価指標
電圧不平衡の評価には大別して2種類の実務指標が用いられる。ひとつは各相電圧の「最大偏差を平均電圧で割った値」を百分率で表す経験的な定義、もうひとつは対称成分法に基づく「負相電圧(V2)と正相電圧(V1)の比」である。前者は現場での迅速判定に適し、後者は解析的厳密さと機器影響の評価に適する。
NEMA方式(最大偏差/平均)
3相の実効相電圧をVa, Vb, Vcとし、平均 Vavg=(Va+Vb+Vc)/3、各相の偏差を|Vi−Vavg|とする。NEMA方式の電圧不平衡%は %VU = ( max{|Vi−Vavg|} / Vavg ) × 100 で定義される。現場測定値に直接適用でき、しきい値管理や過去データとの比較に有用である。
IEC方式(対称成分による評価)
3相電圧を対称成分に分解し、正相V1・負相V2・零相V0を得る。IEC系の指標は %VU = ( |V2| / |V1| ) × 100 とするのが通例で、機器内部の電磁現象(負相磁界)と直結した評価が可能である。数値はNEMA方式と必ずしも一致しないが、電動機や電力変換器の過熱・損失評価ではこちらが説明力を持つ。
発生要因
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単相負荷の偏在:同一フィーダ上で特定相に集中し、結果として電圧不平衡が増大する。
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線路・接続の不均一:配電線インピーダンス差、接触抵抗増加、端子緩み、ケーブル劣化。
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変圧器・コンデンサバンクの不均衡:相ごとのタップ差、容量差、劣化差や故障。
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故障・接地異常:一線地絡・断線・ヒューズ溶断の未検知運転。
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需要変動の時間偏り:同時投入・落雷後の再閉路、シフト交代時の突発的負荷変動。
誘導電動機への影響
負相成分は回転磁界と逆向きに回転する等価磁界を形成し、二次側に高周波滑りの電流を生じさせる。このため銅損・鉄損が増加し、同一出力でも電流が増え温度上昇を招く。一般に電圧不平衡が1%でも電流不平衡はその数倍に達し得るとされ、効率低下、トルクリップル、ベアリング負荷増大、振動・騒音増加を通じて信頼性と寿命を損なう。保護継電器の誤動作や過負荷トリップ増加にも留意する。
測定・解析手順
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測定点の設定:PCC(連系点)や母線幹線、重要負荷端子など階層的に選定する。
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データ取得:三相相電圧のRMSと位相角を十分なサンプリングで連続記録する。イベント時刻(大負荷投入、設備切替)をログ化する。
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指標算出:NEMA方式で%VUを算定し、併せて対称成分分解により|V2|/|V1|を算出する。
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影響評価:電動機の温度上昇余裕、変圧器負荷率、整流器・インバータの直流リンクリップルやスイッチング損失を評価する。
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原因切り分け:相別負荷電流、配線抵抗、接点温度、コンデンサの容量ばらつき、投入シーケンスを確認する。
計算例
相電圧がVa=400 V, Vb=390 V, Vc=410 Vとする。平均 Vavg=400 V、偏差は10 V, 10 V, 0 Vで最大は10 V。NEMA方式では %VU=(10/400)×100=2.5%。一方、位相角も含めて対称成分分解を行うと|V2|が非ゼロとなり、例えば|V2|=6 V, |V1|=399 Vなら IEC系では %VU≈(6/399)×100≈1.5%となる。数値が一致しないのは定義が異なるためであり、適用目的に応じて使い分ける。
許容値・しきいの目安
電圧不平衡は小さいほど望ましく、一般実務では1〜2%以下を良好、3%を超える場合は是正検討、5%を超えると機器影響が顕著と判断されることが多い。ただし配電事業者の供給規程や設備仕様、運用条件で基準は異なる。電動機は微小な不平衡でも温度上昇が大きくなり得るため、定格出力のデレーティングを設ける設計が保守的である。
対策と設計上の留意点
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負荷配分の是正:単相負荷の相入替え、フィーダ再配置、同時投入の平準化。
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設備健全性の確保:端子増し締め、接触抵抗点検、劣化ケーブル交換、接地系の再確認。
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無効電力補償のバランス化:コンデンサバンク容量の相間整合、切替制御の最適化。
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変圧器・配電設計:タップ設定の適正化、線路インピーダンスの対称化、幹線の相順・配線長整合。
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能動的補償:静止型無効電力補償装置(SVC)、STATCOM、フェーズバランサ、アクティブフロントエンドの制御最適化などでV2を低減。
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機器側の耐性設計:直流リンク容量とリプル許容、スイッチング素子の熱設計、トルクリップル吸収の制御(電動機ベクトル制御等)。
保護・監視の実装
電圧不平衡リレー、負相電流監視、相欠相検出を組み合わせ、しきい超過時は警報・徐荷・停止の段階的制御を行う。トレンド監視とイベント相関(負荷切替、起動、雷)を合わせると原因特定が早い。
関連する指標・解析との関係
電圧不平衡は高調波や電圧フリッカ、電圧ディップ/スウェルと独立ではない。たとえば整流器や非線形負荷は高調波と不平衡を同時に悪化させ、直流リンクのリプル増大やスイッチング損失増を介して熱余裕を圧迫する。品質管理の観点では、THDや不平衡、電圧変動を同一プラットフォームで時系列相関させ、設備改修・運用改善・保護設定最適化を一体で設計することが肝要である。