排水処理
排水処理とは、工場や事業場、家庭から出る汚れた水から有機物・浮遊物質・有害物質などを取り除き、公共用水域や下水道へ放流できる水質まで浄化する一連の工程を指す。日本では水質汚濁防止法(1970年制定)が放流水の基準を定めており、事業者は自社で処理設備を持つか、下水道へ排除して公共の処理場に委ねる形で対応する。処理の手段は物理的・化学的・生物的方法に大別され、現場ではこれらを組み合わせて一つの処理フローを構成する。
公害対策から始まった法規制
高度経済成長期、水俣病やイタイイタイ病など工場排水を原因とする公害が相次いだ。これを受けて1970年のいわゆる公害国会で水質汚濁防止法が成立し、全国一律の排水基準が設けられた。生活環境項目では、BOD(生物化学的酸素要求量)とCOD(化学的酸素要求量)がいずれも最大160mg/L(日間平均120mg/L)、浮遊物質量(SS)が200mg/L、pHは海域以外で5.8~8.6とされている。ただし都道府県は条例でより厳しい上乗せ基準を設定できる。同じ業種でも、立地する自治体によって求められる処理レベルは大きく変わる。分析方法の多くはJIS K 0102(工場排水試験方法)に従う。
処理方式の分類と比較
汚濁物質の性状によって、選ぶべき方法は変わってくる。粒子状の汚れには沈殿やろ過、水に溶けた有機物には微生物、重金属やシアンには薬品反応が向いている。主な方式を整理すると次のとおりである。
| 区分 | 代表的な方法 | 主な除去対象 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 物理的処理 | スクリーン、沈殿、浮上分離、ろ過 | SS、油分 | 薬品を使わず、前処理として多用される |
| 化学的処理 | 中和、凝集沈殿、酸化還元 | 重金属、リン、色度 | 反応が速い反面、薬品費がかさむ |
| 生物処理 | 活性汚泥法、生物膜法、嫌気処理 | 溶解性有機物、窒素 | ランニングコストが比較的低い |
生物処理の中心となる活性汚泥法
溶解性の有機物を減らす手法として最も普及しているのが活性汚泥法である。曝気槽で排水に空気を送り込み、細菌や原生動物の集合体である活性汚泥に有機物を分解させる。その後、最終沈殿池で汚泥と処理水を分ける仕組みになっている。標準法の場合、曝気槽の汚泥濃度(MLSS)は1,500~2,000mg/L、水理学的滞留時間は6~8時間程度が目安とされる。設計で必ず確認するのがBOD容積負荷で、次の式で求める。
BOD容積負荷(kg/m3・日)= 流入BOD濃度(kg/m3)× 流入水量(m3/日)÷ 曝気槽容積(m3)
標準法ではこの値をおおむね0.3~0.8kg/m3・日に収める。運転中のトラブルとして多いのは、糸状菌が増えて汚泥が沈まなくなるバルキングで、汚泥容量指標(SVI)が200を超えたら警戒が必要になる。
膜分離活性汚泥法(MBR)
最終沈殿池の代わりに、孔径0.1~0.4μm程度の精密ろ過膜で固液分離する方式が膜分離活性汚泥法である。MLSSを8,000~12,000mg/Lまで高められるので、設置面積は標準法の半分程度で済む。敷地の狭い食品工場で採用が多い。とはいえ膜の目詰まりは避けられず、定期的な次亜塩素酸ナトリウムによる薬品洗浄と、5~10年ごとの膜交換費用を見込んでおく必要がある。
重金属を含む排水の化学的処理
めっきや電子部品の工場では、クロム・ニッケル・銅・亜鉛といった重金属の除去が排水処理の主題になる。基本は水酸化物沈殿法で、苛性ソーダや消石灰でpHを上げて金属を水酸化物として析出させ、高分子凝集剤でフロックを大きくしてから沈める(凝集沈殿)。厄介なのは、金属ごとに最適なpHが異なる点である。亜鉛はpH9~10付近で最も溶けにくくなるが、それ以上アルカリ側へ振ると再び溶け出してしまう。六価クロムの場合は、pH2~3の酸性域で亜硫酸水素ナトリウムなどを加えて三価に還元し、そのあと中和沈殿させる二段階処理をとる。複数の金属が混ざる工場では、全量をまとめて処理するより系統を分けて受けたほうが、薬品使用量も汚泥発生量も抑えやすいというのが現場での通説である。
業種によって異なる排水の性状
排水の中身は業種ごとにまったく異なり、それに応じて処理フローも組み立て直すことになる。代表的な例は次のとおり。
- 食品工場:BODが数千mg/Lに達することもあり、嫌気処理で負荷を落としてから好気処理にかける
- 金属加工・めっき工場:重金属、シアン、切削油などの油分を含み、化学処理が主体となる
- 化学工場:難分解性の有機物が残りやすく、オゾン処理や促進酸化を追加する場合がある
- 半導体工場:フッ素を含む排水にカルシウム塩を加え、フッ化カルシウムとして固定・除去する
- 製紙工場:繊維由来のSSと色度が多く、1日あたり数万m3規模の大量の水を扱う
汚泥処分と運転コストの実際
処理後に残る汚泥は、含水率99%前後の状態で引き抜かれる。これをベルトプレス、スクリュープレス、フィルタープレスなどの脱水機で含水率75~85%程度まで絞り、産業廃棄物として委託処分するのが一般的である。数字で見ると効果ははっきりしていて、含水率を80%から75%へ下げるだけで汚泥の重量はおよそ2割減る。処分費はトン単位で請求されるため、脱水性能の改善はそのまま経費削減に直結する。電力も見逃せない。活性汚泥法では曝気ブロワが施設全体の消費電力の半分前後を占めることが多く、溶存酸素(DO)を1~2mg/Lに保つようインバータで風量を制御するのが省エネの定番となっている。排水処理設備を新設・更新する際は、初期費用だけで比べず、薬品・電力・汚泥処分という三つのランニングコストを10年程度の期間で合算して判断したい。
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