膜分離活性汚泥法
膜分離活性汚泥法は、活性汚泥法の固液分離工程を沈殿池ではなく分離膜で行う排水処理技術である。英語ではMembrane Bioreactorと呼ばれ、略称のMBRが広く使われている。孔径0.1~0.4μm程度の精密ろ過膜で活性汚泥と処理水を物理的に分けるため、浮遊物質がほとんど残らない清澄な処理水が得られる。下水処理や工場排水処理に加え、処理水の再利用を前提とした施設でも採用例が増えている。
開発の経緯
原型は1960年代後半に米国のDorr-Oliver社が開発した槽外型の装置とされる。当時は膜を反応槽の外に置き、ポンプで汚泥を高速循環させてろ過していたため、消費電力が大きく実用は限られていた。転機となったのは1989年で、東京大学の山本和夫らが膜を曝気槽内に直接沈める浸漬型の方式を発表した。この方式によって循環ポンプが不要になり、エネルギー消費は大きく下がった。1990年代には国内メーカーが平膜や中空糸膜のモジュールを製品化し、まず浄化槽や工場排水の分野で普及が始まった。自治体の下水処理場では、2005年に兵庫県の福崎浄化センターで国内初の本格導入が行われている。
処理の仕組み
反応槽では、通常の活性汚泥法と同じく微生物が有機物を分解する。違いは汚泥と処理水を分ける段階にある。膜モジュールの二次側をポンプで吸引すると、水だけが膜を透過し、汚泥や細菌は槽内にとどまる。単位膜面積あたりの透過水量は膜ろ過流束(フラックス)と呼ばれ、次の式で表される。
J = Q / A (J:膜ろ過流束[m3/(m2・d)]、Q:透過水量[m3/d]、A:有効膜面積[m2])
下水処理における設計流束は0.4~0.8m3/(m2・d)程度が一般的である。膜の下部からは散気管で空気を送り込み、気泡の上昇流で膜面に付着した汚泥を剥がし取る。この空気は微生物への酸素供給を兼ねており、曝気と膜洗浄の二役を担う点が特徴といえる。
浸漬型と槽外型
現在の主流は浸漬型で、国内の下水・生活排水用途ではほぼ全数がこの方式を採る。槽外型は膜を加圧容器に収めるため、高濃度の産業排水や高温排水に向くものの、循環動力が大きく大規模施設には不利となる。
標準活性汚泥法との比較
沈殿池を使わないことで、反応槽内の汚泥濃度を大幅に高められる。従来法と主な項目を並べると、次のような差がある。
| 項目 | 標準活性汚泥法 | 膜分離活性汚泥法 |
|---|---|---|
| MLSS濃度 | 1,500~3,000mg/L | 8,000~15,000mg/L |
| 処理水SS | 5~10mg/L程度 | 1mg/L未満 |
| 最終沈殿池 | 必要 | 不要 |
| 必要敷地面積 | 基準 | 約1/2~2/3 |
| 消費電力量 | 0.3~0.5kWh/m3 | 0.5~1.0kWh/m3 |
汚泥滞留時間を長く取れるため硝化菌が槽内に保持されやすく、循環式の構成と組み合わせれば窒素除去にも対応できる。大腸菌群もほぼ除去されるので、消毒設備を簡略化できる場合がある。反面、散気量が多い分だけ電力を消費する。
膜モジュールの種類
膜の形状は大きく平膜と中空糸膜に分かれる。平膜はクボタが1990年代から量産してきた形式で、塩素化ポリエチレン製の膜をパネル状に並べる。汚泥が詰まりにくく、目視点検もしやすい。中空糸膜は直径1~2mm程度の糸状の膜を束ねたもので、単位容積あたりの膜面積を大きく取れる。素材には耐薬品性に優れたポリフッ化ビニリデン(PVDF)が多用されている。孔径を0.01μm前後まで小さくした限外ろ過膜タイプも存在するが、透水性とのバランスから下水用途では精密ろ過領域が選ばれることが多い。
ファウリングと膜洗浄
運転を続けると、膜面や細孔内に汚泥や微生物由来の有機物が蓄積して透過性能が落ちる。この現象をファウリングと呼ぶ。原因物質としては、微生物が分泌する細胞外高分子物質(EPS)や溶解性微生物産物(SMP)が知られる。
ファウリングは膜間差圧の上昇として現れる。一般には差圧が初期値から10~20kPa程度上がった時点で薬液洗浄を行う。有機物系の汚れには濃度3,000~5,000mg/Lの次亜塩素酸ナトリウム、鉄やカルシウムなどの無機スケールにはシュウ酸やクエン酸が使われる。洗浄頻度は年に2~4回程度が目安とされ、膜を槽から取り出さずに薬液を逆流させるインライン洗浄が普及している。
現場での運転管理上の注意点
実務で見落とされやすいのが前処理である。毛髪や繊維くずが中空糸膜の束に絡むと、局所的な閉塞から膜破断に至ることがある。このため流入側には目幅1~3mm程度の微細目スクリーンを置くのが定石となっている。油分を多く含む食品工場排水では、加圧浮上などで油を事前に除いておかないと、薬液洗浄でも回復しないファウリングを招きやすい。汚泥の引き抜きを怠ってMLSSが20,000mg/Lを超えると粘性が急増し、散気の効果が落ちる点にも注意したい。
導入される分野
処理水質の高さと省スペース性から、次のような用途で導入されている。
- 都市部や合流式下水道の改築で、敷地を広げずに処理能力を増やしたい下水処理場
- ビル内の中水道設備(トイレ洗浄水や散水への再利用)
- 食品・飲料工場、化学工場などの高濃度有機性排水
- 小規模集落や観光施設の排水処理
- 逆浸透膜処理の前段として行う水再生プラント
海外では、シンガポールのNEWaterに代表される水再生事業や、中東の水不足地域で大規模施設の建設が続いている。日量10万m3を超えるプラントも珍しくない。
導入費用とランニングコストの考え方
設備計画の段階では、膜の交換費用を織り込むことが欠かせない。膜の寿命は使用条件によって5~10年程度とされ、交換費は建設費全体の1~2割に相当するケースもある。電力費は散気ブロワが大半を占めるため、間欠散気や散気量の自動制御を採り入れる施設が増えた。工場排水の現場では、処理水を冷却塔補給水や洗浄水に回すことで上水の購入量を減らし、増えた電力費を相殺する設計がよく見られる。放流先の水質規制が生物化学的酸素要求量で数mg/Lと厳しい地域ほど、膜分離活性汚泥法の経済的な優位性は大きくなる。
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