活性汚泥法
活性汚泥法は、微生物の集合体である活性汚泥を排水と混ぜ合わせ、空気を吹き込みながら有機物を分解させる生物学的な排水処理方式である。日本の下水道終末処理場の大半で採用されており、適正に運転すればBOD除去率は90%を超える。食品・化学・製紙などの工場排水処理にも広く使われ、好気性処理の代表格といえる。
英国マンチェスターで生まれた処理技術
起源は1914年、英国マンチェスターのデイビーハルム下水処理場でアーダーン(E. Ardern)とロケット(W. T. Lockett)が行った実験にさかのぼる。下水に空気を送り続けると褐色の沈殿物が生じ、それを捨てずに次の下水へ戻すと浄化速度が大きく上がった。この「再利用される汚泥」を彼らはactivated sludgeと名付けている。日本では1930年に名古屋市の堀留処理場と熱田処理場で運転が始まり、国内初の採用例となった。戦後の下水道整備とともに全国へ広がり、現在も標準的な二次処理の位置づけは変わっていない。
フロックが有機物を取り込む仕組み
処理の主役は、細菌や原生動物が粘性物質でまとまったフロックと呼ばれる粒子である。フロック形成菌として知られるズーグレア属の細菌が溶解性の有機物を吸着・酸化し、ツリガネムシ(ボルティセラ)などの原生動物が浮遊する細菌を捕食して処理水を澄ませる。フロックは数十〜数百μmの大きさに育ち、静置すると自重で沈む。この沈みやすさこそが、浄化した水と微生物を分離できる理由となっている。
設備は大きく2段で構成される。最初沈殿池を通った下水は反応タンク(エアレーションタンク)に入り、曝気によって活性汚泥と6〜8時間ほど接触する。反応タンクの水深は4〜6m程度が一般的で、底部の散気装置からブロワで送った空気が気泡として供給される。続く最終沈殿池で汚泥を沈め、上澄みを処理水として放流する。沈んだ汚泥の一部は返送汚泥として反応タンクへ戻され、増殖して余った分は余剰汚泥として引き抜かれる。
運転を左右する管理指標
処理の安定性は、汚泥の量・活性・沈降性をどう保つかにかかっている。標準活性汚泥法で目安とされる主な数値を以下に示す。
| 指標 | 意味 | 標準法での目安 |
|---|---|---|
| MLSS | 反応タンク内の浮遊物質濃度 | 1,500〜2,000mg/L |
| BOD-SS負荷 | 汚泥1kgが1日に受け持つBOD量 | 0.2〜0.4kg/kg・日 |
| 溶存酸素(DO) | 反応タンク内の酸素濃度 | 1〜2mg/L以上 |
| 返送汚泥率 | 流入水量に対する返送量の割合 | 20〜50% |
| SVI | 汚泥1gが占める沈降後の容積 | 50〜150mL/g |
| SRT | 汚泥がタンク内に滞留する日数 | 3〜6日 |
BOD-SS負荷は、流入水量をQ、流入BODをS0、反応タンク容量をV、MLSSをXとして、Ls = (Q × S0) ÷ (V × X) で求める。負荷が高すぎれば分解が追いつかず、低すぎれば汚泥が痩せて解体しやすくなる。BODそのものは20℃・5日間の酸素消費量として測定され、工場排水ではJIS K 0102に定める方法が基準となる。
バルキングという厄介なトラブル
SVIが200mL/gを超えると、汚泥が沈まず最終沈殿池からあふれ出すバルキングの状態に陥りやすい。原因の多くは、スフェロチルス属やミクロスリックス・パルビセラなどの糸状性細菌の異常増殖である。低DO、低負荷、栄養塩不足が引き金になりやすく、現場では顕微鏡観察で糸状菌の量を日常的に確認し、塩素の少量添加や負荷調整で対処することが多い。
処理目的に応じた変法
標準法をもとに、敷地条件や除去対象に合わせた変法がいくつも開発されてきた。代表的なものを挙げる。
- オキシデーションディッチ法:無終端の水路で長時間(24〜48時間)曝気する方式。小規模処理場に多く、運転管理が比較的容易。
- 嫌気無酸素好気法(A2O法):嫌気槽・無酸素槽・好気槽を直列に並べ、窒素とリンを同時に除去する高度処理。
- 回分式活性汚泥法(SBR):1つの槽で流入・曝気・沈殿・排出を順に繰り返す。中小工場で採用例が多い。
- 膜分離活性汚泥法(MBR):沈殿池の代わりに膜分離で固液分離し、MLSSを8,000〜12,000mg/Lまで高められる。設置面積を大幅に縮小できる。
- ステップエアレーション法:流入水を反応タンクの複数箇所へ分けて入れ、酸素需要の偏りを均す。
微生物を担体や濾材に付着させる生物膜法と比べると、浮遊型の本方式は処理能力の調整幅が広いものの、汚泥の沈降性管理に手間がかかる点で性格が異なる。
工場排水に導入するときの実務上の注意点
生活排水と違い、工場排水は成分が偏りやすい。食品工場や飲料工場の排水は糖分が多い反面、窒素やリンが不足しがちで、BOD:N:P=100:5:1を目安に尿素やリン酸を補給しなければ汚泥がうまく育たない。油分が数百mg/Lを超える場合は前段に加圧浮上装置を置かないと、フロック表面が油膜で覆われて酸素移動が阻害される。pHは6〜8の範囲に保つのが基本で、酸・アルカリ洗浄工程を持つ工場では調整槽の容量設計が処理の成否を分ける。
冬季の水温低下も見落とせない。15℃を下回ると分解速度が鈍り、硝化菌の活性はとくに大きく落ちる。立ち上げ時には近隣処理場から種汚泥を分けてもらうのが通例で、ゼロから培養すると馴致に数週間を要する。
電力と余剰汚泥にかかるコスト
運転費のうち最も大きいのは曝気用の電力で、下水処理場全体の消費電力の約40〜50%をブロワが占めるとされる。そのため散気装置を従来の散気板から微細気泡のメンブレン式散気管に替えたり、DO計と連動してブロワの風量を制御したりする省エネ改修が各地で進められてきた。
もう1つの負担が余剰汚泥である。引き抜いた汚泥は含水率99%前後と非常に水っぽく、濃縮と脱水機による処理で含水率80%程度まで下げてから搬出する。工場で発生した汚泥は産業廃棄物の汚泥区分に該当し、処分単価は地域や性状によって大きく変わる。発生量そのものを抑えるため、SRTを長めに取る運転や、汚泥減容化装置の導入を検討する事業所も少なくない。
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