浮上分離|気泡で懸濁物を浮かせて分ける技術

浮上分離

浮上分離とは、水中に浮遊する微細な固形物や油分に微小な気泡を付着させ、見かけの密度を水より小さくして水面へ浮かせ、かき取って除去する固液分離・液液分離の技術である。工場の排水処理、下水汚泥の濃縮、製紙工場の白水回収、鉱山での有用鉱物の選別など、用途は幅広い。重力による沈殿では除去に数時間を要する軽い粒子でも、気泡を利用すれば10〜30分程度で分離できる。

沈殿では取り切れない汚れ

食品工場や塗装ラインの排水には、密度が1.0 g/cm3前後の有機性浮遊物や、乳化した油分が多く含まれる。これらは沈みにくく、沈殿池の滞留時間を延ばしても処理水が濁ったままになりやすい。水質汚濁防止法の一律排水基準では、n-ヘキサン抽出物質含有量が鉱油類で5 mg/L、動植物油脂類で30 mg/Lと定められており、油分の多い工場ではこの基準を沈殿だけで満たすのは難しい。そこで、粒子を沈めるのではなく「浮かせる」発想の浮上分離が使われるようになった。

気泡が粒子を持ち上げる仕組み

水中の粒子が上昇または沈降する速度は、層流域ではストークスの式で近似できる。

v = g (ρw − ρp) d2 / (18 μ)
v:上昇速度、g:重力加速度、ρw:水の密度、ρp:粒子(気泡付着体)の見かけ密度、d:粒子径、μ:水の粘度

式からわかるように、上昇速度は密度差と粒径の2乗に比例する。気泡が付くと見かけ密度が大きく下がり、気泡と粒子が集まったフロックは径も大きくなるため、速度は急増する。気泡の付着しやすさは粒子表面の疎水性に左右され、油滴や疎水性の有機物はもともと付きやすい。親水性の粒子に対しては凝集剤や界面活性剤で表面性状を調整してから気泡と接触させる。ストークスの法則が成り立つのはレイノルズ数がおおむね1以下の範囲に限られる点にも注意したい。

気泡のつくり方による方式の違い

気泡をどう発生させるかで、装置構成も得意な対象も変わる。代表的な4方式を比べると次のとおりである。

方式 気泡の発生方法 気泡径の目安 主な用途
加圧浮上(DAF) 加圧下で空気を溶かし、大気圧へ減圧して析出 20〜100 μm 工場排水、汚泥濃縮、上水
分散空気浮上 撹拌機や散気管で空気を直接吹き込む 0.5〜2 mm 浮遊選鉱、石油系排水
電解浮上 電極で水を電気分解し、水素・酸素を発生 20〜50 μm 小規模排水、めっき排水
真空浮上 大気圧で溶かした空気を減圧下で析出 数十μm 限定的(設備が大型化しやすい)

国内の排水処理で最も普及しているのは加圧浮上である。気泡が細かく揃っており、壊れやすいフロックを崩さずに浮かせられる。電気分解を使う電解浮上は電極の消耗と電力費がかさむため、処理量の少ない現場で選ばれることが多い。

加圧浮上の設計と運転

加圧浮上装置では、処理水の一部をポンプで加圧タンクへ戻し、0.3〜0.5 MPa程度の圧力で空気を溶解させる。溶解量はヘンリーの法則に従い圧力に比例して増えるが、圧力を上げすぎると動力費が跳ね上がる。加圧水を原水に混ぜる割合(循環比)は20〜50%が一般的で、浮上槽の水面積負荷は5〜10 m3/(m2・h)程度で設計される例が多い。

設計で特に重視される指標が気固比(A/S比)である。除去すべき固形物1 kgに対して何kgの空気を供給するかを示す値で、汚泥濃縮では0.005〜0.06の範囲で設定される。下水処理場では、日本下水道協会の「下水道施設計画・設計指針と解説」を参照して余剰汚泥の加圧浮上濃縮を計画するのが通例となっている。

薬品注入のポイント

ポリ塩化アルミニウム(PAC)などの無機凝集剤でpHを6〜7付近に整え、高分子凝集剤でフロックを大きく育ててから加圧水と合流させる手順が基本である。現場では、高分子凝集剤を入れすぎるとフロックが粘ってスカムの含水率が下がらず、かき取り後の脱水機の負担が増すというトラブルがよく起きる。ジャーテストの結果をそのまま実機に当てはめず、試運転で注入率を10〜20%ずつ下げて最適点を探る運用が無難である。

鉱業で発達した浮遊選鉱

気泡を使った分離は、もとは鉱石の選別技術として発展した。20世紀初頭のオーストラリア・ブロークンヒル鉱山で、硫化鉱物を泡に付けて回収する方法が実用化され、1905年前後に英国のMinerals Separation社が関連特許を取得している。浮遊選鉱では、捕収剤(キサントゲン酸塩など)で目的鉱物だけを疎水化し、起泡剤で安定した泡層をつくって浮かせる。銅・鉛・亜鉛の硫化鉱の選鉱では現在も中心的な工程であり、粒度はおおむね10〜200 μmの範囲が処理対象とされる。排水処理の浮上分離は「汚れをすべて浮かせる」のに対し、浮遊選鉱は「狙った鉱物だけを浮かせる」点に違いがある。

導入時に見落としやすい点

沈殿池と比べた場合、加圧浮上は設置面積をおよそ1/3〜1/5に抑えられる一方、コンプレッサーや加圧ポンプの電力が常にかかる。処理量100 m3/日クラスの中小工場では、装置本体よりも薬品代とスカム処分費がランニングコストの大半を占めることが多い。浮上スカムは含水率95〜97%程度と高く、そのまま産業廃棄物として出すと処分費が膨らむため、後段の脱水設備とセットで検討すべきである。

水温の影響も無視できない。水温が下がると空気の溶解量は増えるものの、水の粘度が上がって上昇速度が落ちる。冬場に処理水の濁度が悪化する工場では、浮上槽の滞留時間に余裕を持たせるか、循環比を一時的に上げて対応している。後段に活性汚泥法を置く場合、前処理として油分を確実に除いておけば、曝気槽での汚泥の浮上や発泡トラブルを防ぎやすくなる。単純な油水分離槽で除けるのは粒径150 μm程度以上の浮上油に限られるため、乳化油が多い排水では加圧浮上の併用が現実的な選択肢となる。

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