pHメータ|水素イオン濃度を測る電気化学計測器

pHメータ

pHメータとは、溶液中の水素イオン濃度指数(pH)を電気化学的に測定する計測器である。ガラス電極と比較電極の間に生じる起電力を高入力インピーダンスの増幅回路で読み取り、pH0から14の範囲を数値として表示する。JIS Z 8802(pH測定方法)に測定手順が規定されており、化学プラントの工程管理、排水処理、食品製造、医薬品製造、農業用水の管理まで、水溶液を扱うほぼすべての産業で使われている。リトマス試験紙やpH試験紙が0.5程度の分解能しか持たないのに対し、pHメータは0.01単位、研究用の上位機種では0.001単位での測定が可能であり、定量的な品質管理には欠かせない存在となっている。

pHメータの歴史

pHという概念は1909年にデンマークの化学者セーレンセンが提唱したものである。実用的な測定器としてのpHメータは、1934年に米国のアーノルド・ベックマンがカリフォルニアの柑橘加工業者からレモン果汁の酸度測定を依頼されたことを契機に開発され、1936年に商品化された。真空管式の増幅回路でガラス電極の微弱な信号を扱えるようにした点が画期的であった。日本では戦後に堀場製作所や東亜電波工業(現・東亜ディーケーケー)が国産化を進め、1950年代以降、工業計器として普及していった。現在ではデジタル化と複合電極の一体化が進み、ポケットサイズの機種から工程用の設置型まで多様な製品が流通している。

測定原理

pHメータの測定原理はガラス電極法である。厚さ0.1〜0.3mm程度の特殊なガラス薄膜(pH応答膜)を挟んで内部液と試料液が接すると、両者のpH差に比例した起電力が膜に発生する。この起電力はネルンストの式に従い、25℃においてpH差1あたり約59.16mVとなる。内部液にはpH7の溶液が封入されているため、発生した電位差を測定すれば試料のpHが求まる。ただしガラス電極単独では電位を読み取れないため、電位が安定した比較電極(銀-塩化銀電極が主流)と対にして電池を構成する。この電池の内部抵抗は100MΩから1GΩにも達するため、通常の電圧計では測定できず、高入力インピーダンスの増幅器を備えた指示部が必須となる。起電力は温度に依存して変化することから、温度補償用のセンサーを内蔵した複合電極が現在の主流である。温度検出素子にはサーミスタや白金測温抵抗体が用いられ、原理的には熱電対と同様に温度を電気信号へ変換して補正演算に利用している。

装置の構成

pHメータは検出部(電極)、指示部(本体)、標準液の3要素で構成される。検出部はガラス電極・比較電極・温度補償電極からなり、これらを1本にまとめた複合電極が取り扱いの容易さから広く採用されている。比較電極の液絡部には内部液(3.3mol/LのKCl溶液など)が微量ずつ流出するピンホールやセラミックが設けられ、試料液との電気的導通を保つ。指示部は増幅回路、A/D変換、温度補正演算、校正データの記憶機能を担い、近年はGLP対応のデータロガー機能やUSB出力を備えた機種も多い。

種類と使い分け

形態別にはペン型・ハンディ型・卓上型・設置型(工業用)の4系統に大別される。ペン型は数千円から入手でき、水槽や農業用水の簡易チェックに向く。卓上型は分解能0.001pHクラスの精度と多点校正機能を持ち、研究室や品質管理部門で使われる。設置型は排水処理や反応槽のpHを24時間連続監視し、4-20mA出力で調節計と連動して中和剤の注入制御を行う。電極側にも用途別のバリエーションがあり、食肉やチーズに突き刺すニードル形、皮膚や紙面を測るフラット形、フッ酸を含む試料向けの耐フッ酸形などが存在する。過酷な高温プロセスではシース熱電対と同様に耐環境性を重視した電極選定が求められ、材料の熱特性を踏まえた保護管設計がなされている。

校正と標準液

ガラス電極は経時的に感度が低下するため、使用前の校正(工学)が不可欠である。校正にはJIS Z 8802に規定された標準液を用い、通常は2点または3点で行う。代表的な標準液を以下に示す。

標準液 pH値(25℃) 主な用途
フタル酸塩標準液 4.01 酸性側の校正
中性リン酸塩標準液 6.86 中性付近の基準
ほう酸塩標準液 9.18 アルカリ側の校正

開栓後の標準液には使用期限があり、pH4とpH7は約6か月、大気中の炭酸ガスを吸収しやすいpH9系は約3か月が目安とされる。一度容器から出した標準液を戻して再利用すると値が狂うため、使い切りが原則である。酸素や炭酸ガスの溶け込みが測定値に影響する点は、酸素濃度計やCO2濃度計の校正でゼロガス・スパンガスの管理が重視されるのと同じ発想であり、基準物質の品質が測定精度の上限を決める。

実務上の注意点

製造現場でトラブルの大半を占めるのは電極の保守不良である。ガラス応答膜の乾燥は感度低下の最大要因であり、保管時は先端を保護キャップ内の飽和KCl溶液に浸しておく必要がある。純水への長期浸漬は内部液の希釈を招くため避ける。液絡部の詰まりは粘性試料や懸濁液で起こりやすく、スリーブ形液絡部の電極へ切り替えると洗浄性が改善する。電極寿命は使用条件にもよるがおおむね1〜2年であり、応答が遅くなったりpH7付近から指示が動かなくなったりした場合は交換時期と判断する。導入コストの面では、汎用の卓上型が本体5万〜15万円、複合電極が1本1万〜3万円程度が相場であり、電極を消耗品として予算計上しておくことが安定運用の鍵となる。校正記録と電極の交換履歴を台帳で管理すれば、ISO 9001の監査対応にもそのまま活用できる。

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