エラストマー|常温でゴム弾性を示す高分子材料

エラストマー

エラストマーとは、常温で小さな力を加えると大きく変形し、力を取り除くとほぼ元の形に戻る性質(ゴム弾性)をもつ高分子材料の総称である。英語のelastic(弾性のある)とpolymer(重合体)を組み合わせた造語で、加硫したゴムと、加熱すると溶けて成形できる熱可塑性エラストマー(TPE)の両方を含む。一般的なゴム製品は数百%まで伸びる。ヤング率は1〜10MPa程度しかなく、数GPaの剛性をもつプラスチックと比べると、3桁ほど柔らかい材料といえる。

加硫の発見から熱可塑性タイプの登場まで

歴史の起点は1839年にさかのぼる。米国のチャールズ・グッドイヤーは、天然ゴムに硫黄を混ぜて加熱すると、夏のべたつきも冬の硬化も起こりにくくなることを発見した。この加硫技術によって、タイヤやベルトの工業生産が初めて現実のものになった。20世紀に入ると天然ゴムの供給不安を背景に合成ゴムの研究が進み、1930年代にはドイツでスチレンブタジエンゴム(SBR)、米国デュポン社でクロロプレンゴムが実用化されている。もう一つの転機は1960年代に訪れた。シェル社がスチレン系ブロック共重合体(SBS)を商品化し、加硫工程を必要としない熱可塑性タイプが市場に登場したのである。

ゴム弾性が生まれる仕組み

分子のレベルで見ると、エラストマーは糸まりのように丸まった長い鎖状分子が、ところどころで結び付いた網目構造をもつ。この結び目を架橋と呼ぶ。引っ張ると鎖はほどけて一方向にそろい、手を離せば熱運動によって再び乱雑な状態へ戻ろうとする。金属のばねが原子間距離の変化から反発力を生むのに対し、こちらは乱雑さ(エントロピー)の回復が戻る力の源になっている。理想的なゴムの応力は、次の式で近似できる。

σ = NkT(λ − 1/λ2)

σは応力、Nは単位体積あたりの網目鎖の数、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、λは伸長比を表す。式に温度Tが含まれるため、引き伸ばしたゴムを温めると縮もうとする力が強くなる。この現象はグー・ジュール効果として知られている。

ガラス転移点との関係

鎖が自由に動けるのは、ガラス転移点(Tg)より高い温度域に限られる。天然ゴムのTgは約−70℃、シリコーンゴムは約−120℃と低いため、室温では十分に柔らかい。Tgを下回ると分子運動が凍りつき、材料はガラスのように硬く脆くなる。1986年のスペースシャトル・チャレンジャー号事故では、低温で弾性を失ったOリングが燃焼ガスを封じきれなかったことが原因の一つとされた。

熱硬化性と熱可塑性 ― 2つの系統

現在のエラストマーは、結び目の作り方によって大きく2系統に分かれる。加硫ゴムは分子同士を共有結合でつなぐため、性質としては熱硬化性樹脂に近く、一度固めると再び溶かすことはできない。これに対してTPEは、硬い部分(ハードセグメント)が集まってできる物理的な結び目を利用する。加熱すれば結び目がほどけて流動するので、熱可塑性樹脂と同じ設備で成形できる。

項目 熱硬化性(加硫ゴム) 熱可塑性(TPE)
架橋の種類 化学架橋(共有結合) 物理架橋(ハードセグメントの凝集)
主な成形法 プレス・トランスファー成形+加硫 射出成形・押出成形
成形サイクル 数分〜数十分 数十秒程度
端材の再利用 困難 スプルーやランナーを再溶融して使える
高温での復元性 優れる 70〜120℃付近から低下しやすい
代表例 NR、SBR、EPDM、NBR、FKM SBS、TPO、TPV、TPU

熱可塑性エラストマーの主な種類

TPEの名称と略号は国際規格ISO 18064で整理されている。代表的なものは次のとおりである。

  • TPS(スチレン系):柔軟で加工しやすく、日用品のグリップや玩具に多い
  • TPO(オレフィン系):軽量で耐候性があり、自動車のバンパー表皮などに使われる
  • TPV(動的架橋型):ゴム粒子をPP中に分散させた材料で、加硫ゴムに近い復元性をもつ
  • TPU(ウレタン系):耐摩耗性が高く、靴底やホース、フィルムに向く
  • TPC(ポリエステル系):耐熱性と耐屈曲疲労性に優れ、等速ジョイントのブーツに採用される

製造現場での材料選定とコスト感

シール材を選ぶ場面では、使用温度と接触する流体から候補を絞るのが定石である。鉱物油に触れるならNBR、屋外や温水、グリコール系ブレーキ液ならEPDM、200℃前後の高温域ならフッ素ゴム(FKM)やシリコーンゴムが候補に挙がる。図面には「NBR 硬さA70」のように材質とデュロメータ硬さを並べて書く例が多い。原料ポリマーの単価はFKMが汎用EPDMの10倍を超えることも珍しくない。そのため、Oリング1個でも材質の指定ひとつで調達コストが大きく変わる。

TPEへ切り替える際の注意点

加硫ゴムからTPEへの置き換えは、金型内での加硫時間がなくなる分、量産品の単価を下げやすい。PPとの二色成形で接着剤なしに一体化できる点も、工程短縮につながる。ただし、高温で長時間押しつぶされる用途ではへたりが出やすく、エンジンルーム周辺のシールには今も加硫ゴムが主流として残る。TPUやTPCは吸湿しやすい材料でもある。成形前に80〜110℃で数時間の予備乾燥を怠ると、表面のシルバーストリークや強度低下を招く。

物性評価と関連規格

国内では、ゴム・TPEの試験方法がJISで細かく定められている。硬さはJIS K 6253に基づくデュロメータ(タイプA)で測り、柔らかい消しゴム程度がA30前後、一般的なOリングがA70前後にあたる。引張強さと切断時伸びはJIS K 6251に従い、ダンベル状3号形の試験片を使うのが標準的である。シール性能の目安になる圧縮永久ひずみはJIS K 6262で規定され、試験片を25%圧縮したまま一定時間加熱し、どれだけ元の厚さに戻らないかを百分率で示す。ゴムの略号についてはISO 1629が基準となる。

身近な製品から先端分野まで

ゴム消費の大半を占めるのは自動車用タイヤであり、ほかにも防振ゴム、ホース、ベルト、パッキンなど機械部品の多くがエラストマーに支えられている。医療分野では、生体適合性に優れるシリコーンやポリウレタン系の材料がカテーテルやチューブに使われる。スマートフォンケースや運動靴のソールも身近な例である。研究の最前線では、電圧をかけると伸び縮みする誘電エラストマーを人工筋肉に応用する試みが進み、柔らかい素材で動くソフトロボットの駆動源として注目を集めている。

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