高分子材料
高分子材料とは、分子量がおおむね1万以上の巨大な分子(高分子)を主成分とする材料の総称である。小さな単位分子(モノマー)が数百から数万個つながった鎖状、あるいは網目状の構造をもち、プラスチック、合成ゴム、合成繊維、塗料、接着剤などとして使われている。木材や綿、羊毛のような天然物も高分子でできており、人類はそれと知らずに古くから高分子を利用してきた。軽くて加工しやすく、電気を通しにくいため、自動車部品から医療器具、包装材まで用途は非常に広い。
高分子という概念が生まれるまで
最初の完全合成樹脂は、1907年にベークランドが開発したフェノール樹脂「ベークライト」とされる。ただ、当時は「巨大な分子」という考え方そのものが受け入れられていなかった。ゴムやセルロースは小さな分子が集まった会合体にすぎない、という見方が主流だったのである。この常識を覆したのがドイツの化学者シュタウディンガーで、1920年に共有結合でつながった長い鎖という高分子説を提唱した。激しい論争を経て説は認められ、彼は1953年にノーベル化学賞を受けている。1935年にはデュポン社のカロザースがナイロン66を合成し、1938年の商業化によって合成繊維の時代が幕を開けた。1950年代にはチーグラー・ナッタ触媒が登場し、ポリエチレンやポリプロピレンを低い圧力で大量生産できるようになった。
分子量と鎖の構造
高分子は同じ長さの分子だけで構成されるわけではない。重合の過程で長い鎖と短い鎖が混じるため、分子量には必ず分布が生じる。そこで数平均分子量 Mn と重量平均分子量 Mw の2つを用い、その比 Mw/Mn を分散度(多分散度)として分布の広さを表す。値が1に近いほど分子の長さがそろっていることを意味し、一般的な工業用樹脂では2~10程度になることが多い。鎖の形にも違いがあり、直鎖状、枝分かれをもつ分岐状、鎖どうしが結ばれた架橋(網目)状の3つに大別される。同じポリエチレンでも、分岐の多い低密度品(LDPE)は柔らかく、分岐の少ない高密度品(HDPE)は硬くて強い。
結晶性と非晶性
鎖が規則正しく折りたたまれた部分を結晶、絡まったまま乱れた部分を非晶という。非晶部分が硬いガラス状からゴム状へ変わる温度をガラス転移点(Tg)、結晶が溶ける温度を融点(Tm)と呼ぶ。たとえばポリスチレンのTgは約100℃、PETはTgが約70℃でTmが約255℃、HDPEのTmは約130℃である。使用温度の上限を考えるうえで欠かせない指標となる。
熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂
熱に対するふるまいの違いから、合成樹脂は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に分けられる。前者はチョコレートのように温めると柔らかくなり、冷やすと固まる。後者は加熱で化学反応が進んで網目構造ができ、一度固まると再び溶かすことはできない。両者の主な違いを下表に示す。
| 項目 | 熱可塑性樹脂 | 熱硬化性樹脂 |
|---|---|---|
| 分子構造 | 直鎖状・分岐状 | 三次元網目状 |
| 再加熱 | 軟化・溶融する | 溶融せず、高温で分解 |
| 代表例 | PE、PP、PVC、PS、PA | フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル |
| 主な成形法 | 射出成形、押出成形、ブロー成形 | 圧縮成形、トランスファー成形 |
| リサイクル | 再溶融による再生が可能 | マテリアルリサイクルは困難 |
汎用プラスチックからスーパーエンプラまで
生産量が多く価格の安い樹脂は汎用プラスチックと呼ばれる。なかでも次の5種類は「五大汎用樹脂」として知られ、国内樹脂生産量の大半を占めている。
- ポリエチレン(PE):レジ袋、食品容器、灯油タンク
- ポリプロピレン(PP):自動車バンパー、家電筐体、食品容器
- ポリ塩化ビニル(PVC):水道管、電線被覆、床材
- ポリスチレン(PS):発泡スチロール、CDケース
- ABS樹脂:家電外装、玩具、事務機器
これに対し、100℃以上の環境で長く使え、引張強さがおおむね49MPa以上ある樹脂をエンジニアリングプラスチック(エンプラ)という。ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)などが該当する。150℃を超える耐熱性をもつPEEKやPPSはスーパーエンプラと呼ばれ、航空機部品や半導体製造装置に採用されている。価格差は大きく、汎用樹脂が1kgあたり200~300円程度で取引される一方、PEEKは1kgあたり数千円から1万円を超えることも珍しくない。そのため設計現場では「必要な耐熱温度を満たす、いちばん安い樹脂」を選ぶのが基本の考え方になっている。
天然高分子という選択肢
自然界にも高分子はあふれている。植物の細胞壁をつくるセルロースは地球上で最も多い有機化合物とされ、紙や綿、レーヨンの原料になる。デンプン、タンパク質、DNAも天然高分子の仲間である。天然ゴムはパラゴムノキの樹液から得られるポリイソプレンで、1839年にグッドイヤーが硫黄による加硫法を見いだしてから工業材料として広まった。現在も大型トラックや航空機のタイヤには、発熱が少なく裂けにくい天然ゴムが多く配合されている。
成形現場で気をつけること
熱可塑性樹脂の加工では射出成形が最も一般的な方法である。樹脂ペレットを200~300℃前後で溶かし、金型に高圧で流し込んで冷やし固める。現場で見落とされやすいのが予備乾燥だ。PC、PA、PETなどは空気中の水分を吸いやすく、湿ったまま成形すると加水分解によって分子量が下がり、製品の強度不足や銀色の筋(シルバーストリーク)が発生する。PCの場合、120℃で3~4時間程度乾燥させ、水分率を0.02%以下に抑えるのが一つの目安となっている。材料メーカーのデータシートに記載された条件を守ることが、不良率を下げる近道といえる。
物性評価に使われる規格
樹脂の性能比較には共通の試験方法が欠かせない。日本では引張特性をJIS K 7161(ISO 527対応)、溶融時の流れやすさを示すメルトフローレート(MFR)をJIS K 7210(ISO 1133対応)、DSCによる転移温度の測定をJIS K 7121で定めている。調達担当者がグレードを比べる際も、これらの規格に沿った数値かどうかをまず確認する。
大量消費が生んだ課題
世界のプラスチック生産量は2020年代に入って年間4億トンを超えた。便利さと引き換えに、海洋プラスチックごみやマイクロプラスチックが深刻な環境問題として注目されるようになっている。日本では2022年4月にプラスチック資源循環促進法が施行され、設計段階から回収、再資源化までを見通した取り組みが事業者に求められるようになった。微生物によって分解される生分解性プラスチックや、植物由来のバイオマスプラスチックの開発も進む。ただし、生分解性樹脂の多くは汎用樹脂より価格が数倍高く、分解に必要な温度や湿度の条件も限られている。高分子材料の選定では、性能やコストに加えて廃棄後の行き先まで視野に入れる時代になったといえる。
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