合成ゴム|石油から生まれる弾性高分子材料

合成ゴム

合成ゴムは、石油や天然ガスから得られるモノマーを化学的に重合して作る弾性高分子材料の総称である。天然ゴムの代わりとして20世紀前半に開発が進み、現在では世界のゴム消費量の半分以上を占めている。原料の組み合わせや重合条件を変えると、耐油性・耐熱性・耐候性などの性質を用途に合わせて設計できる。自動車のタイヤから機械のシール材、医療用品まで、身の回りの多くの製品に使われている。

開発の歴史

工業規模で作られた最初の合成ゴムは、1909年にドイツ・バイエル社のフリッツ・ホフマンが特許を取ったメチルゴムとされる。第一次世界大戦中、海上封鎖で天然ゴムの輸入を断たれたドイツは約2,350tのメチルゴムを生産した。しかし品質は低く、戦後まもなく姿を消している。転機は1930年前後に訪れた。IGファルベン社がブタジエンとスチレンを共重合した「ブナS」(現在のSBR)を開発し、米国では1931年にデュポン社がクロロプレンゴムを発売した。第二次世界大戦で東南アジアの天然ゴム産地を失った米国は、政府主導で増産計画を進めた。1945年には年産約80万tに達したといわれる。日本では1957年に日本合成ゴム(現JSR)が設立され、1960年に四日市工場で国産SBRの生産が始まった。

天然ゴムとの違い

天然ゴムはパラゴムノキの樹液から採れるシス-1,4-ポリイソプレンで、引張強さや反発弾性に優れ、発熱も少ない。ただ、分子中に二重結合を多く含むため、オゾンや紫外線で劣化しやすい。鉱物油に触れると大きく膨らむ点も弱点である。合成ゴムは分子の骨格や側鎖を選んで作れるので、これらの弱点を補った材料を用意できる。たとえば、主鎖に二重結合をほとんど持たないEPDMは、屋外で20年以上使われる例もあるほど耐候性が高い。その反面、補強材を入れない状態では強度の低い品種が多く、カーボンブラックやシリカを加えることで初めて実用的な物性になる。実際のタイヤでも天然ゴムとSBR・BRを混ぜて使うのが普通で、両者は競合というより補い合う関係にある。

重合プロセス

製法は大きく2つに分かれる。1つは水の中でモノマーを石けん(乳化剤)で細かく分散させ、ラジカル開始剤で重合させる乳化重合である。1940年代後半に、反応温度を約50℃から5℃前後まで下げた「コールドラバー」が実用化され、強度と加工性が大きく良くなった。現在のE-SBRもこの方式で作られている。もう1つは、炭化水素系の溶媒にアルキルリチウムやチーグラー・ナッタ触媒を入れて重合する溶液重合である。分子量の分布やミクロ構造(ビニル結合の量など)を細かく調整できるため、低燃費タイヤ向けのS-SBRや、シス結合が95%を超えるハイシスBRはこちらで作られる。重合後は凝固・洗浄・乾燥の工程を経て、ブロック状のベールに成形して出荷される。

主な種類と特性

品種は数十種類に及ぶが、使われる量が多いのはタイヤに使われる汎用ゴムである。耐油性や耐熱性が必要な部品には特殊ゴムが選ばれる。代表的な品種を下の表に示す(使用温度はおおよその目安)。

略号 名称 使用温度の目安 特徴 主な用途
SBR スチレンブタジエンゴム -50~100℃ 生産量が最も多く、耐摩耗性が良い タイヤトレッド、靴底
BR ブタジエンゴム -70~100℃ 反発弾性と低温特性に優れる タイヤ、ゴルフボール芯材
NBR ニトリルゴム -30~120℃ 鉱物油・燃料油に強い Oリング、オイルシール
CR クロロプレンゴム -40~100℃ 耐候性・難燃性のバランスが良い 伝動ベルト、接着剤、ウェットスーツ
IIR ブチルゴム -50~120℃ 気体を通しにくい タイヤのインナーライナー
EPDM エチレンプロピレンゴム -50~150℃ 耐候性・耐スチーム性に優れる ウェザーストリップ、ラジエーターホース
VMQ シリコーンゴム -60~200℃ 使える温度範囲が広い 食品・医療部品、キーパッド
FKM フッ素ゴム -20~230℃ 耐熱性・耐薬品性が最も高いクラス 燃料系シール、半導体装置

略号のルール

略号はJIS K 6397(ISO 1629に対応)で決められている。末尾の文字は主鎖の種類を表し、「R」は二重結合を持つ不飽和の主鎖、「M」は飽和したポリメチレン主鎖、「Q」はケイ素と酸素からなる主鎖を指す。末尾がMのEPDMやFKMが熱やオゾンに強いのは、この主鎖構造によるものである。

配合と加硫

重合したままの生ゴムは、温めると柔らかく流れ、冷やすと硬くなる。そのままでは製品にならない。混練機で各種の薬品を練り込み、型に入れて140~180℃程度で加熱し、分子どうしを橋かけする加硫を行うことで、はじめて弾性体になる。主な配合剤は次のとおり。

  • 補強剤:カーボンブラック、シリカ(強度・耐摩耗性を上げる)
  • 加硫剤:硫黄、有機過酸化物、ポリオール系など
  • 加硫促進剤:チアゾール系、スルフェンアミド系など
  • 老化防止剤:アミン系、フェノール系
  • 軟化剤・可塑剤:プロセスオイル、エステル類

練りやすさの指標にはムーニー粘度(ML1+4、100℃)が使われる。値が高すぎると押出し時に発熱して早期加硫(スコーチ)が起きやすく、低すぎると成形品の寸法が安定しない。EPDMやFKMは硫黄では加硫しにくいため、過酸化物やポリオールで架橋する配合が主流になっている。

現場での材料の選び方

シール材の材料選びでは、まず安価なNBRを標準とし、温度や流体の条件が厳しい場合にだけ上位の材料へ切り替えるのが一般的である。FKMの材料単価はNBRの数倍から10倍以上になることもあるので、全部の部品をFKMにすればよいわけではない。よくある失敗は、EPDMを鉱物油系の作動油に使ってしまうケースである。EPDMは水・スチーム・グリコール系ブレーキ液には強いが、鉱物油ではすぐに膨らんで使えなくなる。逆にNBRはブレーキ液に弱い。NBRの中でもアクリロニトリルの含有量(約18~50%)によって性質が変わり、含有量が多いほど耐油性は上がる一方、低温で硬くなりやすい。寒冷地で使う設備では、この含有量まで指定して注文することもある。なお、加硫工程がいらない熱可塑性エラストマーへの置き換えも、自動車の内装部品などで進んでいる。

品質評価と試験規格

加硫ゴムの物性はJISの試験方法で評価する。合成ゴム製品の図面や購入仕様書でよく使われる規格は以下のとおり。

  • JIS K 6251:引張強さ・切断時伸びの測定
  • JIS K 6253:硬さ(デュロメータ硬さA形が標準)
  • JIS K 6257:熱老化特性(高温で保持した後の物性変化)
  • JIS K 6258:耐液性(油や薬品への浸せき後の体積変化)
  • JIS K 6262:圧縮永久ひずみ(シール性能の目安)

Oリングなどのシール部品では、硬さと圧縮永久ひずみの数値がそのまま漏れにくさに関係する。そのため、受入検査ではこの2項目を重点的に確認する工場が多い。エラストマー全般に共通する評価方法なので、新しい材料を採用するときも同じ試験で比較できる。

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