カーボンブラック|ゴムを強くする微細な炭素の黒色粉末

カーボンブラック

カーボンブラックは、炭化水素を不完全燃焼あるいは熱分解させて得られる、直径3〜500nm程度の微細な炭素粒子である。外観は真っ黒な粉末で、成分の95%以上を炭素が占める。いわゆる「すす」と同じ仲間ではあるものの、粒子径や表面状態を制御して製造される点で区別される。工業的にはゴムの補強材として最も多く使われ、世界の年間生産量はおよそ1,500万トンに達する。そのうち約7割がタイヤ向けで、残りが工業用ゴム製品、黒色顔料、導電材料などに振り向けられている。

墨から工業材料へ至る歴史

油や松脂を燃やして集めたすすは、古代中国や日本で墨の原料として使われてきた。これがランプブラックの起源にあたる。近代的な量産が始まったのは1870年代の米国で、天然ガスの炎を鉄製のチャンネル(溝形鋼)に当て、付着したすすをかき取る「チャンネル法」が普及した。転機は1910年代に訪れる。ゴムに混ぜると引張強さや耐摩耗性が飛躍的に高まることが知られ、自動車の普及とともに需要が急増した。1943年には米国のフィリップス石油が重質油を原料とするオイルファーネス法を実用化し、収率と品質の安定性でチャンネル法を大きく上回った。現在の生産量の90%以上は、このファーネス法によるものである。

製造法ごとの違い

原料と反応方式によって、得られる粒子の大きさや性質は大きく変わる。主要な製法を比べると次のとおりである。

製法 主な原料 平均粒子径 特徴・主用途
ファーネス法 芳香族系重質油、天然ガス 10〜80nm 品種の幅が広く、ゴム用・顔料用の大半を占める
サーマル法 天然ガス 120〜500nm 大粒径で低補強。シール材や充填剤向け
アセチレン法 アセチレン 30〜50nm 高純度・高ストラクチャーで導電性に優れる
チャンネル法 天然ガス 10〜30nm 表面酸化物が多い。収率が低く現在はほぼ廃れた
ランプ法 鉱物油、コールタール 50〜100nm 墨や特殊顔料など少量用途

ファーネス法の工程

耐火物で内張りした反応炉で燃料を燃やし、1,400〜1,800℃の高温ガス流をつくる。そこへ原料油を噴霧すると、油は瞬時に分解して炭素粒子が生成する。反応の骨格は CnHm → nC + (m/2)H2 で表される。生成から数ミリ秒〜数十ミリ秒のうちに水噴霧で急冷(クエンチ)して反応を止め、バグフィルターで捕集する。クエンチ位置を数十cmずらすだけで比表面積が変わるため、炉内滞留時間の管理が品種づくりの要となる。

粒子径とストラクチャーという二つの物差し

性能を左右する指標は、大きく分けて二つある。一つは一次粒子の大きさで、通常は比表面積として評価される。JIS K 6217-1のよう素吸着量や、窒素吸着によるBET法が代表的な測定法である。粒子が細かいほど補強効果は強まるが、分散しにくく、ゴムの発熱も大きくなる。もう一つは「ストラクチャー」と呼ばれる凝集構造の発達度合いを指す。一次粒子は炉内でぶどうの房のように融着しており、この連なりが長いほど配合物の粘度と弾性率が上がる。ストラクチャーはJIS K 6217-4に定めるDBP(フタル酸ジブチル)吸収量で測る。両者の組み合わせで品種の性格がほぼ決まると考えてよい。

ASTM D1765によるゴム用品種の分類

ゴム用のカーボンブラックは、ASTM D1765に従い「N」または「S」に3桁の数字を続けて表記する。Nは通常の加硫速度、Sは加硫遅延型を意味し、最初の数字が粒子径の区分を示す。現場でよく流通する品種を挙げておく。

  • N110(SAF):粒子径11〜19nm。耐摩耗性が最も高く、大型トラック用トレッドに使う
  • N220(ISAF):20〜25nm。乗用車用トレッドの主力
  • N330(HAF):26〜30nm。汎用性が高く、トレッドからベルト類まで幅広く使う
  • N550(FEF):40〜48nm。押出加工性に優れ、サイドウォールやホース向け
  • N660(GPF):49〜60nm。インナーライナーやカーカスに多い
  • N774(SRF):61〜100nm。低補強で、防振ゴムや一般工業用品に使う

配合現場での使い分けとコスト感

小粒径品は単価が高いだけでなく、バンバリーミキサーでの混練時間が延び、電力コストもかさむ。そのため実務では、要求性能を満たす範囲でできるだけ大きい粒径を選ぶのが定石となっている。荷姿にも注意したい。ゴム用は嵩密度0.35〜0.5g/cm3程度のペレット品が主流で、粉立ちが少なく自動計量に向く。塗料や印刷インキ向けには分散性を優先して粉末品(フラッフィー)が選ばれるが、嵩密度が0.1g/cm3前後と軽く、サイロやフレキシブルコンテナからの払い出しでブリッジを起こしやすい。

近年の低燃費タイヤでは、転がり抵抗を下げる目的でトレッドの補強材をシリカに置き換える動きが進んだ。シリカはシランカップリング剤と併用しないと十分に補強できず、混練温度を140〜160℃に保つ厳密な管理が必要になる。それでも導電性の確保や耐候性の点で黒色粒子は欠かせず、両者を併用する配合が一般的である。電池分野では、アセチレンブラックやケッチェンブラックがリチウムイオン電池の正極導電助剤として数wt%添加されている。

取り扱い上の安全と環境面の課題

国際がん研究機関(IARC)は2006年、カーボンブラックをグループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)に分類した。国内では労働安全衛生法に基づくSDSの交付対象となっており、投入口には局所排気装置を設け、作業者には防じんマスクを着用させる。微粉は可燃性で、空気中に高濃度で舞うと粉じん爆発の危険もあるため、集じん系統の静電気対策を怠れない。環境面では、製造時に多量のCO2を排出する点が課題とされる。その対策として、廃タイヤを熱分解して回収する再生品(rCB)の利用が欧州を中心に広がりつつあり、ASTM D8178などで評価方法の標準化も進められている。

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