不完全燃焼
不完全燃焼とは、燃料が十分な酸素と反応できず、可燃成分の一部が酸化されないまま残る燃焼状態を指す。炭素を含む燃料が完全に酸化されれば最終生成物は二酸化炭素と水になるが、酸素不足や温度不足があると一酸化炭素、煤(すす)、未燃の炭化水素が発生する。家庭用ガス機器による中毒事故から、工業用ボイラーの効率低下、自動車排ガスの環境負荷まで、影響の及ぶ範囲は広い。
化学反応式で見る完全燃焼との違い
差がはっきり表れるのは、炭素1molあたりの発熱量である。完全燃焼の反応 C + O2 → CO2 では約394kJが放出される。ところが C + 1/2O2 → CO で反応が止まった場合、得られる熱は約111kJにすぎない。残りの約283kJは一酸化炭素の中に化学エネルギーとして閉じ込められたまま排出される。つまり燃料の3分の2以上のエネルギーを捨てているのと同じ状態になる。
完全燃焼と不完全燃焼の比較
両者の違いは、炎の見た目、生成物、熱効率など複数の観点から整理できる。都市ガス(主成分メタン)を例にすると、次の表のようになる。
| 項目 | 完全燃焼 | 不完全燃焼 |
|---|---|---|
| 主な生成物 | CO2、H2O | CO、煤、未燃炭化水素、H2 |
| 炎の色(ガス) | 青色で短く安定 | 黄色〜赤色で長く揺らぐ |
| 炭素1molあたりの発熱 | 約394kJ | 約111kJ(CO生成時) |
| 排ガス中のCO | 数十ppm以下 | 数百〜数千ppmに達することもある |
| 設備への影響 | 伝熱面が清浄に保たれる | 煤が付着し伝熱が阻害される |
発生する主な条件
原因を一つに絞れない場合も多い。現場では複数の要因が重なって起こることが一般的で、代表的な条件は以下のとおりである。
- 供給空気量が理論空気量を下回る、または換気不足で室内の酸素濃度が低下している
- 燃料と空気の混合が不十分で、局所的に燃料過多の領域ができる
- 炉内温度が低く、着火温度付近で反応が停滞する
- 炎が冷えた伝熱面に接触し、反応途中で急冷される(クエンチング)
- 重油や微粉炭の粒径が大きく、燃焼室内での滞留時間内に燃え切らない
燃料ごとの空気比の目安
実際に供給した空気量Aと理論空気量A0の比を空気比と呼び、m = A / A0 で表す。混合しやすい気体燃料ではm = 1.05〜1.2程度、液体燃料で1.1〜1.3程度、固体燃料では1.2〜1.5程度に設定するのが通例である。燃料が重く混ざりにくいほど、余分な空気を与えなければ燃え残りが生じやすい。
現場で気づける兆候
ガスコンロや給湯器で炎が黄色く伸びていたら要注意。バーナーのノズル詰まりや空気取入口のほこりが典型的な原因で、清掃だけで青炎に戻るケースも少なくない。工業炉では煙突からの黒煙、炉壁や熱交換器の煤汚れ、排ガス温度の上昇が目安になる。煤が1mm付着すると伝熱性能は数%単位で落ちるといわれ、燃料消費の増加というかたちで後からコストに表れる。
一酸化炭素による人体への危険
一酸化炭素は無色・無臭で、ヘモグロビンとの結合力が酸素の約200〜250倍に及ぶ。そのため低濃度でも血液の酸素運搬能力を奪い、一酸化炭素中毒を引き起こす。日本産業衛生学会は作業環境の許容濃度を50ppmとしている。建築物衛生法では2022年の改正により、室内のCO濃度基準が10ppm以下から6ppm以下へ引き下げられた。冬季に換気をせず開放型ストーブを使い続けると、室内の酸素が減って燃焼がさらに悪化し、CO発生量が急増するという悪循環に陥る。
ボイラー・工業炉での管理実務
ここで問題になるのが、空気を増やせば解決するわけではないという点である。空気比を上げすぎると、燃焼に使われない窒素や酸素を加熱して煙突から捨てることになり、排ガス損失が増える。目安として、空気比が0.1上がるごとにボイラー効率はおよそ0.5〜1%低下する。省エネ法の工場判断基準でもボイラーごとに基準空気比が定められており、多くの工場は「COが出ない範囲で、できるだけ空気比を下げる」運転を目標にしている。
実務では、排ガス中のO2濃度計とCO濃度計を併用する管理が主流となっている。O2計だけを見て空気を絞ると、バーナーの経年劣化で混合が悪くなった時に気づかず、CO濃度が急に跳ね上がることがある。設備更新の予算が限られる中小工場では、まず年1回の燃焼調整とバーナーチップの交換から始めるほうが費用対効果が高い。数十万円規模の調整費で、燃料費を年間で数%削減できた事例もある。ただしO2トリム制御のような自動制御は、蒸発量が1時間あたり数t以上の中・大型ボイラーでなければ投資回収に時間がかかる。
排ガス分析と関連規格
排ガス中の一酸化炭素の測定方法はJIS K 0098に規定されており、非分散形赤外線吸収法などが用いられる。煤じんについては大気汚染防止法の排出基準が施設の種類と規模ごとに設定されている。内燃機関では、排ガス中のCOやHCを三元触媒で酸化処理し、熱効率と排出規制を両立させる手法が採られている。測定値が基準内であっても、COの値が徐々に上がっているなら燃焼状態が劣化し始めているサインと考えたい。数値の推移を記録しておくことが、事故と無駄な燃料消費の両方を防ぐ手がかりになる。
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