粉じん爆発
粉じん爆発とは、空気中に浮遊した可燃性の微粉が一定以上の濃度に達したところで着火源に触れ、急激な燃焼によって圧力上昇と火炎を伴う爆発を起こす現象である。小麦粉や砂糖などの食品、石炭、アルミニウム粉、樹脂の粉体など、塊の状態では燃えにくい物質でも、細かく砕かれて空気と混ざると爆発性を帯びる。着火に必要なエネルギーは可燃性ガスより大きいが、燃焼時間が長く発生エネルギーも大きいため、建屋全体の倒壊や多数の死傷者につながりやすい。
記録に残る事故の歴史
最古の記録とされるのは、1785年にイタリア・トリノのパン屋の小麦粉倉庫で起きた爆発である。産業革命以降は炭鉱での炭じん爆発が相次ぎ、日本では1963年11月の三井三池三川炭鉱で死者458名という戦後最悪級の労働災害が発生した。炭鉱が減った現代でも事故は絶えない。2008年には米国ジョージア州の精糖工場で砂糖粉じんが爆発して14名が死亡し、2015年には台湾・新北市の野外イベントで散布されたカラーパウダーに引火し、15名が亡くなっている。工場の外でも起こりうる事故として、社会に強い印象を残した。
発生に必要な5つの条件
一般的な燃焼は「燃料・酸素・着火源」の燃焼の三要素で説明される。これに対して粉じん爆発は、さらに2つの条件を加えた「爆発五角形」で整理されることが多い。
- 可燃性の粉じん(燃料)
- 支燃性ガスとしての酸素
- 着火源(火花、高温表面、静電気放電など)
- 粉じんが空気中に分散・浮遊していること
- ダクトや容器、建屋などの閉鎖空間
床に積もっているだけの粉は燃えても爆発には至らない。舞い上がって雲状になり、しかも閉じ込められて初めて圧力が急上昇する。対策を考える際は、5つのうちどれか1つを確実に断つという発想が基本になる。
爆発の激しさを示す指標
爆発の強さは、密閉容器内で測定した最大爆発圧力Pmaxと最大圧力上昇速度で評価する。容器の大きさによらない比較のため、立方根則に基づく爆発指数KStが使われる。
KSt = (dp/dt)max × V1/3 [bar・m/s]
(V:試験容器の容積[m3])
有機系の粉じんのPmaxはおおむね7〜10 bar程度に収まるが、金属粉では10 barを超える例もある。KStの値によって、次のようなクラスに分類される。
| クラス | KSt[bar・m/s] | 爆発の強さ | 代表的な粉じんの例 |
|---|---|---|---|
| St 0 | 0 | 爆発しない | 石灰石粉、砂など |
| St 1 | 0〜200 | 弱〜中程度 | 小麦粉、石炭、木粉 |
| St 2 | 200〜300 | 強い | 一部の樹脂粉、有機顔料 |
| St 3 | 300超 | 非常に強い | アルミニウム粉、マグネシウム粉 |
最小着火エネルギーと爆発下限濃度
着火のしやすさは最小着火エネルギー(MIE)で表す。可燃性ガスが0.02〜0.3 mJ程度なのに対し、粉じんは1 mJ前後から数百mJまで幅広い。爆発下限濃度は多くの物質で20〜60 g/m3程度で、目の前の手がかすむほどの濃さに相当する。測定方法はJIS Z 8818、爆発圧力と圧力上昇速度はJIS Z 8817に規定されている。粒径が小さいほど比表面積が増えて危険性は高まり、米国NFPA 652では粒径500 μm以下を可燃性粉じんの目安としている。
被害を拡大させる二次爆発
本当に恐ろしいのは二次爆発である。装置内の小さな一次爆発で生じた衝撃波が、梁や配管の上に積もった粉じんを一気に舞い上げ、そこへ火炎が到達して建屋全体を巻き込む連鎖爆発を起こす。NFPA 654では、厚さ約0.8 mm(1/32インチ)の堆積が床面積の5%を超えると危険とみなす目安を示している。うっすら床の色が見えなくなる程度の堆積でも、条件次第で十分な燃料となる。
工場に潜む着火源
着火源として最も見落とされやすいのが静電気である。人体からの放電は数mJから数十mJに達することがあり、MIEの低い粉じんなら十分に着火しうる。サイロへの投入時に起こるコーン放電や、絶縁性配管での沿面放電も要注意である。そのほか、粉砕機やコンベヤ内への異物混入による摩擦火花、ベアリングの過熱、乾燥機の高温表面、補修時の溶接火花なども典型的な原因になる。設備の保全工事中に事故が起きる割合が高い点は、現場担当者なら意識しておきたい。
予防と被害緩和の考え方
対策は「起こさない」予防策と「起きても被害を抑える」緩和策の二本立てで考える。予防策としては、粉じん漏洩の防止と定期清掃、接地・ボンディングによる帯電防止、異物除去用のマグネットセパレータ設置などがある。窒素を封入して酸素濃度を限界酸素濃度(多くの有機粉じんで8〜12 vol%程度)以下に保つ不活性化も有効である。緩和策には、圧力を逃がす爆発放散口(ベント)、圧力上昇を検知して消火剤を瞬時に噴射する爆発抑制装置、ダクトを通じた火炎伝播を止める隔離弁が挙げられる。
実務上、事故の発生箇所として突出して多いのが集じん機、特にバグフィルター式の装置である。屋外設置でベントを外気側に向けるのが最も安価な対策で、屋内に置かざるを得ない場合は火炎を外に出さないフレームレスベントを選ぶことになる。フレームレスベントは通常のベントパネルより数倍高価になることが多く、設備計画の初期段階で設置場所を決めておくことがコスト面でも効いてくる。
日本の法規制と規格
国内では労働安全衛生規則第261条が、可燃性の粉じんによる爆発・火災の危険がある場所での換気や除じんを事業者に義務づけている。第281条・第282条では、可燃性粉じんや爆燃性粉じん(アルミニウム粉、マグネシウム粉など)が存在する場所で使う電気機械器具に防爆構造を求めている。防爆電気機器の国際規格としてはIEC 60079-31(容器による粉じん防爆「t」)があり、国内の型式検定もこれと整合した技術基準に沿って行われる。
業種別に見たリスクの傾向
食品業界では小麦粉、でん粉、粉乳、砂糖を扱う製粉・製菓工場が代表的で、サイロやバケットエレベータでの事故が目立つ。金属加工では、アルミニウムの研磨粉を湿式集じん機で処理する際、水との反応で発生する水素が別の爆発リスクになる点に注意が要る。近年は3Dプリンター向けの金属粉末やリチウムイオン電池材料など、粒径数十μm以下の微粉を扱う工程が増えた。木工所の木粉や医薬品工場の原薬粉体も含め、「普段は燃えにくい材料だから大丈夫」という思い込みこそが最大の落とし穴である。新しい材料を導入する際は、まず爆発特性値を測定し、KStとMIEを把握してから設備仕様を決めるのが現場での定石である。
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