天然ガス
天然ガスとは、地下の地層中に気体の状態で存在する化石燃料の総称であり、主成分は炭化水素の中でもっとも構造が単純なメタンである。石炭や石油と並ぶ主要な一次エネルギー資源として位置づけられ、燃焼時に発生する煤塵や硫黄酸化物が少なく、単位発熱量あたりの二酸化炭素排出量も相対的に小さいことから、化石燃料の中でも環境負荷の小さい資源として評価されている。産業用の熱源や発電用燃料、家庭用都市ガスの原料など用途は多岐にわたり、パイプライン網や液化設備を介して世界各地へ供給される、現代のエネルギー体系を支える基幹資源のひとつである。
組成と性質
メタンを主成分とし、これにプロパンやエタン、ブタンなど炭素数の少ない炭化水素が随伴する。無色無臭の気体であり、都市ガスとして供給される際には漏洩を早期に察知できるよう硫黄系の付臭剤が添加される。産出する地層条件によって組成の比率は大きく異なり、メタンの含有率が高いものは乾性ガス、重質炭化水素を多く含むものは湿性ガスと呼ばれ、後者はガソリン留分に近い液体成分(コンデンセート)を分離回収できる場合がある。不純物として硫化水素や二酸化炭素、窒素、水分などが混在することも多く、パイプラインでの輸送や液化に先立って精製・脱硫・脱水処理が施される。組成分析には主にガスクロマトグラフィーが用いられ、熱量調整のための混合比率管理にも活用されている。
生成と埋蔵
天然ガスの多くは、数千万年から数億年前の生物遺骸が地中深くで長期にわたり高温高圧の作用を受け、有機物が段階的に分解される過程で生成されたと考えられている。石油と共通の起源を持つ場合が多く、油田に付随して産出される随伴ガスと、ガス田として単独で開発される非随伴ガスとに大別される。世界の確認埋蔵量は中東、ロシア、北米などの地域に大きく偏在しており、供給国の政策変更や地政学的緊張が国際価格の変動を通じて世界経済に波及しやすい構造となっている。近年は深海底のメタンハイドレートも将来的な国産資源として調査が進められており、日本近海の南海トラフ周辺では産出試験が繰り返し実施されている。可採年数は技術革新や価格動向によって推計が変動するものの、石油に比べると相対的に長期にわたって安定供給が見込める資源とされている。
採掘と開発技術
従来型のガス田では、坑井を掘削して地層中に貯留されたガスを直接汲み上げる方式が主流であったが、近年は頁岩層に閉じ込められたシェールガスの商業開発が急速に進展している。水平掘削と水圧破砕を組み合わせた採掘技術の革新により、従来は採算に合わなかった資源の大量生産が可能となり、北米を中心に生産量が飛躍的に増加した。この一連の変化はシェール革命と呼ばれ、随伴して産出されるエタンやプロパンはナフサと競合する石油化学原料としても注目され、国際的な原料調達構造に影響を与えている。
液化と輸送
気体のままでは輸送効率が低いため、遠隔地への大量輸送にはマイナス162度まで冷却して体積を約600分の1に圧縮した液化天然ガス(LNG)の形態が広く用いられる。液化されたガスは、断熱二重殻構造を備えた専用の船舶であるタンカーによって産地から消費地へと海上輸送され、受入基地で再気化されたのちにパイプライン網を通じて需要家に供給される。陸上パイプラインの敷設が地理的・政治的に困難な島国や海を隔てた地域にとって、LNGは天然ガスを安定的に確保するための重要な選択肢となっている。液化基地では原料ガスの精製・脱水・冷却が多段階で行われ、貯蔵にはマイナス162度に耐える低温タンクが用いられるなど、産地・輸送・受入の各段階で高度な低温技術が要求される。
用途
家庭用・業務用の都市ガス原料としてだけでなく、化学工業では水蒸気改質によって水素やアンモニアの原料として利用されるなど、産業分野でも幅広く用いられている。近年では圧縮天然ガス(CNG)や液化天然ガスを燃料とする内燃機関を搭載した車両や船舶の導入が進み、従来のガソリンや軽油に比べて排出ガス性状に優れる点から、輸送分野における脱炭素化の一翼を担う燃料として位置づけられている。主な利用分野は次のとおりである。
- 家庭用・業務用都市ガス
- 化学工業原料(水素・アンモニア製造)
- 自動車・船舶用燃料(CNG・LNG燃料)
- 産業用ボイラー・炉の熱源
発電用途
火力発電所における燃料としての需要も大きく、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクル方式を採用すれば、石炭火力を上回る発電効率を得ることができる。石炭に比べて単位発熱量あたりの排出量が少なく、出力の増減に対する応答性にも優れることから、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの出力変動を補う調整電源としての役割も期待されている。
環境影響
天然ガスの燃焼は、石炭や石油に比べて二酸化炭素や窒素酸化物の排出量が少なく、硫黄分をほとんど含まないため燃焼に伴う亜硫酸ガスの発生もきわめて少ない。一方で、採掘や輸送の各段階で生じる未燃焼のガス漏洩は、二酸化炭素を大きく上回る温室効果を持つメタンをそのまま大気中へ放出することにつながり、温室効果ガスとしての影響が国際的な気候変動対策の枠組みでも重視されている。漏洩監視技術の高度化や設備の密閉性向上が、今後の重要な取り組み課題として位置づけられている。
安全対策と規制
天然ガスは可燃性気体であるため、製造・貯蔵・輸送の各段階において法令に基づく厳格な安全管理が求められる。日本では高圧ガス保安法により、圧縮・液化されたガスの製造設備や貯蔵設備に対する技術基準や検査義務が定められ、漏洩検知装置や防爆構造の電気設備、緊急遮断弁の設置などが事業者に課されている。国際海上輸送についてもIGCコードをはじめとする国際規格が整備され、設計・運航両面から安全性の確保が図られている。事業者には定期的な設備点検や保安教育の実施も義務づけられており、こうした多層的な管理体制が長期にわたる安定供給の基盤を支えている。
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