石油
石油は、海洋・湖沼の生物起源有機物が堆積し、地質学的時間スケールで熱分解して生成した炭化水素の混合物である。主成分はアルカン、シクロアルカン、芳香族で、微量成分として硫黄・窒素・金属化合物を含む。エネルギー資源としての価値に加え、化学工業の基礎原料を供給し、発電、輸送、材料製造の広範なサプライチェーンを支えている。
生成と地質構造
有機物は嫌気環境でケロジェンとなり、温度と圧力の上昇によりカタジェネシスを経て液状炭化水素へ転化する。移動可能になった流体は、空隙に富む貯留岩に集積し、上部の帽岩が封止することで油ガス田を形成する。貯留層特性(孔隙率、浸透率)と構造(背斜、断層封止)が生産性を左右する。
探鉱・開発のプロセス
探鉱では反射法地震探査や重力・磁力探査で構造を可視化し、坑井掘削でコア・検層を取得する。開発段階では坑井配置、二次・三次回収(ガス圧入、ウォーターインジェクション、EOR)を最適化し、人工採油で産出を維持する。原油品質はAPI gravityや硫黄分で評価し、運転・処理条件の基準となる。
原油の性状指標
- API gravity:大きいほど軽質で高価格になりやすい。
- 硫黄分:低硫黄(スイート)は脱硫負荷が小さい。
- 粘度・流動点:輸送・ポンプ動力と加温要否に直結。
- 金属(Ni、V):触媒劣化要因で前処理が必要。
- 発熱量(HHV):燃料用途の熱収支設計に使用。
精製の基本フロー
大気圧・減圧蒸留で留分に分け、転化プロセス(FCC、ハイドロクラッキング、スチームリフォーミング)で分子量と組成を調整する。HDS/HDNで硫黄・窒素を除去し、芳香族含有量やオクタン価、セタン価を規格に合致させる。NiMo、CoMoなどの触媒は硫化状態で運転され、毒物混入を避ける前処理が重要である。
主な製品群
- LPG・ガソリン・ナフサ:輸送燃料と基礎化学原料。
- ジェット燃料・灯油・軽油:沸点範囲と清浄性が品質鍵。
- 重油・アスファルト:発電、船舶燃料、舗装材。
- BTX、エチレン・プロピレン:分解炉由来の石化基礎原料。
輸送・設備の要点
パイプラインは内圧と温度差による応力管理が不可欠で、座屈・疲労を防ぐ設計が求められる。貯槽ではスロッシングと蒸気回収、静電気対策を行う。フランジ接続は適正トルクでボルト締結し、漏えいとフランジ弛みを抑制する。海上輸送ではタンク洗浄・バラスト管理が規制対象である。
価格・経済性の基礎
石油価格はWTI、Brent、Dubaiなどの指標を通じて形成され、在庫、OPEC+方針、地政学、需要指標、為替が主要ドライバーとなる。先物曲線はコンタンゴ/バックワーデーションで需給の逼迫度を示し、精製マージン(クラッキングスプレッド)は設備稼働と投資判断に反映される。
環境・安全管理
ライフサイクルでCO2、SOx/NOx、PM、メタン漏えいが課題である。H2S対応、静電気着火、VOC管理、圧力容器の破裂防止などプロセス安全を重視し、HAZOPやSIL評価でリスク低減を図る。排出削減ではフレア最適化、回収・再利用、CCSが活用される。
代替と併存の技術的位置づけ
電化や再生可能エネルギーの拡大により最終需要の一部はシフトするが、航空・化学原料分野では高密度エネルギーと炭素骨格供給の強みが残る。バイオ燃料、合成燃料(FT)、再生ナフサ、リサイクル原料の混合・転換により、既存精製・石化設備を活用した低炭素化が現実的選択肢となる。
規格・標準の例
- API・ASTM:試験法、燃料品質、設備設計の標準。
- JIS・ISO:国内外の製品・試験規格の整合。
- IMO:船舶燃料硫黄規制(IMO2020)などの国際枠組み。
産業における実務視点
潤滑油は基油グループと添加剤設計で性能が決まり、摩耗・腐食抑制や清浄分散性を確保する。材料選定では硫化物応力腐食割れや酸性水の影響を考慮し、溶接・シール・シールリング仕様を適合させる。プロジェクトではプロセス設計、設備強度、品質・環境・安全の三位一体でリスクとコストを管理する。石油は社会インフラの基盤であり、供給安定性、環境適合性、経済性の三要件を満たす運用が鍵となる。需要構造の変化に応じて上流・下流の柔軟性を高め、計測・制御・材料工学を統合した最適化により、効率と安全性の両立を図ることが求められる。