天井クレーン|建屋上部を走行し重量物を運ぶ装置

天井クレーン

天井クレーンは、建屋の両側の壁や柱に沿って敷いた走行レールの上を橋形の桁が移動し、その桁の上を横行する巻上装置で荷を吊り上げて運ぶクレーンである。英語ではOverhead Travelling Craneと呼ばれる。床に設備を置かないため、工場の床面を作業や通路に広く使える。鉄鋼、造船、機械組立、倉庫など幅広い現場で使われ、日本ではJIS B 8801で一般的な仕様が定められている。前後・左右・上下の3方向に動くので、建屋内のほぼどこでも荷を扱える点が最大の特徴である。

産業革命から現在までの歩み

原型は19世紀前半のイギリスにあり、当初は人力のチェーンや蒸気機関で動かしていた。1880年代後半にドイツで電動機を使う電動式が実用化され、各運動を個別のモーターで動かす現在の形がほぼ完成した。日本では明治期の官営八幡製鉄所などで輸入品が使われ、その後国産化が進んだ。1970年代以降は制御盤の小型化が進み、現在はインバータによる速度制御が標準である。急な起動や停止を抑えられるため、荷振れが少なくなり、ブレーキの摩耗も減った。

主要な構成要素

本体は大きく三つに分けられる。走行レール上を動く「クレーンガーダー」、その上を横に動く「トロリ」またはホイスト、そして荷を吊る「フック」とワイヤロープである。桁はガーダーとも呼ばれ、一本桁のシングルガーダー形と二本桁のダブルガーダー形がある。各運動には電動機とブレーキが付き、巻上側には電源が切れたときに自動で効く電磁ブレーキが必ず組み込まれる。

  • 走行装置:建屋の長手方向に移動する車輪と駆動部
  • 横行装置:ガーダー上を左右に移動するトロリ
  • 巻上装置:ドラムとワイヤロープで荷を上下させる機構
  • 給電装置:トロリ線やケーブルベアで電力を送る仕組み
  • 運転装置:運転室、ペンダントスイッチ、無線リモコンなど

形式ごとの違い

同じ天井クレーンでも、吊り能力や使い方によって形式を選び分ける。軽い荷を扱う組立工場ではホイスト式、重量物を扱う現場ではクラブトロリ式が多い。

形式 主な定格荷重 特徴 主な用途
シングルガーダー・ホイスト式 0.5〜10t程度 構造が簡単で安価、建屋への負担が小さい 部品組立、小規模工場
ダブルガーダー・ホイスト式 5〜30t程度 揚程を確保しやすく、吊り能力も大きい 機械加工、倉庫
クラブトロリ式 20〜数百t 専用の巻上機を載せ、重作業に強い 製鉄所、発電所
懸垂式(サスペンション) 0.5〜5t程度 建屋の梁から吊り下げ、走行レールが不要 軽作業、柱の少ない建屋

特殊な用途のもの

溶けた金属を運ぶ取鍋(とりべ)用は、鋳造や製鋼の現場で使われ、巻上装置を二重にするなど高い安全性が求められる。磁石で鋼材を吸着するリフマグ付きや、バラ物をつかむグラブバケット付きもある。

法規制と運転資格

日本では労働安全衛生法に基づく「クレーン等安全規則」と「クレーン構造規格」が設計と運用を規制している。吊り上げ荷重3t以上のクレーンを設置するときは、労働基準監督署へ設置届を出し、落成検査を受けなければならない。落成検査では定格荷重の1.25倍の荷を吊る荷重試験を行う。

試験荷重(t)= 定格荷重(t)× 1.25
例:定格荷重10tの場合、10 × 1.25 = 12.5t

合格するとクレーン検査証が交付され、その有効期間は原則2年である。期限ごとに登録性能検査機関による性能検査を受ける。運転資格は荷重で分かれ、5t以上は「クレーン・デリック運転士免許」が要る。床上で操作するタイプなら「床上操作式クレーン運転技能講習」の修了でもよい。5t未満は特別教育で運転できる。荷を掛け外しする作業者には、1t以上で玉掛け技能講習の修了が必要になる。

導入時に現場で検討される点

中小工場の新設でよく見かけるのが、定格荷重を「2.8t」にする選び方である。3t未満にすれば落成検査と性能検査の対象から外れ、検査費用や停止期間が減らせる。ただし、毎月と毎年の定期自主検査は荷重に関係なく必要なので、点検の手間がなくなるわけではない。費用感としては、スパン15m前後のホイスト式なら本体と据付で数百万円、20tを超えるダブルガーダー式では1000万円を超えることが多い。

見落とされやすいのが建屋側の強度である。走行レールを支えるランウェイガーダーや柱には、クレーンの自重と荷重に加え、走行や制動時の水平力がかかる。既存の建屋に後からクレーンを付けると、柱の補強や溶接によるブラケット追加が必要になり、本体より工事費が高くなる例もある。設計では、建築基準法上の構造計算とクレーンメーカーの反力データを照らし合わせて確認する。

点検で特に注意する箇所

事故の多くはワイヤロープの劣化や巻過ぎから起きる。クレーン等安全規則では、1よりの間で素線の10%以上が切れたロープや、直径の減少が公称径の7%を超えたロープの使用を禁じている。巻過防止装置は、フックとシーブの間隔を0.25m以上残して止まるように調整する。作業開始前点検ではブレーキ、クラッチ、コントローラ、巻過防止装置の機能を毎日確かめる。走行車輪のフランジ摩耗やレールの継ぎ目のずれは異音や蛇行として表れやすく、日々の運転で気付いた違和感を記録しておくと修理の判断に役立つ。

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