伝搬音|媒体と経路で変わる音の広がり

伝搬音

伝搬音とは、音源で発生した音が周囲の媒体(空気・水・固体)を通って受音点へ到達する過程で現れる音のことである。設計・防音の実務では音源対策だけでなく、伝搬経路の理解と管理が不可欠である。空気中を進む空気伝搬と、構造物内部を進む固体伝搬の双方を区別し、距離減衰、吸収、反射、回折、共鳴、遮へいといった現象を併せて把握する。評価指標はdB、周波数特性、時間変動、方向性が中心で、室内・屋外・ダクト内など場の条件により最適手段が変わる。本項では伝搬音の物理、測定、解析、低減技術を体系的に述べる。

定義と位置づけ

伝搬音は「音の移動に伴って観測される音」であり、発生段階での騒音源の強さ・スペクトルだけでなく、経路での損失や増幅により受音点のレベルが決まる。空気伝搬では波面の拡がりや媒体吸収が支配的で、固体伝搬では板・梁・筐体の曲げ波や接合部のインピーダンス整合が支配的である。音の伝わり方(音響伝播)をモデル化することが、合理的な防音設計の出発点である。

波動の基本式と評価指標

線形・定常近似では波動方程式∇2p−(1/c2)∂2p/∂t2=0に従い、波数k=2πf/cで表される。自由音場の点音源では音圧は距離に反比例し、レベルは20log10(r2/r1)で減衰する。媒体吸収の効果はe−αrで近似でき、αは周波数依存で高域ほど大きい。評価はdB、A特性、1/3oct帯が一般的で、エネルギー流束を扱う音響インテンシティは経路同定に有効である。音源面でのエネルギー放出は音響放射として整理し、機械装置の全体騒音は機械騒音として扱う。

媒体別の特徴(空気・固体・構造物)

空気ではc≈343m/s(20℃)、固体では縦波・曲げ波が高速で、長距離でも減衰が小さい場合がある。壁面では透過・反射・吸収が同時に生じ、層構造では共鳴やコインシデンスが顕在化する。空気経路の管理は吸音遮音の組合せが基本で、固体経路は防振支持・制振・インピーダンス不整合の付与で抑制する。

自由音場と残響場

屋外など反射が少ない環境は自由音場として距離減衰が明瞭である。一方、室内では多重反射による残響場が形成され、定常時は平均音圧が位置に依存しにくい。残響室や実機空間では、直達成分と残響成分を分離してモデル化し、指向性を持つ音源や拡散条件の不足を補正する必要がある。

伝搬経路の解析手法

低周波・構造結合にはFEM、境界領域が支配的な外部放射にはBEM、広帯域・複雑系にはSEAやレイトレーシングを用いる。装置の寄与分解にはTPA(Transfer Path Analysis)が有効で、源—経路—受音の関係を感度として整理する。

  • 主要経路の仮説立案(空気・固体・開口・ダクト)
  • 伝達関数の取得(加振—応答、音源—受音)
  • 周波数帯別の寄与率算出とボトルネック特定
  • 対策案の感度評価と設計反映(仕様・コスト併記)

測定と評価

アレイマイクのビームフォーミングは放射方向の可視化に有効で、インテンシティプローブは面を貫くエネルギー流の向きと大きさを測れる。走査測定で音響ホログラフィを行えば、広帯域で高解像度の放射分布を再構成できる。実機では運転変動を考慮し、代表運転点・過渡・負荷別に伝搬音を評価する。

周波数帯と方向性

低域は回折で回り込みが生じやすく、遮へいの効力が下がる。中高域は吸音・散乱が効きやすい一方で、板のコインシデンスで透過が増える場合がある。ダクトや配管では固有モードと減衰材配置により輸送効率が変わる。開口部のエッジからの回折は受音点のレベル支配因子になりやすく、面源の指向性設計が有効である。放射過程については放射音も参照のこと。

低減技術と設計への落とし込み

対策は「源」「経路」「受音」の三層で考える。源では駆動力・乱流・衝撃の低減、構造の制振・剛性最適化、加振力の非同期化を行う。経路ではインピーダンス不整合、吸音材・多孔質材、二重壁、マフラやサイレンサ、シール・隙間管理、防振・浮き床での固体伝搬遮断が中心である。受音側では囲い・ブース・遮へい壁・距離確保・レイアウト最適化が有効である。スペクトルを見て帯域別に手段を選定し、重量・コスト・保守性・熱流・気流抵抗とのトレードオフを明示して設計に織り込む。

  • 吸音:繊維系・発泡系・パンチング板裏空気層の組合せ
  • 遮音:質量則+二重壁のばね効果、開口損失の最小化
  • 制振:粘弾性材・制振鋼板・リブ追加による損失係数向上
  • 防振:ばね-質量系の固有振動数を十分低下させ固体伝搬を遮断
  • 流体系:整流・低騒音ファン・拡散器・消音器の整合設計

実務では、原因仮説→測定→寄与分解→対策設計→再評価の反復で伝搬音を最小化する。設計初期に放射・経路・受音の要求値を数値で定め、量産ばらつきと経年劣化を含む余裕設計とする。関係する概念や用語は音響伝播機械騒音遮音吸音音響インテンシティ音響放射騒音源放射音を参照されたい。