機械騒音
機械騒音とは、機械の運転に伴い発生する音であり、機械的衝撃・摩擦・回転不均衡・流体の乱れ・電磁力変動など多様な要因によって生じる工学的対象である。製造現場や製品のNVH(Noise, Vibration, Harshness)品質、職場安全、環境規制への適合に直結するため、発生メカニズムの把握、適切な測定・評価、源経路受音の観点による低減設計が重要である。
定義と特徴
一般に騒音は望ましくない音として定義される。工学的には時間変動する音圧の物理量として扱い、周波数帯域やレベル、統計的性質が評価軸となる。機械騒音は、機械内部の励振と構造体の振動・放射、空気流の乱流起音、電磁起音が結合して観測される複合現象である。設計・保全では、再現性と因果の分離が重要である。
発生メカニズム(源)
- 機械起音:ギヤ噛み合い誤差、玉軸受の転がり不整、アンバランス、クリアランス打音、衝突・摩擦。
- 空力起音:ファン・ブロワ・圧縮機での乱流、翼通過周波数成分、縁渦、キャビティ鳴き。
- 電磁起音:モータの電磁力脈動(コギング、トルクリプル)、トランスの磁歪。
共振と放射効率
構造体が固有振動数近傍で励振されると変位が増幅し、板や筐体が高い放射効率で音を放つ。板の臨界周波数やコインシデンス効果は遮音設計で要点となる。
評価指標と周波数解析
レベルは対数スケールで表す。音圧レベルLp[dB]、音響パワーレベルLw[dB]、人間の聴感補正であるA特性(dB(A))を用いる。時間評価には等価騒音レベルLeq、百分位騒音(L10, L50, L90)を用いる。周波数解析は1/3オクターブやFFT、ウォーターフォールで特徴周波数やトーン成分を同定する。
測定方法と試験環境
標準化された手順に基づき、無響室・半無響室・反響室や実稼働環境でマイクロホンを配置する。音響パワー測定にはISO 374x群、作業環境での音圧測定にはISO 11200群が広く参照される。校正(音校正器)、風防の使用、背景騒音の補正、温湿度・気圧の記録などが基本である。
伝搬経路と構造-音響連成
源(Source)・経路(Path)・受音点(Receiver)のS-P-Rモデルで因果を分離する。経路は空気伝搬、構造伝搬、隙間リークに大別され、構造-音響連成により互いに影響し合う。実験モーダル解析や運転時動作形状(ODS)、音響インテンシティ法、伝達経路解析(TPA)で寄与を定量化する。
低減設計の基本戦略
- 源対策:バランス修正、歯形修正、表面粗さ低減、予圧・クリアランス最適化、スイッチングパターン最適化、回転数の避共振。
- 経路対策:制振(粘弾性+拘束)、防振マウント、アイソレーション、遮音板の質量則・多層化、シールでリーク低減、ダクト整流。
- 受音対策:操作盤の吸音、配置変更、運転モードの切替、囲い(エンクロージャ)。
材料と構造
板厚・ヤング率・損失係数の設計で放射効率を抑える。サンドイッチパネル、ハニカム、メタマテリアルなどの周波数選択的吸遮音も有効である。
シミュレーションとモデル化
構造系はFEMでモード・応答を解析し、空間放射はBEMや音場FEMで扱う。広帯域・高周波ではSEA、流体起音はCFDと音響類比(LighthillやFW-H)を併用する。パラメトリックスタディと実測相関により予測精度を担保する。
品質・規格・マネジメント
製品の静粛性は顧客価値と直結するため、目標値管理(QFD)、設計FMEA、タグチメソッドによるロバスト設計が有効である。法令・ガイドラインやJIS/ISO整合の試験成績書を整備し、ライン監視や受入検査に統計管理を適用する。
代表的な事例
- ギヤボックス:メッシュ周波数のトーン、軸受高調波、筐体板の放射。歯面修正・精度向上・筐体制振で低減。
- ファン・ブロワ:BPFトーンと乱流帯域。翼形最適化、整流、ケーシングの吸遮音、回転数制御。
- モータ・インバータ:電磁力脈動とスイッチング音。スロット/極組合せ、PWM最適化、ステータ固定の剛性・減衰付与。
データの取り扱いと可視化
トレンドはLeqで管理し、異常検知にはスペクトル指標や特徴量(トーン比、クリストファー係数等)を用いる。ウォーターフォールやオーダートラッキングで運転条件に依存するピークを追跡し、寄与源を特定する。
実務での進め方
- 現状把握:要件・規制・使用環境を明確化し、測定計画を立案する。
- 因果分離:S-P-RとTPAで主要寄与源を抽出する。
- 対策設計:源→経路→受音の順にコストと効果を比較し、試作・実験で検証する。
- 標準化:成果を設計基準・部品表・検査要領へ反映し、継続改善につなげる。
用語メモ
NVH、A特性、Leq、Lw、Lp、1/3オクターブ、BPF、TPA、SEA、FEM、BEM、CFDといった用語は評価・解析に頻出である。これらの統一用語と記録様式を整備すると、機械騒音の設計・検証が円滑に進む。