音響インテンシティ|音のエネルギー流をベクトル評価

音響インテンシティ

音響インテンシティは、単位面積を通過する音響エネルギーの流束を表すベクトル量であり、音の「強さ」と「向き」を同時に与える概念である。瞬時値は音圧p(t)と粒子速度v(t)の積I(t)=p(t)·v(t)で定義され、実務では時間平均(または周波数帯域平均)した平均インテンシティを用いる。音圧レベルが場の振幅を示すのに対し、インテンシティは正味のエネルギー伝搬を示すため、音源探査、機械騒音の寄与分離、音響パワー推定に有効である。

定義と物理的意味

瞬時インテンシティはI(t)=p(t)·v(t)で与えられ、時間平均はĪ=(1/T)∫0→Tp(t)v(t)dtと表せる。周波数領域では複素音圧Pと粒子速度UのクロススペクトルGpuを用い、能動成分(正味のエネルギー流)Īa=(1/2)Re{P·U*}として評価する。これは電磁気学のポインティングベクトルに相当し、ベクトルとしての向きが音源から外向きか内向きかを直接示す点に特徴がある。

単位とレベル表示

インテンシティの単位はW/m^2である。レベル表示はLI=10log10(I/I0) [dB]を用い、基準I0には空気で一般に1.0×10^-12 W/m^2を採る。自由音場の平面波ではI=prms^2/(ρc)となり、基準音圧p0=20 μPaとZ=ρcを用いればLI≒Lpが成り立つ。例として1 Pa(94 dB SPL)ではρ≈1.2 kg/m^3、c≈343 m/sよりI≈1/411.6≈2.4×10^-3 W/m^2で、LIは約94 dBとなる。

理論式と平面波近似

流体中の平面波では音響インピーダンスZ=ρcが実数で、I=prms^2/Z=vrms^2·Zが成り立つ。指向性のある場や回折・反射がある場では位相関係が変化し、局所的なエネルギー流が屈曲・逆流するため、インテンシティの方向成分が音場の非一様性を敏感に反映する。固体音響やダクトではせん断や導波モードの影響を受けるが、低次モードや遠距離では平面波近似が有効となることが多い。

ベクトル性と能動/反応インテンシティ

インテンシティはベクトルであり、能動成分は時間平均で正味のエネルギー伝搬を示す。一方、反応成分はエネルギーの往復交換に対応し、音源近傍や剛壁前の近接場で支配的になる。近傍ではインテンシティが負(壁へ向かう)になる領域が現れ、反射や干渉の様子を可視化できる。空間マッピングでは矢印図(ベクトルマップ)により、主たる伝搬方向、回り込み経路、漏洩点などを直観的に把握できる。

測定法(p-p法とp-u法)

実測では2本マイクのp-p法と、音圧・粒子速度同時計測のp-u法が広く使われる。p-p法は間隔dで配置したマイクの圧力差から圧力勾配を近似し、オイラー方程式v≈-(1/iωρ)∂p/∂xより粒子速度を推定する。周波数上限は概ねkd(k=2π/λ)が小さ過ぎても大き過ぎても誤差を増やすため、dは有効帯域に合わせて選定する。p-u法はマイクと粒子速度センサ(例: 熱線式や音響インテンシティプローブ)を同軸に配置し、位相整合を取りやすく低周波に強い。いずれも1/3オクターブ分析や時間平均を行い、ベクトル量としての方向情報を取得する。

測定上の留意点

主な誤差要因は、(1) マイク間位相差の校正誤差、(2) マイク間隔dの設定不適、(3) 乱流や風による流れ雑音、(4) 背景騒音の混入、(5) 反射・回折による反応成分の増大、(6) 走査速度の不安定、である。実務ではウィンドスクリーンの使用、反射面からの距離確保、基準音源による位相・感度校正、測定面のメッシュ密度設定、反応場指数の確認などを行う。測定不確かさは周波数と場の条件に依存し、低周波ほど近接場の影響が顕著である。

ISO 9614による音響パワー測定

音響パワーWは閉曲面を貫くインテンシティの面積積分W=∬SĪ·n dSで求められる。ISO 9614-1/-2/-3は、点取り(定点格子)、走査(面走査)、精密手順を規定し、測定面の定義、格子密度、スキャン速度、場の適合性(F指標)などを求める。対象装置を囲う測定面を設定し、各測点(または走査軌跡)で法線成分を取得・平均化して総和する。反射・背景の補正、バンド別評価、装置運転状態の再現性確保が精度の鍵である。

応用と可視化

インテンシティは「どこから、どれだけ」エネルギーが出ているかを示せるため、音源寄与の切り分けに直結する。例えば機械筐体では、パネルの放射ホットスポット、隙間からの漏洩、サポート部の伝搬経路をベクトル場として描ける。さらに、ビームフォーミングや音響ホログラフィと併用することで、位相情報と強度情報を統合した高解像の音源可視化が実現できる。

実務の手順ガイド

  1. 目的の明確化(例: パワー測定、漏洩探索、寄与分離)。
  2. プローブ選定(p-p法/p-u法、周波数帯、マイク間隔d)。
  3. 校正(感度・位相・間隔、参照音源での検証)。
  4. 測定面設計(曲面/平面、格子密度、走査軌跡、法線方向)。
  5. 環境管理(反射・背景・気流、ウィンドスクリーン、平均時間)。
  6. バンド処理(1/3 octaveまたはFFT、能動成分の抽出)。
  7. 可視化(ベクトルマップ、法線成分ヒートマップ)。
  8. 不確かさ評価(再現性、場の適合性、感度差の寄与)。