ウィリアム・ジェイムズ William James 1842年1月11日 – 1910年8月26日
ウィリアム・ジェイムズはアメリカの心理学者・哲学者。主著『心理学原理』『プラグマティズム』『宗教経験の諸相』。心理学では、「我々は悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのである」としたジェイムズ・ランゲ説を唱えた。哲学では、プラグマティズムという考え方を広め、アメリカの哲学は独特の存在意義を得るようになった。
ウィリアム・ジェイムズの生涯
ウィリアム・ジェイムズは、神秘的宗教家を父として、ニューヨークに生まれたが、一家はアメリカを離れ、ヨーロッパ各地で暮らした。自由な家庭で育ち、7歳から3年間小学校に通って以降、大学までは学校教育を受けていない。18歳のころパリで画家を志したこともあったが、画才の乏しいことを自覚し、しばらくして断念する。19歳の時、ハーバード大学理学部に入学して化学、生理学、医学、比較解剖学などを学ぶ。そのころドイツに留学し、医学・生理学の他に心理学や哲学に関心を深める。また、この頃、ブラジル生物探検隊に参加し、そこでみずからが哲学者であることを見出した。医学博士の学位を修得すると、30歲でハーバード大学に戻り生理学講師に就任する。これ以降、研究生活に入った。ジェームズは、観念は何らかの行動の中で確認され、検証されるものであり、行動の過程で有用とされるものが真理であり、価値を有するとした。主 著『プラグマティズム』では,実用主義としてのプラグマティズムが提唱され、日本の西田幾多郎にも大きな影響を与えた。
ウィリアム・ジェイムズの略年
1842年 ニューヨークに生まれる。
1861年 画家を断念し、ハーバード大学理学部に入字する
1867年 ドイツに留学、心理学や哲学に関心を深める。
1872年 ハーバード大学生理学講師となる。
1876年 同大生理学助教授。
1878年 アリス=ハウ=ギベンスと結婚。
1880年 ハーバード大学哲学助教授となる》
1884年 論文「情緒とは何か」を発表。心霊学会の会員となる。
1885年 ハーバード大字哲学教授となる。
1890年 『心理学原理』を発表。
1894年 心霊学会会長を務める(翌年まで)
1906年 スタンフォード大学教授を就任。
1907年 『プラグマテイズム』を発表。
1910年 死去。
意識の流れ
ジェイムズは、経験論の立場をとり、主観と客観、精神と物質などの対立をこえたところに、具体的実在としての意識の流れがあると説いた。ジェイムズによれば、意識の流れは根源的な純粋経験であり、抽象的な観念や思想は、この流動する意識の流れから二次的につくり出されたものにすぎない。
ジェイムズ=ランゲ説
「我々は悲しいから泣くのではない、泣くから悲しい」と述べ、従来考えられている「刺激(父の死)があり、情動(悲しい)が起こって身体変化(泣く)する」ではなく「刺激(父の死)があって身体変化(泣く)が起こり、情動(悲しい)が起こる」という流れである、としたもの。
プラグマティズムの語源
プラグマティズムはジェイムズによってつけられた名称ではない。プラグマ(Pragma)という言葉は、古代ギリシアから哲学では広く親しまれていたひとつの言葉であるが、最初にこれをプラグマティズムとしたのは、アメリカのパースである。明らかなる観念は、実行性を有するものであるから、我々を明瞭ならしむには、その観念の実行性を検討すればよい、というのがパースの主張であり、彼はこれをプラグマティズムと名づけた。
プラグマティズムの真偽論
ウィリアム.ジェイムズは、プラグマティズムの考え方を徹底させて真偽論まで発展させた。ジェイムズによると、真理は実際的効果を持たなければならないものとした。真理は論議によって決定されるのではなく、事実の上に立証され、経験に効き目のあることが第一条件である。真理は単に抽象的に論じられるべきではなく、具体的事実に突き当たって証明されなければならない。
真理の有用性
真理は、ある思想・観念・知識が何らかの行動を生み、生活の中で実際に役立つ結果をもたらすことだとした。ジェイムズによれば、思想の真偽だけでなく、行為の善悪や事物の美醜など、最終的に日常の生活において有用であるかどうかで決定される。たとえば、「神が存在する」という命題は、人間に精神的安らぎを与える点で有用であり、その限りにおいて真理だといえる。
真理について、「それは真理であるから有用である」ともいえるし,また「それは有用であるから真理である」ともいえる。これら二つのいい方は正確に同じことを、すなわち、これこそ充足され真理化されうる観念だ、ということを意味している。真とは、いかなる観念にせよ真理化の過程を惹き起こすような観念の名であり、有用とは、その観念が経験のうちで真理化の作用を完成したことを表わす名なのである。
真理論A)事実と観念
A)事実と観念
真理は単に抽象的に論ぜられるべきではなく、具体事実に突き当たって証明されなければならない。観念と事実の二元を立てて、この観念が満足すべき事実に突き当たった場合、この観念は真理と呼ばれる。
真理論B)純粋経験
B)純粋経験
ジェイムズは主観と客観というような意識とは離れた固定した概念や前提を退け、「ある」のはただ、経験のみ、だとした。このような根本的な経験を純粋経験と名づけた。
心的、あるいは物的だと称されるものは、この実在がある脈略関係によって作用的に見られた一面に過ぎない。すなわち、主観とか客観とかは同一の経験が、いかなる脈絡関係におかれるかで、決定されるものである。真理と事実とは互いに影響するものの、相互に異なったものである。事実それ自身はただ、単に「ある」のであって、まだ真とも偽とも言うことができない。真理は実在についての信念であり、いかなる場合にも実在は独立する「あるもの」として、単に製造された事実として作用する。ゆえに我々の観念は、一度真理として定立されてしまうと、一種の固定性を帯びて永久的性質を持つようになる。つまり、実在を持つのである。我々の生活経験によって承認している観念とか映像とか概念化されたものなど、すべて実在である。このようなものを根源的実在という。また真理と事実、根源的実在に加え、純粋に心的な観念の問いにおける諸関係もまた実在である。「共に」や「同時に」や「前後に」などという単純な関係から、差異や類似や因果のような関係もすべて実在である。
「実在」
① 根源的存在
② 感覚やその映像の間に存する諸関係
③ 従来の真理
これらの実在が合流して、我々が経験し得る実在界をなすとした。
形而上学クラブ
「形而上学クラブ」の主要メンバーだったジェイムズは、パースの見解を受けついでプラグマティズムを確立し、その普及と定着に大きな功績を残した。
『心理学原理』
『心理学原理』(1890)とは、ウィリアムジェイムズの心理学の見解について書かれている。意識が絶えず流れていることを強調する他、情意における人間の行動に深く注目している。
『プラグマティズム』
『プラグマティズム』(1907年)はウィリアムジェイムズの哲学的書物。パースから受け継いだプラグマティズムを日常における平易な言葉で語られており、この書によりプラグマティズムがひろまった。