黒皮
黒皮(くろかわ)とは、鋼材を高温で圧延・鍛造した際に表面に生じる黒色の酸化被膜のことである。英語ではミルスケール(mill scale)と呼ばれ、主成分は鉄の酸化鉄からなる。熱間圧延で製造された鋼板や形鋼、棒鋼の多くは、出荷時点でこの被膜をまとっている。厚さはおおむね10〜100μm程度で、製品の板厚や仕上げ温度によって差が出る。素材を一時的に保護する面もあるが、塗装や溶接の前には除去すべき対象として扱われることが多い。
熱間圧延で生まれる酸化被膜
鋼片(スラブやビレット)は加熱炉で約1,100〜1,250℃まで加熱され、圧延機を通って所定の厚さに延ばされる。この間、赤熱した鋼の表面は空気中の酸素と反応し続ける。圧延ラインには高圧水でスケールを吹き飛ばすデスケーラーが設けられているものの、仕上げ圧延後の冷却中にも新しい酸化膜が育つ。最終的に製品表面に残るのが黒皮であり、巻取温度が高いホットコイルほど被膜は厚くなる傾向がある。
三層構造の内訳
被膜は均一な一枚の膜ではない。地鉄側から外側に向かって酸素濃度の異なる3種類の酸化物が重なっている。高温域で生成した直後は、ウスタイト(FeO)が全体の90%以上を占めるとされる。
| 層の位置 | 化学式 | 名称 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 地鉄側(内層) | FeO | ウスタイト | 570℃未満では不安定。もろく剥がれやすい |
| 中間層 | Fe3O4 | マグネタイト | 磁性をもつ黒色の酸化物。緻密で硬い |
| 表層 | Fe2O3 | ヘマタイト | ごく薄い層。赤褐色を帯びる |
冷却が遅いと、ウスタイトは570℃付近を境に 4FeO → Fe3O4 + Fe の共析変態を起こす。厚板やコイル内部で被膜の性状がばらつくのは、この変態の進み方が冷却速度に左右されるためである。
黒皮は錆を防ぐのか
「黒皮があるうちは錆びない」と言われることがあるが、これは半分しか当たっていない。マグネタイト主体の被膜は水分や酸素の侵入をある程度遮るため、屋内保管なら数か月は赤錆の進行を抑えられる。ところが被膜には圧延や曲げで生じた微細な割れがある。黒皮はおよそ0.2〜0.3V程度地鉄より電位が貴であるため、割れ目に雨水が入ると露出した鉄がアノードとなって局所的に溶け出す。結果として、全面に薄く錆びるよりも深い孔食が生じやすい。長期の防錆を黒皮に期待するのは避けたほうがよい。
塗装・溶接・切削で起きる不具合
黒皮の上に直接塗料を塗ると、数年後に被膜ごと塗膜がめくれ上がる事例が多い。塗料と黒皮の密着は良くても、黒皮自体が地鉄から剥がれてしまうからである。橋梁や鉄骨では、ブラスト処理で黒皮を完全に除去してから下塗りに入るのが標準となっている。
溶接では、開先面に残った酸化物が溶融池に酸素を持ち込み、ブローホールやスラグ巻き込みの原因になる。サブマージアーク溶接やCO2溶接の現場では、開先と両側10〜20mm程度をグラインダーで磨いておくのが一般的な段取りである。
切削加工でも厄介な存在となる。黒皮は硬く研磨性が高いため、刃先が被膜の中だけを削る状態になると工具が急速に摩耗する。旋盤やフライスの荒加工では、1回目の切込みを黒皮の厚さより十分深く取り、刃先を地鉄の中で切らせるのが現場のセオリーとされる。
除去方法の比較
黒皮の取り方は、処理量や求める表面状態によって選ばれる。代表的な方法は次のとおりである。
- 酸洗い:塩酸や硫酸の浴に浸けて化学的に溶かす。鉄鋼メーカーのコイル処理ラインで大量に行われる
- ショットブラスト:鋼球を高速で投射して物理的に剥がす。形鋼や鋼板の前処理ラインで主流
- サンドブラスト・グリットブラスト:現場塗装の補修や複雑形状に向く
- グラインダー・ディスクサンダー:溶接開先など局所的な処理に用いる
- レーザークリーニング:薬品や研削材を使わない方法として導入例が増えている
ISO 8501-1の除錆度
ブラスト処理の仕上がりは、ISO 8501-1の除錆度で指定されることが多い。重防食塗装ではSa 2½(ほぼ完全に黒皮・錆を除去した状態)が要求水準となる場合がほとんどである。同規格では処理前の鋼材も錆の程度でA〜Dに区分されており、Aは「黒皮が全面に密着し、錆がほとんどない状態」を表す。
黒皮材と酸洗材・磨き材の使い分け
鋼材を発注する段階で、黒皮付きのまま買うか、除去済みの材料を買うかを選べる。SS400の厚板や形鋼は黒皮材が基本で、価格も最も安い。薄板ではJIS G 3131のSPHCに対し、酸洗いして防錆油を塗布したSPHC-POが流通している。酸洗材は黒皮材よりトン当たり数千円程度高いのが一般的な目安だが、塗装前処理やプレス金型の摩耗を考えると、結果的に安くつくケースも少なくない。
板金工場では、レーザー切断の品質が材料選定の決め手になることがある。厚さ9mmを超えるような厚板では、黒皮の状態が不均一だとレーザーの吸収率が変動し、切断面の荒れやドロスの付着が増える。厚板の高精度切断用には、黒皮の密着性を管理した「レーザー用鋼板」を指定する発注者も多い。
丸棒でも同様の選択がある。S45Cなどの機械構造用鋼は、黒皮丸棒と、冷間圧延や引抜きで表面を仕上げた磨き材とが流通している。磨き材はh9程度の寸法公差に収まるため、外径をそのまま使う部品なら旋削工程を省ける。全面を削り落とす部品なら、単価の安い黒皮材を選んで削り代を見込むほうが合理的である。
鍛造品・鋳造品の黒皮
圧延材だけでなく、鍛造品にも同じ性質の酸化被膜ができる。熱間鍛造では1,200℃前後に加熱した素材を打撃するため、スケールが型に押し込まれて製品表面に「スケール噛み込み」と呼ばれるくぼみを残すことがある。鋳造品の場合は、砂型由来の焼付きや酸化膜を含めて鋳肌と呼ぶことが多く、厳密には圧延材の黒皮とは成り立ちが異なる。いずれも機械加工の前に除去するか、削り代に含めて設計しておく必要がある。
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