サーミスタ|温度で抵抗が変わる半導体素子

サーミスタ

サーミスタは温度によって電気抵抗が大きく変化する半導体セラミック素子である。主に負の温度係数(NTC)と正の温度係数(PTC)の2系統があり、NTCは温度上昇で抵抗が減少し、PTCは逆に増加する。材料はMn、Ni、Coなどの酸化物を焼結した多結晶体や薄膜が中心で、抵抗‐温度特性はR(T)=R0·exp{B(1/T−1/T0)}でおおむね表せる。小型で高感度、応答が速いという利点から、家電や自動車、産業機器の温度測定・温度補償・過電流保護など広範に用いられる。実装形態はガラス封止ビーズ、エポキシコート、SMDチップなど多様で、環境耐性や熱時定数、許容差に応じて選択するのが通例である。

原理と温度係数

サーミスタの温度特性はキャリア濃度やホッピング伝導に支配され、NTCでは活性化エネルギーに由来する指数関数的変化が得られる。指標となるB定数は温度感度の大きさを表し、値が大きいほどわずかな温度差で抵抗が大きく変化する。PTCでは臨界温度付近で粒界障壁形成により急峻な抵抗上昇が起こり、過電流保護などに利用される。いずれも自己発熱の影響を受けやすいため、測定時は印加電力を抑え熱平衡を確保することが重要である。

構造・材料とパッケージ

サーミスタの主流は酸化物系セラミックの焼結体で、微細な粒界制御により抵抗値とB定数を設計する。封止にはガラスや樹脂が用いられ、耐薬品性や絶縁性が要求される用途ではフッ素樹脂系の被覆や配線被覆が選ばれることがある。パッケージはビーズ型、ディスク型、SMD型などがあり、熱容量・熱抵抗・機械強度のトレードオフを考慮して選定する。

代表的な種類

  • NTCサーミスタ:温度測定・補償・温度監視に広く用いられ、広温度域で高感度を得やすい。

  • PTCサーミスタ:定温ヒータ、突入電流抑制、過電流保護などに利用される。

  • ガラス封止サーミスタ:湿度や薬品に強く長期安定性に優れる。

  • 高精度チップサーミスタ:SMDで実装性が高く、狭い空間の温度センシングに適する。

特性指標と評価

サーミスタの主要パラメータは、R25(25°C抵抗値)、B定数、許容差、熱時定数τ、自己発熱係数、許容電力、動作温度範囲である。応答性は素子体積と熱結合で決まり、ビーズ型は高速、ディスクや樹脂封止は機械堅牢性に優れる。規格はJISやIECの用語・試験法に準拠して評価するのが一般的である。

測定・校正と自己発熱対策

精密測定では定電流源と4端子法を用い、自己発熱を極小化する。水・油恒温槽で等温環境を作り、0°C、25°C、85°Cなど複数点で校正するのが標準的である。空冷や空気流速の影響、取付部の熱抵抗、放熱経路を把握し、実機環境に近い治具で評価することが望ましい。

回路設計と直線化

サーミスタは非線形であるため、分圧回路やWheatstoneブリッジでレンジを最適化し、マイコンADCで読み取るのが一般的である。温度換算はSteinhart–Hart式 T(K)=1/(A+B·lnR+C·(lnR)^3) を適用し、係数はデータシートや実測フィットから求める。狭レンジなら並列抵抗を入れて直線性を改善できるが、温度範囲の外側で誤差が増えるため注意する。

用途と事例

  • 家電・HVAC:室温・水温制御、熱交換器の着霜検知、過熱保護にNTCサーミスタを用いる。

  • 自動車:吸気温・冷却水・バッテリー温度監視に用いられ、オートバイのエンジン制御でも広く採用される。

  • 産業機器:インバータや電源の温度補償、突入電流抑制にPTCサーミスタを配置する。

  • センシング:微小空間の温度検出や熱流センスとして、MEMSセンサーと組み合わせた集積化も行われる。

  • 半導体製造:チャックや治具の温度監視にNTCサーミスタを貼付し、例えば真空チャック表面の熱均一性監視に活用する。

選定のポイント

  • 温度範囲と必要精度:使用域と許容差(例±1%〜±5%)を整合させ、B定数の温度依存を確認する。

  • 応答時間と取り付け:熱時定数τ、取付熱抵抗、グリースや接着剤の熱伝導率を考慮する。

  • 環境耐性:湿熱・薬品・振動に対し、ガラス封止や耐薬品コートなどを選ぶ(必要に応じフッ素樹脂被覆)。

  • 回路条件:印加電力で自己発熱が増すため、ブリッジ駆動やサンプリング周期を最適化する。

圧力・流体系での温度補償

圧力や流量のセンサでは、温度ドリフトを抑えるためにサーミスタを同一基板へ実装して補償する。圧力検出素子(例:ダイアフラム式)の温度依存や、流体の粘性・密度変化は温度に強く依存するため、周囲の気圧や媒体温度を同時に監視する設計が有効である。

故障モードと実装上の注意

サーミスタは過電力で自己発熱・経年劣化が進むことがある。はんだ付け熱や応力で抵抗値が微妙に変動するため、実装プロファイルとストレス緩和を設計する。結露や薬品に晒される環境では封止材の選択が重要で、樹脂吸湿によるドリフトを避ける。センサケーブルや端子には耐熱・耐薬品の被覆材を用い、漏れ電流やノイズの混入を抑えることが信頼性確保に直結する。