気圧
気圧とは、大気が物体表面に及ぼす単位面積当たりの力である。国際単位系では単位は「Pa(パスカル)」を用い、気象では扱いやすさから「hPa」が広く使われる。海面上の標準大気圧はおよそ1013.25 hPa(=101325 Pa)であり、1 atm、1.01325 bar、約760 mmHgと等価である。産業や気象、防災、航空、材料試験、HVACなど多様な場面で気圧は基準量として機能し、計測の校正や設計の前提条件となる。
定義と単位
気圧は「圧力」の一種であり、力/面積で定義される。SIに従えばPaが基本であるが、現場ではhPa、kPa、bar、mmHgなどが併用される。換算として、1 atm = 101325 Pa = 1013.25 hPa ≈ 760 mmHg である。表示は絶対圧(真空を0とする)とゲージ圧(周囲の大気圧基準)があり、気象や高度計では絶対圧を用いる。計量のトレーサビリティを確保するため、校正は国家計量標準に結び付けられた基準器で実施する。
発生原理
気圧は、地球重力下で上空の空気柱の重さが地表に及ぼす静水圧として生じる。高さz方向のつり合いは dp/dz = −ρg(ρ: 空気密度, g: 重力加速度)で表され、理想気体の式 p = ρRT/M と組み合わせると、等温近似で p(z) = p0·exp(−z/H) が得られる。H はスケールハイトで、H = RT/(Mg) によって決まり、対流圏下部では約8 km程度である。このため高度が上がるほど気圧は指数関数的に低下する。
標準大気と基準
航空や気象で用いられる「標準大気(ISA)」は、海面高度で15°C、相対湿度0%、p0 = 1013.25 hPa等を仮定し、対流圏では平均的な逓減率(約−6.5 K/km)を採用する。計器の仕様や試験条件に「標準大気」が明記されるのは、各種設計・比較の基準を統一する狙いによる。高度計の設定(QNH/QFE)や海面更正気圧も、この基準に依拠して再現性を確保する。
測定機器の種類
- 水銀気圧計:トリチェリの原理に基づく一次標準に近い器。高精度だが水銀の管理が必要である。
- アネロイド気圧計:金属製の真空カプセルの変形を機械リンクで指示する。携帯性に優れる。
- 電子式センサー:ピエゾ抵抗・静電容量型など。長期安定性や温度補償、データロギングに適する。
- ピトー管:全圧と静圧の差(動圧)から流速を得る。航空機や風洞で用いられる。
変動要因と気象
- 高度:上昇とともに気圧は低下する。高原での沸点低下や呼吸負荷の増大はその結果である。
- 温度・湿度:暖気は膨張して密度が下がり、場の分布を変える。湿潤空気は乾燥空気より平均分子量が小さく密度が下がる。
- 大気循環:低気圧域は上昇流と収束、高気圧域は下降流と発散を伴い、等圧線の間隔・形状が風を規定する。
- 海面更正:観測点の気圧を海面高度に換算し、広域比較を可能にする。
数式と近似
等温大気の近似では p(z)=p0·exp(−z/H) が基本である。対流圏の実際には温度逓減を考慮した式が使われ、p と z の関係はやや複雑になるが、設計上のおおまかな見積もりではH≈8 kmを用いることが多い。理想気体近似下での音速は温度に主に依存し、音波の伝播や風洞試験の相似則(マッハ数)にも影響する。
工学・産業での利用
- 気象・防災:気圧配置(高気圧・低気圧)から風・降水・前線活動を推定する。
- 航空・宇宙:高度計・大気モデル・与圧設計、安全マージン設定。
- プロセス制御:化学プラントの反応器や蒸留塔は気圧・差圧で運転点を規定し、沸点や分離効率を制御する。
- 建築・HVAC:室間差圧管理で清浄度や臭気の拡散を抑える。クリーンルームでは数Paの差圧管理が重要となる。
- 材料試験:気圧・湿度・温度の環境制御下で信頼性試験を行う。
人体・安全衛生
高所では気圧低下により酸素分圧が下がり、高山病のリスクが増える。潜水・宇宙関連では減圧症や与圧の管理が重要となる。与圧室・減圧室は医療・訓練・研究に用いられ、規格に基づく安全運用が不可欠である。
関連概念と用語
- 空気:主要成分は窒素と酸素で、湿度や温度によって性質が変わる。
- 圧力:力と面積の基本概念。単位はPa。
- 温度:状態量であり、音速や密度、気圧分布に影響する。
- 等圧線:天気図上の同気圧線で、風向・風速の見積りに使う。
- 差圧:流れや漏えいの駆動力。フィルタ監視やダクト設計で重要。
気圧と沸点・乾燥
気圧が低いほど液体の沸点は低下する。真空乾燥や減圧蒸留はこの性質を利用し、熱に弱い材料や溶媒系でも低温での乾燥・分離を可能にする。食品のフリーズドライや医薬プロセスでも温和条件で品質を保つ狙いがある。
計測の校正・不確かさ
気圧計の校正では参照器との比較、温度・姿勢・ヒステリシス補正、長期安定性の評価が重要である。不確かさ予算を作成し、ISO/IEC 17025に適合した校正証明書でトレーサビリティを示す。現場運用ではゼロ点確認と周期校正、データのドリフト監視を行う。
設計上の実務ヒント
- 仕様書では圧力の基準(絶対/ゲージ)と単位系(Pa/kPa/hPa/bar)を明記する。
- 高度差がある拠点間での比較には海面更正や温度補正を用いる。
- 計測レンジは使用点の1/3〜2/3付近に収め、分解能と不確かさのバランスを取る。
- 気密・漏えい試験では環境気圧の変動を背景雑音として扱い、基準化する。