空気
空気は地表付近の対流圏に存在する気体の混合物である。標準的な乾燥空気の体積組成は窒素(N2)約78.08%、酸素(O2)約20.95%、アルゴン(Ar)約0.93%、二酸化炭素(CO2)約0.04%であり、その他にネオン、ヘリウム、メタン、オゾンなどの微量成分を含む。実環境では水蒸気(H2O)の混入が大きく、空気の密度、比熱、音速などの物性は温度、圧力、湿度によって変動する。工学や製造の場では乾燥空気(ドライエア)や高純度空気が区別され、品質規格や露点で管理される。
物性(密度・粘度・比熱・音速)
- 密度:標準状態の乾燥空気は約1.2 kg/m³。理想気体近似では ρ=p/(RairT)、Rair≈287 J/(kg·K) を用いる。
- 粘度:動粘度νは温度に依存し、室温でおよそ1.5×10−5 m²/s前後である。
- 比熱:定圧比熱cpは約1.0 kJ/(kg·K)、比熱比γ(κ)は約1.4で、圧縮や膨張の挙動を規定する。
- 音速:室温の空気で約340 m/s。音速は√(γRT)に比例し温度上昇で増加する。
気体の法則と状態方程式
空気は広い範囲で理想気体として扱えるため、pV=nRTに従う近似が有効である。圧力が高く温度が低い領域では圧縮係数Zの影響が現れ、非理想性が増す。設計計算では安全側を見込むため、必要に応じて状態方程式(例えばVirial展開)や実測データを用いて空気の振る舞いを補正する。
湿度・露点と空調工学
湿り空気は乾燥空気と水蒸気の混合物として扱い、相対湿度φ、絶対湿度x、露点温度Tdなどで表現する。飽和水蒸気圧pws(T)は温度で決まり、φ=pw/pwsで定義される。クリーンルームや乾燥プロセスでは露点(例:−40 °C以下)や温湿度の安定管理が歩留まりに直結し、湿潤による酸化、帯電、吸湿を抑制する設計が求められる。
圧力・気圧と単位
標準大気圧は101 325 Paであり、SIではPaが推奨される。工場現場ではbar、atm、mmHgなどが併用される場合があるため換算表の整備が望ましい。電気分野の電圧単位はV(ボルト)であり、気圧の単位と混同しないよう注意する。圧縮空気供給ではゲージ圧(表圧)と絶対圧の区別が重要で、コンプレッサやレギュレータの選定に影響する。
流体力学(Re・Maと流れ)
空気流の性状は無次元数で整理できる。レイノルズ数Re=ρVL/μは層流・遷移・乱流の区分に用い、機械要素周りの損失係数や伝熱係数を左右する。マッハ数Ma=V/aは圧縮性の影響を表し、Ma>0.3付近から圧縮性を無視しにくくなる。配管設計では圧力損失、騒音、脈動、渦放出(カルマン渦街)への配慮が必要である。
熱・燃焼と理論空気量
燃焼は空気中の酸素と燃料の化学反応であり、理論空気量を基準に過剰空気比λで管理する。λが過小だと一酸化炭素や未燃分が増え、過大だと排気損失やNOx生成が増える。ボイラ、焼成炉、エンジンでは酸素濃度、煙道ガス成分、火炎温度の最適化が効率と排出の鍵となる。
産業利用と品質管理
- 圧縮空気:駆動源(空圧機器)、パージ、ブロー、搬送に用いる。含水・含油・粒子は弁やセンサの故障要因となる。
- 清浄度:フィルタ(粗塵、微粒子、HEPA)、ドライヤ(冷凍式、吸着式)で空気の粒子・水分・油分を管理し、露点や粒径別濃度で記録する。
- 材料影響:酸化・腐食・劣化、帯電や粉体の付着性など、空気との相互作用を工程設計に反映する。
計測・センサ
空気の監視には圧力計(ブルドン管、静電容量式)、流量計(熱式、差圧式、渦式)、温湿度計(抵抗変化式、静電容量式、露点計)、ガス分析計(NDIR、電化学式、質量分析など)が用いられる。配管のリーク試験、差圧監視、クリーン度測定を組み合わせ、安定した環境を維持する。
環境と健康影響
空気の質は人の健康と設備保全に直結する。PM2.5、VOC、オゾン、NOx、SOx、微生物などの指標管理が重要であり、換気回数、捕集効率、発生源対策を統合して評価する。屋内環境では換気計画とフィルタ選定、屋外では排出規制や拡散予測が有効である。
安全上の注意(補足)
酸素欠乏は18 vol%未満でリスクが高まり、密閉空間作業では連続監視が不可欠である。高酸素濃度は可燃物の発火・延焼を促進する。圧縮空気の直吹きは眼・皮膚を損傷し得るため、ノズル形状や防護具を含む安全対策を徹底する。
用語上の注意(補足)
空気は工学用語として厳密に扱う一方、日常語では「場の雰囲気」を指す比喩にも用いられる。技術文書では定義、単位、条件を明記し、電圧単位V(ボルト)など紛らわしい表記を避けることで誤解を防げる。
言語と文化(補足)
日本語には「空気を読む」という表現があり、場の文脈理解を示す。科学的内容から離れるが、概念の拡張として語用論や哲学の読解にも通じる。興味があれば思想家の議論(例:ニーチェ、サルトル)を参照し、言葉としての空気の使い分けを意識するとよい。