音波
音波とは、媒質中の微小な圧力・密度のゆらぎが伝搬する弾性波である。気体では主として縦波として進み、固体では縦波に加えてせん断弾性に起因する横波も存在する。人の可聴域はおおよそ20 Hz~20 kHzであり、それより低いものを次低周波、より高いものを超音波と呼ぶ。線形近似が成り立つ範囲では、ゆらぎは平面波として記述でき、位相、振幅、周波数、波長などの波動量で表現される。伝搬速度は媒質の熱力学・弾性特性と温度に依存し、気体では c≈√(γRT/M)、液体・固体では体積弾性率やヤング率と密度で与えられる。測定・評価では音圧、強度、音響インピーダンス、周波数スペクトル、レベル(dB)などが重要となる。
物理的性質
音波は媒質の平衡状態のまわりに発生する微小擾乱であり、波動方程式で支配される。媒質の粒子は往復運動を行うが、物質そのものは波の進行方向に輸送されない。干渉・回折・反射・屈折・散乱といった波動特有の挙動を示し、境界条件や幾何により定在波や共鳴が生じる。パワーの流れはポインティングに相当する音の強さで表され、位相と振幅の空間分布が音場を決定する。
伝搬速度と媒体依存性
気体の等エントロピー近似では c=√(γp/ρ)=√(γRT/M) で近似される。固体棒の縦波は c≈√(E/ρ)、液体では c≈√(K/ρ) である。温度上昇で気体の c は増大し、湿度は空気の平均分子量を下げるため、わずかに c を高める傾向がある。代表値として、乾燥空気(20 ℃)で約343 m/s、水で約1480 m/s、鋼でおよそ5000 m/sである。
- 気体:比熱比 γ と温度 T が主要因となる。
- 液体:体積弾性率 K の大きさが支配的である。
- 固体:ヤング率 E と密度 ρ が重要で、横波速度はせん断弾性率で決まる。
波長・周波数・位相
- 波長 λ:λ=c/f で定義され、周波数 f が高いほど短い。
- 周波数 f:音色・高さ感に強く関与する。
- 位相 φ:合成・干渉で重要で、同位相で強め合い、逆位相で弱め合う。
音圧・強度・レベル
瞬時音圧 p の実効値 prmsから、音の強さ I は I≈prms2/(ρc) と近似される。音圧レベル Lp は基準音圧 p0=20 μPa に対し Lp=20 log10(prms/p0) [dB] で定義される。実務では A特性レベル LA や等価騒音レベル LAeq が用いられる。
音源モデルと放射
遠方場では音源はモノポール(体積変化源)、ダイポール(力源)、クアドラポール(せん断乱流源)として近似できる。スピーカ振動板はモノポールとダイポールの合成、ジェット騒音はクアドラポール寄与が卓越する。音響出力は音響パワーレベル Lw で評価され、指向性関数により空間分布が定まる。
スペクトル解析と表現
音波信号はフーリエ解析により周波数スペクトルへ分解される。定常音は離散高調波列、非定常音は短時間フーリエ変換(STFT)やウェーブレットで時間周波数表現を得る。実装には FFT を用い、実務では1/3オクターブバンド表記が広く使われる。
波動方程式と境界条件
線形化ナビエ–ストークスと状態方程式から、音圧 p は ∂²p/∂t²=c²∇²p に従う。剛壁では法線速度がゼロ、開口端では音圧が小さいといった境界条件が適用され、管路やキャビティで共鳴周波数が生じる。減衰は粘性・熱伝導・散乱で説明される。
反射・透過とインピーダンス整合
音響インピーダンス Z=ρc のミスマッチは界面反射を生む。平面波の反射係数は R=(Z2−Z1)/(Z2+Z1) で与えられ、|Z| が近いほど透過しやすい。吸音材は粘性・熱的損失で有効インピーダンスを調整し、残響時間 T は Sabine の近似 T≈0.161 V/A により空間の平均的な減衰を評価できる。
干渉・回折と指向性
複数波の重ね合わせは干渉縞を形成し、開口や障害物では回折により影領域にも伝搬する。配列音源は位相制御でビームフォーミングが可能であり、波長に対して開口が大きいほど鋭い指向性を得る。
ドップラー効果
相対運動により観測周波数が変化し、観測者速度 vo と音源速度 vs に対し fd=f(c±vo)/(c∓vs) で近似される。交通騒音の分析や流体計測(超音波流量計)に用いられ、救急車のサイレンで身近に観察できる。
非線形伝搬と衝撃波
高振幅の音波では非線形が顕在化し、波形の前縁が尖る歪みや高調波発生、ついには衝撃波形成が起こる。バーガーズ方程式は粘性拡散と非線形急峻化の競合を記述し、強力超音波の指向性拡張(パラメトリックアレイ)などに応用される。
応用分野
- 非破壊検査:超音波探傷は内部欠陥検出に有効で、パルスエコーやフェーズドアレイが用いられる。
- 医用超音波:Bモード、ドプラ法、造影剤を組み合わせた診断・治療支援。
- 建築音響:ホールの初期反射・残響制御、遮音・吸音設計。
- 環境騒音:騒音評価指標 LAeq、遮音壁設計、アクティブノイズコントロール。
- 水中音響:ソナー探知、音響通信、海洋環境の遠隔センシング。
- 楽器設計:共鳴体・開口条件・材料による音色制御。