真空チャック|負圧で薄物ワークを歪み少なく固定

真空チャック

真空チャックは、基板や金属板、樹脂板などの平板ワークを大気圧との差圧で吸着固定する治具である。吸引によりワーク下面の圧力が低下し、上面の大気圧との圧力差Δpと有効面積Aの積に相当する保持力F=Δp×Aが得られる。機械加工、研削・研磨、検査・測定、電子部品や半導体ウェーハの搬送・露光・貼り合わせなどで広く用いられる。機械式クランプのような応力集中を与えず、面で把持できる点が特徴である。

作動原理と力学

真空チャックの保持力は周囲圧力(およそ101kPa)とチャック面圧の差に依存する。理論上の上限は大気圧差であり、高真空そのものは不要である。実務ではリーク、面の反り、表面粗さ、流路抵抗によりΔpが低下するため、目標面圧に対し安全率を見込む。滑りに対しては摩擦係数μを考慮し、面内せん断耐力はμ×Fで評価する。吸着面のテクスチャやOリング溝によりシール性と排気経路を両立させる。

構造と主要方式

構造はベースプレート、吸引ポート、流路(溝または多孔質層)、シール材で構成される。方式は大別して「溝式」と「ポーラス式(多孔質)」があり、対象や清浄度要求に応じて選定する。薄物や脆性材では支持点分布と面圧均一性が重要である。

  • 溝式:放射状・格子状の溝で排気し、Oリングで周縁シールする。加工容易で汎用性が高い。
  • ポーラス式:多孔質セラミックス等から面全体で吸引し、微小ワークや微粒子抑制に有利。
  • 局所パッド式:小面積の吸着パッドを多数配置し、局所変形を抑える。

設計パラメータ

平面度、表面粗さ、流量、シールライン、配管径、真空源能力が保持力と応答に直結する。特に薄板では面外たわみと面内せん断の両立が難しく、支持パターン最適化が要点となる。吸着面の微細パターンは排気短絡と面圧均一化を両立させる設計変数である。

  • 平面度・反り:目標面圧でのたわみをFEMや板曲げ理論で予測する。
  • リーク・排気経路:周縁シールと面内流路の圧損を最小化する。
  • 表面粗さ:粗すぎると漏れ、細かすぎると密着で剥離困難となる。
  • 安全率:Δp実効値、μ、外力(切削抵抗・加速度)を含め1.5〜3程度を確保する。

材料と表面技術

母材はアルミ合金(軽量・加工性)、ステンレス(耐食)、セラミックス(清浄・剛性・低熱膨張)が代表的である。アルマイトやDLC等の表面処理は摩耗・付着低減に有効である。ポーラス式ではアルミナやSiC多孔質体が用いられ、粒度と空隙率で透過特性を調整する。シールはNBRやFKMのOリングが一般的である。

真空源・配管・制御

真空チャックはロータリーポンプやドライポンプ、あるいはコンプレッサを用いたエジェクタで差圧を生成する。配管は内径確保と最短経路で圧損を抑え、手動弁・電磁弁・スロットルで立上りと保持を制御する。真空計(ブルドン管式ゲージやピラニ等)で面圧を監視し、脱着は真空遮断→エアブローの順で行う。

  1. 立上り:遮断弁閉→ポンプ起動→吸着面排気→所定Δp到達。
  2. 保持:スロットル調整で流量安定、真空度監視。
  3. 解放:吸引停止→微量ブロー→ワーク浮上→搬送。

用途と選定指針

半導体ウェーハ、フラットパネルガラス、カーボン板、金属薄板の加工・測定・洗浄工程で用いる。脆性材研磨ではポーラス式が異物再飛散を抑え、切削・開口加工では溝式が排屑性に優れる。自動機では位置決め基準の一貫性(ピン・キー併用)と吸着状態監視のインターロックが品質保証に有効である。

計算例(概算)

直径150mmの円板を例に取る。半径r=0.075m、面積A=πr²≒0.0177m²。実効差圧Δp=60kPaとすると保持力F≒60,000×0.0177≒1,060N(約108kgf)である。面内滑りに対する耐力はμ=0.2とすれば約212Nであり、切削抵抗や加速度外力がこれを下回るようプロセス条件を調整する。実機ではリーク・反りによるΔp低下を見込み、吸着面の分割ゾーニングで局所最適化を図る。

トラブル事例と対策

保持不安定、位置ズレ、剥離不良、表面傷は典型的な事象である。異物によるシールライン破壊はリーク増大を招くため、前段での清浄化とフィルタ設置が必須である。薄物のビビリには支持ピッチの細分化や背圧制御が有効である。剥離困難は微量のエアブローや離型処理で緩和できる。

  • 吸着面清掃:無塵ウェス・イソプロパノールでの定期清掃。
  • 配管点検:継手緩み・亀裂・フィルタ目詰まりの確認。
  • ゲージ校正:基準ゲージで定期比較しΔpの見積り誤差を排除。

関連機構との比較と併用

真空チャックは面圧で応力を分散できる一方、差圧が確保できない粗面・多孔材には不向きである。機械式クランプやトグルクランプ、ねじ締結(例:ボルト)は局所固定力に優れ、切削大荷重には有利である。磁力吸着は強磁性材に限定される。静電チャックは絶縁材でも保持可能だが電源・安全対策を要する。工程の荷重・清浄度・段取り時間を総合評価し、基準ピンや側押しとの併用で位置再現性と加工安定性を高めるのが実務的である。