汚泥
汚泥とは、排水処理や製造工程で発生する泥状の物質の総称である。下水処理場で微生物が有機物を分解したあとに残る沈殿物、めっき工場の排水を中和したときに生じる金属水酸化物、浄水場で河川水の濁りを取り除いた際の泥などがこれに含まれる。日本の産業廃棄物のうち、排出量が最も多い種類でもある。水分を多く含み、そのままでは運搬にも埋立にも向かないため、濃縮・脱水・焼却といった段階を経て減量し、最終的に処分するか資源として再利用する。
活性汚泥法の誕生と汚泥問題の始まり
現代の汚泥処理の出発点は、1914年に英国マンチェスターでアーデンとロケットが発表した活性汚泥法にある。好気性微生物の塊を曝気槽で循環させ、排水中の有機物を効率よく分解するこの方式は、またたく間に世界の下水道に広まった。ただし、微生物は有機物を食べて増殖する。増えた分は「余剰汚泥」として系外に引き抜かなければならず、処理能力が高まるほど発生する泥も増えるという矛盾を抱えることになった。日本では1922年に東京の三河島処理場が稼働し、高度経済成長期の下水道整備とともに発生量が急増した。
法律上の扱いと発生量の規模
1970年に制定された廃棄物処理法では、汚泥は事業活動に伴って生じる20種類の産業廃棄物の一つに指定されている。環境省の集計によると、全国の産業廃棄物排出量は年間およそ3億7000万トンで、その約44%、1億6000万トン前後を汚泥が占める。この数字は脱水前の湿重量で数えられているため、実際の固形分はずっと少ない。下水処理場由来のものに限れば、乾燥重量ベースで年間約230万トンが発生している。2015年の下水道法改正では、下水道管理者に対して燃料化や肥料化による再生利用の努力義務が課された。
有機性と無機性で異なる性質
現場では、成分によって大きく二つに分けて扱う。下水処理場や食品工場、製紙工場から出るものは有機物を多く含む有機性汚泥で、腐敗しやすく臭気が出る。放置するとメタンや硫化水素が発生するため、早めの処理が欠かせない。これに対して、金属加工やめっき、窯業、建設現場の掘削工事から出るものは無機性汚泥と呼ばれる。腐敗の心配は少ないが、クロムや鉛、カドミウムといった重金属を含む場合がある。溶出試験で基準値を超えたものは特別管理産業廃棄物に分類され、委託先の許可区分も変わる。分析の段階で区分を誤ると、契約し直しになる。
含水率が処理コストを左右する理由
処理費用のほとんどは水を運び、水を燃やす費用である。そう言い切ってもよいほど、含水率の影響は大きい。含水率は次の式で表す。
含水率(%)= 水分の質量 ÷ 汚泥全体の質量 × 100
沈殿池から引き抜いた直後の泥は含水率が98%前後ある。100kgのうち固形分はわずか2kgしかない。これを脱水して含水率80%まで下げると、全体の質量は2kg ÷ 0.2 = 10kgとなり、もとの1/10に減る。たった18ポイントの差で、トラック10台分が1台分になる計算である。そのため処理場では、重力濃縮や遠心分離機による濃縮を経てから脱水工程に送り、凝集剤として高分子ポリマーを固形分あたり1%程度添加してフロックを大きくする。
代表的な脱水機の比較
脱水機は、処理量、泥の性状、電力コストを見比べて選定する。主な機種の特徴は次のとおりである。
| 機種 | 脱水ケーキ含水率の目安 | 消費電力 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| ベルトプレス | 78〜85% | 小 | 中規模の下水処理場、食品工場 |
| 遠心脱水機 | 75〜82% | 大 | 大規模処理場、連続運転 |
| スクリュープレス | 75〜83% | 小 | 小規模工場、無人運転 |
| フィルタープレス | 55〜70% | 中 | 無機性の泥、めっき・窯業 |
中小の工場では、初期費用を抑えたくてフィルタープレスを中古で導入することが多い。ところが、ろ布の交換や目詰まりの清掃に人手を取られ、結局スクリュープレスに入れ替えたという話は珍しくない。設備費だけでなく、毎日の運転にかかる人の手間まで含めて比べたい。
焼却・消化・資源化のルート
脱水後の汚泥は、性状と地域の受け入れ先に合わせて行き先が決まる。主なルートを挙げる。
- 流動床式の焼却炉で850℃前後で燃やし、灰にして体積を約1/30に減らす。高温で燃やすのは、温室効果の強い一酸化二窒素の発生を抑えるためである。
- 嫌気性消化槽で35℃または55℃に保ち、20〜30日かけて有機物を分解する。発生するバイオガスは発電や燃料に使える。
- 焼却灰や乾燥汚泥をセメント工場に送り、粘土の代わりの原料として利用する。
- コンポスト化や乾燥造粒によって肥料にする。リンを多く含むため、輸入リン鉱石の代替として2022年以降に注目が高まった。
下水由来のものについては、建設資材とエネルギー利用を合わせた有効利用率がおよそ75%に達している。とはいえ、産業系の汚泥は成分が工場ごとに異なり、受け入れ先が見つからないまま管理型最終処分場で埋め立てられるものも少なくない。
委託処理で起きやすい問題
処理業者に委託する場合、処理単価は性状や地域によって変わるが、1トンあたり1万円台後半から4万円程度が目安とされる。見積もりの段階では、含水率と油分の値が単価を大きく動かす。油分が多いと焼却炉の温度管理が難しくなり、受け入れを断られることもある。マニフェスト(産業廃棄物管理票)の交付と5年間の保存義務を怠ると、排出事業者自身が行政処分の対象になる。業者任せにせず、年に1回は処理施設を見学して実際の処理状況を確認しておくのが、現場担当者の間では常識になっている。
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