技術継承|後継者にスキルや知識を伝え、持続可能な技術マネージメント

技術継承

技術継承とは、事業を継続するために後継者にスキルや知識を伝え、持続可能な技術マネージメントをいう。製造業の多くは技術継承に課題を持っており、技術者不足のために事業廃止に至るケースも多い。一方で、技術継承が優れている会社は、労働生産性が高く人材の成長も早い。熟練技術者と新人の技術継承をスムーズに図るため、取り組み方法を確立する必要がある。そのためにはOJT、マニュアル(文書・動画)化、教育の仕組化、図面、データベースがある。

技術と技能の違い

技術とは大きく「技術」と「技能」に分類される。「技術」とは物事に対する方法や手段を指し、知識ベースにしたもので、言葉、文章で表現でき、マニュアル化しやすい。一方、技能とは、知識というよりは身体をベースとした能力で言語化が困難である。技能を習得するためには技術を知り、考え、実際に手を動かし、経験を積む必要がある。たとえば、レンズがどのような設計をすればよいか、計算し、理論から考えるのは技術であり、実際にレンズを製造し、研磨し、それを実現するのは技能の世界である。

技術・技能の継承

技術はマニュアル化することで技術は伝達できる。ただし、膨大な量となるため教育コストが高い。また人の一生ですべてを把握することが不可能な量のため、長い時間をかけて継承していく必要がある。技能は実践で培われることによって継承される。文書化することは困難で実務を積み重ねることで習得していく。紙や動画で伝える技術と違い、感覚的な側面が強く技術継承が難しい。

技術継承が求められる背景

現在の日本は少子高齢化や後継者不足のため技術継承がうまくいっていない。若者が少なく全体のパイが小さいのに加えて、労働が多様化・自由化していき、雇い負けも起こっている。さらに諸外国の技術力向上と安価な労働力を背景に競争が激化し、人件費を上げることができない。こうした背景で技術を学びたい若者は年々減少していき、中小企業では後継者不足による倒産が相次いでいる。現状において技術継承がうまくいっている企業は少なく、現在活躍している高齢の技術者が退職してしまうと人手不足に拍車がかかる。最後は、技術そのものが失われ、日本の製造業全体がますます衰退していく。

技術継承の問題点

技術継承が求められる製造業であるが、取り組みが進まない要因が複数ある。企業の考え方から仕組み作りまで技術継承の課題を以下で解説する。

技術継承の軽視

過剰の若手不足から技術継承をあきらめ、熟練技術者がすべて担う企業がある。若手育成ができないまま熟練した技術者が退職すると、満足な技術継承が行うことができず、製品の製造ができなくなる。

熟練技術者の負担増加

通常作業に加えて若手育成を行う技術者の負担が増える。また、仕事を教えることに向いていない熟練技術者もいるため、熟練技術者と若手の双方がストレスを感じる。結果として業務過多で熟練技術者の健康が損なわれたり、技術者との摩擦で退職する若手が出てくるケースも少なくない。

技術継承が仕組み化されていない

技術継承のノウハウやOJT(On the Job Training)の仕組みが確立されていないため、技術を習得できない、レベルのばらつきが発生し、社員の負担も増加する。技術伝承をスムーズに進めるため、マニュアルの作成、ツールやシステムの導入、担当役職の設置など、仕組み化が不可欠である。

若手の非積極性

新人技術者が技術やノウハウの習得が意欲的ではないケースがある。新人技術者自身が技術の価値がわからない、給与メリットがない、将来性がない、そのほかの仕事に魅力を感じる、などがある。新人技術者の積極性に欠けると、技術者のモチベーションが上がらず、たとえ高いモチベーションで指導しても成長は期待できない。

マニュアル化の不徹底

技術継承の有力な方法のひとつがマニュアル化であるが、マニュアル化が不十分であれば技術継承が進まない可能性がある。また技術は絶えず改良・発展しており、技術すべてを網羅し、常に新しいマニュアルを作り続けるのは極めてハードルが高い。たとえそのようなマニュアルを作成したとして、新人技術者がそれをすべて熟読・理解することは困難である。

技術継承を解決方法

技術継承の解決方法はOJT、マニュアル(文書・動画)、技術者へのサポート体制、技術継承のシステム化、若手人材の確保がある。

OJT

OJT(On the Job Training)は日本で最も多く取られている方法である。新人技術者が熟練技術者と一緒に作業を体験し、技術や知識、ノウハウなどを直接教育する方法である。OJTは技術継承する熟練技術者にも負担がかかるため業務に支障が出ることがある。

マニュアル(文書・動画)

マニュアルの作成、特に動画を活用した技術継承が有効であるとされる。いつでも確認できるように、動画として技術の教授を残しておく。言葉で伝えきれない細かい情報まで伝えることができ、体系的に何度も学べる。特に言語化がむずかしい感覚的な技術の伝達は重要である。新人技術者にとっても熟練技術者にとっても負担を減らすことができ、有効である。

熟練技術者へのサポート整備

企業が技術継承の重要性や内容を理解し、熟練技術者をサポートし、就業時間内に指導時間を設け、作業の調整などを行うことで熟練技術者の負担を減らす。

技術継承の仕組み化

技術や技能継承を次世代へ引き継ぐには、システムとして確立する必要がある。多くのコンテンツや研修システムを確立し、人材教育を効率よく進めることができる。

技術継承のツール

技術継承についてのツールがある。図面、データベースである。

図面

図面には様々の技術ノウハウや設計意図が含まれている。図面を読み取り、内容を理解し、個々の設計者の技術をつけることが求められる。

データベース

企業内の技術ノウハウをデータベース化して整理する必要がある。設計者は必要なタイミングでデータベースを閲覧し、その技術ノウハウにアクセスできるとよい。これらデータベースをただ利用できる状態にするだけでなく、計画的に若手設計者を教育していくとよい。

タイトルとURLをコピーしました