延性|金属材料が破断せずに伸びる性質

延性

延性とは、金属材料などが破壊に至るまでの間、引張力を受けて糸状ないし線状に大きく塑性変形できる性質のことである。延性に富む材料は、破断する前に著しい伸びを示すため、加工のしやすさや構造物の安全性を左右する重要な機械的性質として位置づけられる。延性は展性としばしば混同されるが、展性が圧縮力による面方向の広がりやすさを示すのに対し、延性は引張力による長さ方向の伸びやすさを示す点で区別される。金や銀、銅、アルミニウムなど面心立方構造を持つ金属は一般に高い延性を示し、線材や薄板への加工に適している。逆にセラミックスやガラス、鋳鉄の一部は延性にほとんど乏しく、わずかな変形で破断するため、構造設計の現場では材料選定の初期段階から延性の有無が重要な判断基準となる。日本工業規格に基づく各種材料規格においても破断伸びの下限値が保証項目として定められている例が多く、延性は品質管理の観点からも欠かせない指標である。

延性のメカニズムと結晶構造

延性を支配する根本的な要因は、結晶内部における転位の運動である。外力が加わると原子面に沿って転位が移動し、これが多数の原子面で連続することで巨視的な塑性変形として現れる。すべり系の数が多い面心立方構造の金属は、転位が動きやすい方向が豊富であるため延性に優れる。一方、体心立方構造の金属は低温ですべり系が制限されやすく、六方最密構造の金属はさらにすべり系が少ないため、同じ金属であっても結晶構造の違いによって延性の程度は大きく異なる。また、転位の移動を妨げる抵抗の大きさはパイエルス応力と呼ばれ、この値が小さい金属ほど転位が動き出す応力が低く、常温でも高い延性を発揮しやすい。合金元素の固溶や析出物の生成は転位の移動経路を阻害するため、強度を高める代わりに延性を犠牲にする傾向があり、材料設計では両者のバランスを取ることが求められる。

延性の評価方法

延性の評価には、一般に引張試験が用いられる。試験片を軸方向に引っ張り、破断に至るまでの応力-ひずみ曲線を記録することで、破断伸びや絞り(断面収縮率)といった指標を求めることができる。破断伸びは、破断後の試験片の標点間距離が元の長さに対してどれだけ増加したかを百分率で示したもので、この値が大きいほど延性に富むと判断され、逆に破断前にほとんど変形せず破断する材料は脆性材料と呼ばれる。引張強さが高い材料ほど延性が低下する傾向があり、両者はしばしばトレードオフの関係にある。板材の成形性を評価する際には、破断伸びに加えて加工硬化指数やランクフォード値なども補助的な指標として用いられ、深絞り加工など複雑な形状への成形可否を予測するうえで重要な役割を果たす。

延性に及ぼす影響因子

延性は温度、結晶粒径、不純物の含有量、ひずみ速度など複数の因子によって変化する。一般に温度が上昇すると原子の熱振動が活発になり転位が動きやすくなるため延性は向上するが、低温では脆化が進みやすい。また、結晶粒界が微細であるほど強度と延性を両立しやすいことが知られており、粒界に偏析する不純物や硬質な介在物は転位の移動を妨げ、延性を著しく低下させる要因となる。水素が鋼材内部に侵入して延性を大幅に損なう水素脆化のように、目視では判別しにくい劣化要因が存在する点にも注意が必要である。

  • 温度:高温になるほど延性は向上しやすい
  • 結晶粒径:微細粒化は強度と延性の両立に有利である
  • 不純物・介在物:粒界偏析や硬質介在物は延性を低下させる
  • ひずみ速度:速い変形は延性を低下させやすい

延性を示す代表的な材料

金や銅、アルミニウム、軟鋼などは代表的な延性材料であり、大きな伸びを許容しながら塑性変形する。球状黒鉛を組織中に分散させたダクタイル鋳鉄は、通常の鋳鉄が乏しい延性を大幅に改善した材料であり、その名称自体が英語のductile(延性のある)に由来する。反対に、強度を優先した高張力鋼は引張強さに優れる一方で延性が制限されやすく、破壊に対する粘り強さを示す靭性とのバランスを考慮した材料設計が求められる。純金属は一般に合金よりも高い延性を示すが、強度が低いため実用部品には合金化や熱処理によって強度と延性を両立させた材料が広く採用されている。

材料 結晶構造 延性の傾向
金・銀・銅 面心立方 非常に高い
軟鋼 体心立方 高い
マグネシウム 六方最密 低い
鋳鉄(片状黒鉛) 体心立方+黒鉛 非常に低い

延性を利用した加工技術

延性に富む材料は、金型やダイスを通して引き伸ばす延伸加工や、高い荷重を加えて成形する鍛造など、幅広い塑性加工に適している。線材をダイスに通して細く引き伸ばす伸線加工や、板材を型に沿って絞り込む深絞り加工も延性の高さを前提とした代表的な加工方法であり、延性が不足する材料ではこれらの工程で割れが生じやすい。加工の途中で延性が低下する加工硬化が進んだ場合には、焼なましなどの熱処理によって組織を軟化させ、延性を回復させる工程が挟まれることも多い。自動車のボディパネルや飲料缶のように複雑な形状へ薄板を成形する製品では、成形途中の破断を避けるために高い延性を持つ鋼板やアルミニウム板が選定され、成形限界図を用いて割れの発生しやすさが事前に検討される。

延性破壊と脆性破壊

材料が破壊する様式は、延性の大小によって大きく異なる。延性材料は破断前に大きな塑性変形を伴い、断面が絞られながらせん断型の破面を形成する延性破壊を示すのに対し、脆性材料はほとんど変形せずに急激に破断する脆性破壊を示す。同一の材料であっても温度が低下すると延性から脆性へと破壊様式が転じる延性脆性遷移が生じる場合があり、低温環境で使用される構造物や圧力容器の設計においては、この遷移温度を十分に把握しておくことが安全性の確保のうえで欠かせない。過去には、低温海域を航行した船舶の船体が脆性破壊によって突然破断する事故も報告されており、材料の延性を正しく評価し設計に反映することの重要性を示す教訓となっている。

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