塑性変形
外力により弾性限度を超えた材料が永久的に変形する現象が塑性変形である。弾性変形とは異なり荷重を除去しても形状が回復せず、結晶学的な欠陥の移動や微細構造の再配列を伴ってエネルギーが不可逆的に散逸する点で特徴付けられる。工学的には成形加工、機械要素の耐久設計、破壊予測など多くの分野で中心的な概念である。
発生機構(すべりと転位)
塑性変形の主要メカニズムは結晶中の転位(dislocation)移動によるすべりである。外力は転位を駆動し、転位が面内を移動することで多数の原子面が相対変位を起こす。単一結晶では滑り系の活動が支配的であり、多結晶材料では粒界や転位の相互作用がマクロな応答を決定する。
降伏と降伏基準
材料が永久塑性を開始する応力を降伏点という。実務では多軸応力状態を扱うため、von Mises(等価応力)やTresca(最大せん断)といった降伏基準が用いられる。これらは応力テンソルからスカラー量を算出し、単軸試験で得た降伏強さと比較して塑性開始を判定するモデルである。
加工硬化(ワークハードニング)
塑性変形が進行すると転位密度が増大し、転位の相互作用により材料は硬化する。これを加工硬化と呼び、経験的には塑性変形量に依存する応力増加として表現される。代表的な constitutive law は power-law(σ = K ε^n)であり、n は加工硬化指数である。
ひずみ速度と温度依存性
ひずみ速度(strain rate)や温度は塑性挙動に強く影響する。高温では拡散や再結晶が活発化して軟化し、低温・高速度では脆性化が促進される。高温塑性や熱間加工では温度とひずみ速度の相互作用を考慮した constitutive モデルが必須である。
クリープと超長期変形
高温での長時間荷重下では時間依存の永久変形、すなわちクリープが生じる。クリープは一次(軟化)、二次(定常)、三次(加速)の段階を取り、材料設計ではクリープ強度や破断時の累積ひずみ量を基に寿命評価を行う。
微視構造と強化機構
粒径、析出物、固溶元素、繊維配向など微視構造因子は塑性変形挙動を決定する。Hall-Petch の関係により粒径微細化は降伏強さを上昇させ、析出強化や分散強化は転位の移動を阻害して加工硬化を増大させる。一方で低い stacking fault energy はすべりよりも転位双晶や部分転位を誘発する。
試験法と工学的評価
単軸引張試験は塑性特性の基本であり、工学応力-工学ひずみ曲線から降伏強さ、引張強さ、伸び、断面収縮率などが得られる。真応力-真ひずみ曲線はネッキング後の挙動を正確に表すため設計や塑性加工解析では重要である。
成形限界と加工設計
板材などの塑性加工では成形限界図(FLD: forming limit diagram)を用いて局部的なネッキングや亀裂の発生を予測する。塑性加工工程設計では加工硬化、局所的な応力集中、潤滑条件、曲げ半径などを総合的に考慮する必要がある。
数値モデルと有限要素解析
工学的解析では Prandtl-Reuss 等の小変形弾塑性法則や、大変形下での有限ひずみ理論、等方性・動的硬化ルール(isotropic/kinematic hardening)を用いる。FEM による塑性解析では適切な材料モデル、要素配列、メッシュ精度、ひずみ硬化則の同定が解析精度を左右する。
損傷進展と破壊の関係
塑性変形は同時に空孔核生成、成長、連続化を伴い、これが最後に破壊につながる。Gurson 型の損傷モデルや連続体損傷力学は空孔体積率と応力状態を用いて破壊予測を行う。疲労載荷下では微小塑性繰返しが亀裂核生成を促進する。
工業的意義と応用
塑性成形技術(鍛造、圧延、深絞り、押出しなど)は材料を有効利用して高強度部材を作る鍵である。構造設計では塑性解析により降伏後の残留強度、余裕度、衝撃荷重下の能動的エネルギー吸収性能を評価できるため、安全性とコストを両立する設計指針として不可欠である。