塩化第二鉄|エッチングや水処理に活躍する鉄塩

塩化第二鉄

塩化第二鉄は、化学式FeCl3で表される鉄の塩化物である。IUPAC名では塩化鉄(III)と呼ばれ、鉄が+3価の状態で塩素と結びついている。無水物のモル質量は162.2 g/mol。工業的には濃度37〜40%程度の黄褐色の水溶液として流通することが多く、プリント基板のエッチング液や上下水道の凝集剤として大量に使われている。金属を溶かす力と水中の濁りを沈める力という、一見かけ離れた2つの性質をあわせ持つ点が、この物質の工業的な価値を支えている。

名称の由来と塩化第一鉄との違い

「第二鉄」は、鉄イオンのうち価数の高いFe3+を指す古い命名法に基づく。これに対し、Fe2+を含むFeCl2は塩化第一鉄と呼ばれる。現在の学術用語では塩化鉄(III)・塩化鉄(II)の表記が推奨されるものの、製造業や水処理の現場では今も「第二鉄」「第一鉄」の呼び方が主流である。両者は混同されやすいが、性質は大きく異なる。塩化第二鉄は酸化力を持ち、銅や鉄を溶かす。塩化第一鉄にはその力がほとんどない。

物理的・化学的性質

無水物は暗褐色から黒緑色の金属光沢を帯びた結晶で、空気中の水分を急速に吸収して溶ける潮解性を示す。市販試薬の多くは六水和物FeCl3・6H2Oで、こちらは黄褐色の塊状結晶として扱われる。水に溶かすと加水分解が進み、溶液は強い酸性を示す。40%前後の工業用液のpHは1を下回るほどで、皮膚や金属への腐食性が高い。

項目 無水物(FeCl3) 六水和物(FeCl3・6H2O)
モル質量 162.2 g/mol 270.3 g/mol
外観 暗褐色〜黒緑色の結晶 黄褐色の結晶
融点 約306 ℃ 約37 ℃
沸点 約315 ℃(分解を伴う) —
水への溶解性 極めて高い(発熱を伴う) 極めて高い

気相中では2分子が会合したFe2Cl6の形をとる。電子対を受け取りやすいルイス酸としての性格も強く、この性質が有機合成での触媒利用につながっている。

製造方法

代表的な製法は、塩化第一鉄の水溶液に塩素ガスを吹き込んで酸化させる方法で、反応式は2FeCl2 + Cl2 → 2FeCl3となる。原料の塩化第一鉄には、鉄鋼の酸洗工程で発生する廃塩酸が使われることが多い。つまり製鉄所の副産物を資源として再利用する構図であり、国内の水処理用製品もこのルートで作られたものが少なくない。無水物が必要な場合は、500〜700 ℃程度で鉄くずに乾燥塩素を直接反応させ、昇華した生成物を回収する。

金属エッチング液としての役割

銅を溶かす反応はCu + 2FeCl3 → CuCl2 + 2FeCl2で表される。この性質を利用し、1950年代以降、銅張積層板から不要な銅箔を除去して回路を形成する工程で広く採用されてきた。液温40〜50 ℃、比重はボーメ度で40〜42°Béに管理するのが一般的で、温度が10 ℃上がるとエッチング速度はおおむね1.5〜2倍に速まる。もっとも、量産のプリント基板ラインでは、液の再生が容易な塩化第二銅液やアルカリ性エッチング液に置き換わった工場も多い。現在の塩化第二鉄は、試作基板や中小ロットの現場で根強く使われている。

リードフレームとシャドウマスクの加工

鉄系合金を溶かせる点は塩化第二銅液にない強みで、Fe-42%Niの42アロイ製リードフレームや、インバー製のシャドウマスク、メタルマスクのフォトエッチングでは今も主力のエッチャントである。現場の実務では、溶解した鉄や銅で液が劣化すると塩素ガスを吹き込んでFe2+をFe3+に戻し、液を再生しながら使い続ける。新液をこまめに建浴するより薬品費を大幅に抑えられるため、加工単価に直結する管理項目として扱われている。

上下水道で使われる凝集剤

水中に溶けたFe3+は加水分解して水酸化鉄のフロックをつくり、濁りの原因となる微粒子を巻き込みながら沈降する。凝集剤としてはポリ塩化アルミニウム(PAC)と並ぶ存在で、有効なpH域がおおむね4〜11と広い点が特徴である。下水処理ではリン除去にも効果が大きい。Fe3+がリン酸イオンと結合して難溶性のリン酸鉄となり、汚泥とともに取り除かれる。生成するフロックが重く沈みやすいため、汚泥の脱水性を高める薬剤として脱水機の前段で添加されることもある。

ただし処理水に鉄分が残ると着色の原因になる。浄水場では注入量を厳密に制御し、PACと用途を分けて使うのが通例である。

有機合成と腐食試験への応用

ルイス酸としての性質から、フリーデル・クラフツ反応の触媒として古くから知られている。塩化アルミニウムより穏やかに働くため、副反応を抑えたい場面で選ばれる。材料評価の分野でも欠かせない薬品で、ステンレス鋼の孔食・すき間腐食試験を定めたASTM G48では、約6%の塩化第二鉄溶液に試験片を浸漬する方法が規定されている。塩化物イオンと酸化力を同時に与えられるため、海水環境に近い過酷な条件を短時間で再現できる。二相ステンレス鋼やスーパーオーステナイト系鋼の品質確認に、この試験は今も広く使われている。

取り扱いと貯蔵で注意すべき点

強い酸性と酸化力をあわせ持つため、保管設備の材質選定を誤ると短期間で漏えい事故につながる。現場で押さえておきたい要点は次のとおりである。

  • 貯槽や配管にはFRP、ポリエチレン、ゴムライニング鋼、チタンなどを使い、炭素鋼やステンレス鋼は避ける
  • 保護めがね・耐酸手袋を着用し、皮膚に付着した場合は大量の水で15分以上洗い流す
  • 冬季は濃度40%前後の液でも結晶が析出しやすく、屋外タンクでは保温や加温が必要になる
  • 使用済みエッチング液は銅や鉄を高濃度に含むため、産業廃棄物として専門業者に処理を委託する
  • 次亜塩素酸ナトリウムなどアルカリ性薬品との混触を避け、別系統で保管する

衣服やコンクリート床に付いた液は、乾くと落ちにくい茶色のシミとなって残る。エッチング工程の床面に耐酸塗装を施す工場が多いのは、こうした汚損を防ぐ意味もある。

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