ポリ塩化アルミニウム
ポリ塩化アルミニウムは、アルミニウムの塩基性塩化物が重合した無機系の凝集剤である。英語名Poly Aluminium Chlorideの頭文字から「PAC(パック)」と呼ばれることが多い。一般式は[Al2(OH)nCl6−n]m(1≦n≦5、m≦10)で表される。市販品の多くは無色から淡黄色の透明な液体で、国内の浄水場では最も広く使われている凝集剤のひとつである。
硫酸バンドに代わる凝集剤として
日本の上水道では、長いあいだ硫酸アルミニウム(通称:硫酸バンド)が主な凝集剤として使われていた。ただし、硫酸バンドは水温が下がる冬場や原水の濁度が急に上がる時期に、フロックがうまく育たないという弱点があった。この課題に応えるかたちで、1960年代に日本でポリ塩化アルミニウムが開発され、1970年代以降に全国の浄水場へ広まっていった。いまでは海外でも生産されているが、実用化の先駆けは日本の化学メーカーである。
化学組成と塩基度
硫酸バンドとの大きな違いは、あらかじめ一部が加水分解され、OH基を持った多核錯体になっている点にある。この加水分解の進み具合を示すのが「塩基度」で、次の式で求める。
塩基度(%)= [OH] ÷ (3 × [Al]) × 100
ここで[OH]と[Al]はそれぞれのモル濃度を指す。塩基度が高いほど重合が進んでおり、水に入れたときに消費するアルカリ分が少なくて済む。標準品の塩基度は50%前後で、用途によっては70%を超える高塩基度品も使われる。もっとも、塩基度を上げすぎると保管中に白濁や沈殿が起きやすくなる。
製造方法
代表的な製法は、水酸化アルミニウムを塩酸に溶かして塩化アルミニウム溶液をつくり、そこへアルカリを加えて塩基度を調整する方法である。反応は加熱・加圧下で行われ、最終的にAl2O3換算で10%程度の濃度に整えられる。粉末品は、この液体を噴霧乾燥して得る。
JIS K 1475による品質規格
水道に使う製品は、JIS K 1475「水道用ポリ塩化アルミニウム」で品質が定められている。主な項目は次のとおりである。
| 項目 | 規格値 |
|---|---|
| 酸化アルミニウム(Al2O3) | 10.0〜11.0% |
| 塩基度 | 45〜65% |
| 硫酸イオン(SO42−) | 3.5%以下 |
| pH(10g/L水溶液) | 3.5〜5.0 |
| 密度(20℃) | 1.19g/cm3以上 |
ヒ素や鉛、カドミウムといった有害な不純物についても上限値が設けられている。飲み水に直接加える薬品なので、工業用よりも厳しい管理が求められる。
濁りを取り除くしくみ
水中の粘土粒子や微生物は、表面がマイナスに帯電しているため互いに反発し合い、いつまでも沈まない。ポリ塩化アルミニウムを加えると、プラスの電荷を持つ多核アルミニウムイオンがこの電荷を打ち消す。反発がなくなった粒子どうしはくっつき、さらに生成した水酸化アルミニウムが粒子を巻き込んで大きなフロックに育つ。
すでに重合した状態で投入されるため、硫酸バンドに比べてフロックの形成が速い。有効なpH範囲も広く、およそ6〜9の範囲で安定した凝集効果を示す。アルカリ度の消費が少ないので、処理水のpH低下を補うための苛性ソーダや消石灰の注入量を減らせる点も利点である。
浄水・排水・製紙での使われ方
用途は上水道にとどまらず、工業分野にも広がっている。主な使用先を挙げる。
- 上水道:急速ろ過方式の浄水場で、沈殿池の前段に注入される
- 工場の排水処理:塗装、めっき、食品工場などの排水に含まれるSSやCOD成分の除去
- 製紙:ロジンサイズ剤の定着剤や、白水の濁り成分の回収
- 下水処理:リンの凝集沈殿除去や、汚泥の脱水助剤
排水処理の現場では、ポリ塩化アルミニウムで小さなフロックをつくったあと、アニオン系の高分子凝集剤を加えて粗大化させる「二液処理」が定番である。PAC単独では沈降が遅い排水でも、この組み合わせで処理時間を大きく縮められる。注入率は原水の性状しだいで、浄水では製品として10〜50mg/L程度、高濁度の工業排水では数百mg/Lに達することもある。最適な注入率はジャーテストで事前に決めるのが基本となる。
貯蔵設備と注入管理の実務
液体品は酸性で、鉄や一般的なステンレス鋼を腐食させる。そのため、貯蔵タンクにはポリエチレンやFRP、配管には塩化ビニル管を使うのが通例である。SUS304の継手を流用して数か月で漏れが出た、という話は現場で珍しくない。ポンプも薬注用のダイヤフラムポンプを選び、接液部の材質を必ず確認しておきたい。
調達面では、中小規模の工場なら20kgポリ容器や1m3のIBCコンテナ、浄水場クラスならタンクローリーによる10t前後のバルク納入が一般的である。単価は硫酸バンドより割高になるものの、アルカリ剤の削減や汚泥発生量の減少を含めたトータルコストで選ばれることが多い。保管期間はメーカーの推奨でおおむね6か月以内とされ、長期在庫は品質劣化の原因になる。
冬期と希釈時の注意
原液は凍りにくいが、水で薄めると加水分解が進み、白濁して効果が落ちる。希釈して使う場合は、その日のうちに使い切る量だけを調製するのが望ましい。屋外タンクでは、寒冷地に限り保温ヒーターを付けるケースもある。
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