42アロイ
42アロイは、鉄にニッケルを約42%加えたFe-Ni系の低熱膨張合金である。常温から300℃付近までの線膨張係数はおよそ4〜5×10-6/Kで、シリコンやアルミナセラミックス、硬質ガラスに近い。この特性から、半導体パッケージのリードフレームやガラス封着部品、電子部品の端子材として長く使われてきた。米国ではAlloy 42と呼ばれ、ASTM F30やUNS K94100で規定される。国内の製造現場では「42材」「42Ni」と略されることも多い。
インバーの発見から実用化まで
低膨張のFe-Ni合金は、1896年にスイスの物理学者シャルル・エドゥアール・ギヨームがFe-36%Ni合金の熱膨張が異常に小さいことを見つけたところから始まる。この合金はインバーと名づけられ、ギヨームは1920年にノーベル物理学賞を受けた。ニッケル量を36%より増やすと膨張係数は少しずつ大きくなる。42%前後まで増やすと、ガラスやセラミックスとちょうど釣り合う値になる。20世紀前半には真空管や電球の封着線として使われ始めた。1970年代に入ると集積回路の量産が本格化し、リードフレーム材料としての需要が一気に伸びた。
化学組成と基本物性
標準的な組成はNiが41〜43%、残りがFeで、C 0.05%以下、Mn 0.8%以下、Si 0.3%以下程度の不純物が許容される。密度は約8.1g/cm3、焼なまし材の引張強さは500MPa前後、硬さは150HV程度。圧延で硬質化させると600MPaを超える。電気伝導率は約3%IACS、熱伝導率は12〜15W/(m・K)と低く、電気や熱を通しやすい材料ではない。強磁性を示すので、磁石で吸着して搬送できる。
熱膨張の挙動とキュリー温度
線膨張係数αは、温度変化ΔTに対する長さの変化率として α = ΔL / (L0 × ΔT) で表される。42アロイのαが小さいのは、磁気体積効果によって格子の熱膨張が打ち消されるためである。この効果は強磁性が保たれている範囲でしか働かない。そのため、キュリー温度(約380℃)を超えるとαは急に大きくなり、10×10-6/Kを上回るようになる。カタログで熱膨張係数を比べるときは、測定温度範囲(30〜300℃、30〜400℃など)が揃っているかを必ず確認したい。
他の低膨張合金・銅合金との比較
材料を選ぶときに比べられることが多いのは、インバー、コバール、それにリードフレーム用の銅合金である。代表的な値は次のとおりで、熱膨張と熱伝導が両立しにくいことがわかる。
| 材料 | 主成分 | 線膨張係数(×10-6/K) | 熱伝導率(W/(m・K)) | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| インバー | Fe-36Ni | 約1.2(20〜100℃) | 約13 | 精密計測機器、シャドウマスク |
| 42アロイ | Fe-42Ni | 約4.0〜4.7(30〜300℃) | 約13 | リードフレーム、封着線芯材 |
| コバール | Fe-29Ni-17Co | 約5(30〜400℃) | 約17 | 硬質ガラス封着、気密パッケージ |
| Cu-Fe系銅合金(C19400) | Cu-2.3Fe | 約17 | 約260 | 汎用リードフレーム |
リードフレーム材としての栄枯盛衰
シリコンチップの線膨張係数は約2.6×10-6/K。42アロイはこれに近いため、ダイボンディングやはんだ実装の熱サイクルでチップにかかる応力を小さく抑えられる。DIPやSOPが主流だった時代は、チップクラックを防ぐ材料として定番だった。ところが、デバイスの消費電力が増えるにつれて放熱性の低さが目立つようになる。モールド樹脂の膨張係数(Tg以下で15〜20×10-6/K程度)とも差があり、パッケージの反りや界面剥離の原因になった。応力を吸収するダイボンド材が改良されたこともあって、1980年代後半からは材料費の安い銅合金への切り替えが進んだ。現在も、大型チップを載せる薄型パッケージや、メモリ向けTSOPの一部などで採用例が残っている。
リードフレーム以外の主な用途
ガラスやセラミックスと接合する部品では、今でも代わりの材料が少ない。代表的な用途を挙げる。
- ジュメット線の芯材(42Ni系の芯に銅を被覆し、ダイオードやランプの軟質ガラス封着に使う)
- セラミックパッケージのリードピン、シールリング
- ハーメチックシール端子の外環、リード
- バイメタルの低膨張側の材料
- 光通信モジュールや計測機器の寸法安定部材
加工・熱処理で押さえておきたい点
プレス打ち抜きでは加工硬化が大きく、銅合金に比べて金型の摩耗が早い。量産ではパンチの再研磨周期を短めに見積もっておくとよい。微細なリードを作る場合は塩化第二鉄液によるエッチングが一般的で、板厚は0.1〜0.25mmがよく使われる。切削では粘りが強く構成刃先ができやすいため、超硬工具を使って切削速度を抑え、切れ刃を鋭く保つのが基本になる。焼きなましは水素または真空中で800〜1,000℃程度で行い、残留応力を取り除いて膨張特性を安定させる。大気中で加熱するとできる酸化皮膜は、めっきの密着不良の原因になる。前処理では酸洗いとニッケル下地めっきの条件をしっかり管理する必要がある。
調達コストの考え方
ニッケルを4割以上含むので、材料価格はLMEのニッケル相場の影響を強く受ける。2022年3月のニッケル価格急騰のときには、スリット材の値上げや納期の延長が相次いだ。調達部門ではニッケル連動の価格改定条項を契約に盛り込んでおくのが一般的である。同じ板厚の銅合金と比べると単価は高くなりやすい。そのため、熱膨張を合わせる必要がない部位まで42材を使っていないか、設計段階で見直すとコスト削減につながる。
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