モジュール化|独立部品の組み合わせで全体を構成

モジュール化

モジュール化とは、複雑な製品やシステム、組織を、互いの依存が少ない独立した構成単位(モジュール)に分け、あらかじめ決めたインターフェースを通じて結合する設計・生産の方法である。英語ではmodularizationと呼ぶ。もとは工学の設計手法として生まれたが、1990年代以降は経営学や産業組織論の分析概念として広く使われるようになった。部品の組み合わせを替えるだけで多様な製品を作れる一方、企業間の競争構造や利益の配分を大きく塗り替える力も持つ。

理論の源流

理論的な出発点は、ハーバート・サイモンが1962年に発表した論文「複雑性のアーキテクチャ」にある。サイモンは、部品1,000個からなる時計を作る2人の職人の寓話を用いた。1個ずつ順に組み上げる職人は、途中で手を止めるたびに作業がばらばらになり、最初からやり直すことになる。これに対し、10個ずつの中間組立品を作ってから積み上げる職人は、中断による損失をごく小さく抑えられる。階層的に分割されたシステムは外乱に強く、進化も速い。この「準分解可能性」という考え方が、のちのモジュール論の土台となった。

IBM System/360の登場

産業史上の転換点とされるのが、IBMが1964年4月に発表したSystem/360である。それまで同社のコンピュータは機種ごとに設計が異なっていたため、上位機種に乗り換える顧客はソフトウェアを書き直す必要があった。System/360は命令セットと周辺機器の接続仕様を共通にし、処理能力の異なる複数のモデルで同じプログラムを動かせるようにした。その結果、互換性のある周辺機器を供給する独立系メーカーが次々と参入し、コンピュータ産業の構造が変わり始めた。

デザイン・ルールとオプション価値

ハーバード・ビジネス・スクールのカーリス・ボールドウィンとキム・クラークは、2000年に出版した『Design Rules』で、設計情報を「見える情報」と「隠れた情報」に分けた。見える情報とは全設計者が守る共通ルールで、どのモジュールが何を担うかを決めるアーキテクチャ、モジュール同士のつなぎ方を決めるインターフェース、そして適合性を確かめる検査標準化の3つからなる。このルールさえ守れば、各モジュールの内部は隠れた情報として自由に改良できる。

二人はこの性質を金融のオプションになぞらえた。モジュールごとに独立して試行を重ね、良い結果だけを採用できるため、システム全体の価値は各モジュールが持つ選択の価値を足し合わせたものとして表せる。簡略化すると次のようになる。

V = S0 + Σi=1n E[max(Xi, 0)]

ここでS0は分割しない場合の基本価値、Xiはモジュールiを改良したときに得られる価値の増分を表す。改良が失敗しても元の設計を使い続けられるため、損失は0で止まる。分割数nが増え、各モジュールの不確実性が大きいほど、選択の価値は高まる。同書は、この価値を生み出す具体的な操作として次の6種類を挙げている。

  • 分離(splitting):1つのモジュールを複数に分ける
  • 交換(substituting):あるモジュールを別のものに差し替える
  • 追加(augmenting):新しいモジュールを加える
  • 除去(excluding):不要なモジュールを取り除く
  • 反転(inverting):複数のモジュールで共通する機能を切り出し、共通部品にする
  • 移植(porting):あるモジュールを別のシステムでも使えるようにする

インテグラル型との違い

日本では、藤本隆宏が製品アーキテクチャを「モジュラー型(組み合わせ型)」と「インテグラル型(擦り合わせ型)」に分けて論じた。乗用車では、乗り心地という1つの機能をサスペンション、車体、タイヤ、シートなど多くの部品が共同で担う。部品同士を細かく調整しなければ性能が出ないため、インテグラル性が高い。両者の違いを整理すると次の表のとおりである。

観点 モジュラー型 インテグラル型
部品と機能の関係 1対1に近い 多対多で複雑に絡み合う
インターフェース 標準化され、公開されやすい 製品ごとに個別に調整
代表的な製品 デスクトップPC、自転車 乗用車、オートバイ、小型家電
競争力の源泉 量産規模、開発スピード、選択と集中 組織能力、調整のノウハウ
なじみやすい産業構造 水平分業 垂直統合、系列取引

利益はどこへ移るか

1981年発売のIBM PCは、CPUをインテルから、OSをマイクロソフトから調達するオープンな構成をとった。互換機メーカーが一気に増え、完成品の組み立ては誰にでもできる仕事になった。利益はPCメーカーではなく、標準を握った部品の供給者に集まっていった。完成品がコモディティ化し、価値の源泉がインターフェースを支配する層へ移る。これがモジュール化の典型的な帰結である。

台湾エイサーの創業者である施振栄は1992年ごろ、この状況をスマイルカーブとして説明した。上流の研究開発や部品と、下流のブランドやサービスは付加価値が高く、中間の組み立ては低いという見方である。この谷を大量生産で埋めたのが、鴻海精密工業に代表されるEMS(電子機器受託製造サービス)であった。

調達・取引の現場で起きること

自動車産業では、2000年前後からコックピットモジュールやフロントエンドモジュールを一次サプライヤーがまとめて納める方式が広がった。さらにフォルクスワーゲンは2012年にMQBを導入し、1台あたりのコストを約20%削減する目標を掲げた。トヨタも2015年からTNGAに基づく車種を順に投入している。

実務の面で見落とされやすいのは、取引の中身が変わる点である。モジュール単位で発注すると、完成車メーカーの購買部門が管理する取引先の数は減る。その代わり、価格交渉の対象が個々の部品から「モジュール一式」に変わり、原価の内訳が見えにくくなる。インターフェース仕様を変更するたびに設計変更通知(ECN)を回す手間も増え、不具合が出たときの保証責任をどちらが負うかを契約書で細かく決めておかなければならない。サプライチェーン全体で見ると、在庫を持つ位置が一次サプライヤー側へ移ることも多い。

金融サービスへの広がり

金融業でも同じ動きが見られる。銀行は預金、融資、決済をひとまとめに提供してきたが、フィンテック企業がそれぞれの機能を切り出して提供するようになった。日本では2017年の改正銀行法(2018年6月施行)で電子決済等代行業が制度化され、銀行APIの公開が進んだ。APIは金融サービスのインターフェースにあたる。銀行の機能を他社のアプリに部品として組み込むBaaS(Banking as a Service)は、金融におけるモジュール化の一形態とみることができる。

モジュール化の罠と再統合

分割すれば常に有利というわけではない。ヘンリー・チェスブローと楠木建は2001年の論文で、インターフェースを固定したことで、その境界をまたぐ新技術に対応できなくなる現象を「モジュール化の罠」と呼んだ。性能がまだ顧客の要求に届かない段階では、部品同士を擦り合わせる設計のほうが優位に立ちやすい。イノベーションの局面ではアーキテクチャそのものが組み替えられ、いったん分かれた機能が再び統合されることも珍しくない。アップルがiPhoneで自社設計のプロセッサとOSを組み合わせ、2020年にはMacのCPUもインテル製から自社のApple M1へ切り替えたことは、再統合の代表例として挙げられる。どこを分け、どこを抱え込むか。その線引きこそが、モジュール化をめぐる経営判断の核心となる。

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