コモディティ化|差別化が失われ価格競争に陥る現象

コモディティ化

コモディティ化とは、製品やサービスが市場に広まるにつれてメーカー間の機能や品質の差がほとんどなくなり、買い手が主に価格で選ぶようになる現象である。英語のcommodityは日用品や一次産品という意味で、もともとは小麦、原油、銅のように、どこの誰が作っても同じ基準で取引される商品を指していた。製造業では家電、パソコン、半導体メモリなどで特にはっきり表れている。技術的に優れた製品でも利益が出にくくなる原因として、経営学や技術経営(MOT)の分野で長く議論されてきた。

日本の電機産業が経験したコモディティ化

代表例としてよく挙げられるのがDRAMである。1980年代後半、日本企業は世界のDRAM市場で7割を超えるシェアを持っていたとされる。1990年代に入ると、韓国や台湾のメーカーが大規模な設備投資で追い上げてきた。製品仕様がJEDECの規格で統一されていたこともあり、価格競争は一気に激しくなった。容量と速度が同じなら、どの会社のチップを選んでも違いはない。その結果、日本のメーカーは次々に撤退し、2012年にはエルピーダメモリが会社更生法の適用を申請した。液晶ディスプレイを使ったテレビや太陽電池パネルでも、ほぼ同じ流れが約10年おきに繰り返されている。

差がなくなる仕組み

製品で違いを出しにくくなる背景には、技術の成熟と標準化がある。登場したばかりの製品は性能を伸ばす余地が大きく、各社の設計の考え方が品質の差になって表れやすい。ところが性能が顧客の求める水準を超えると、それ以上改良しても価格には反映されなくなる。クレイトン・クリステンセンが1997年の著書『イノベーションのジレンマ』で示した「性能の供給過剰」は、この段階を説明する考え方として知られている。製造装置の普及も見逃せない。ノウハウを組み込んだ装置が外部に売られると、後から参入したメーカーでも短い期間で同じ水準の製品を作れるようになる。

インテグラル型とモジュール型

東京大学の藤本隆宏は、製品の設計の仕組み(アーキテクチャ)を、部品同士を細かく調整する必要がある「インテグラル(擦り合わせ)型」と、部品のつなぎ方が標準化された「モジュール型」に分けて分析した。パソコンはCPU、メモリ、ストレージがUSBやPCI Expressといった共通規格でつながるため、部品を買い集めれば誰でも組み立てられる。このようにモジュール化が進んだ製品ほど、組立工程で生まれる価値は小さくなる。反対に、自動車のエンジン制御や精密工作機械のように部品同士の細かな擦り合わせで性能が決まる製品は、他社がまねするのに長い時間がかかる。

コモディティ製品と差別化製品の比較

両者は価格の決まり方から調達の方針まで大きく異なる。主な違いを下の表にまとめた。営業利益率は業界や時期によって大きく変わるため、あくまで目安として見てほしい。

項目 コモディティ製品 差別化製品
価格の決まり方 市場の需給や相場で決まる メーカーが価値をもとに設定できる
主な競争の軸 コスト、納期、供給量 性能、品質、提案力
営業利益率の目安 数%程度にとどまりやすい 10%を超えることもある
購買部門の方針 複数の仕入先から相見積もりを取る 特定の仕入先と長く取引する
代表例 汎用DRAM、標準ねじ、鋼板 専用センサー、特注金型

スマイルカーブと付加価値の移動

台湾エイサーの創業者スタン・シーが1992年ごろに提唱したスマイルカーブは、コモディティ化が進んだ業界で利益がどの工程に集まるかを図にしたものである。横軸に研究開発、部品製造、組立、販売、アフターサービスと工程を並べ、縦軸に付加価値をとると、両端が高く中央の組立が低い、笑った口のような曲線になる。iPhoneはその分かりやすい例とされる。アップルは工場を持たないファブレス企業として設計とブランド運営に集中し、組立はEMS(電子機器受託製造サービス)大手の鴻海精密工業などに任せている。組立を担う側の利益率は低くなりがちで、大量生産による規模の効果で利益を確保する形になる。

調達の現場から見た実情

購買担当者にとって、コモディティ化は必ずしも悪いことではない。JIS B 1180やISO 4014に適合した六角ボルトなら、複数の商社から見積もりを取って、単価を0.1円単位で比べられる。仕入先を複数に分けておけば、サプライチェーンが途切れるリスクも下げられる。ただし注意点もある。図面上は同じ規格品でも、熱処理のばらつきやめっきの膜厚の違いによって、組立ラインでの締め付けトルクの管理に影響が出ることは珍しくない。仕入先を切り替えるときは初品検査を省かず、切り替え前後の不良率を比べておくのが現場での基本とされている。安い仕入先に替えたのに手直しの工数が増え、トータルのコストはかえって上がった、という話もよく聞かれる。

価格競争から抜け出す方法

一度コモディティ化した市場でも、高い利益を上げ続けている企業はある。センサーや測定器を手がけるキーエンスは、自社で工場を持たない体制を取りながら、営業利益率が50%前後に達する年もある。顧客の課題に合わせた提案型の営業で、価格比較の土俵に乗らないようにしている点が特徴である。よく使われる方法には次のようなものがある。

  • 製品に保守や稼働監視のサービスを組み合わせ、継続的な収入を得る(コマツが2001年から建設機械に標準搭載したKOMTRAXなど)
  • 中核技術を特許として公開せず、ノウハウとして社内にとどめるブラックボックス化
  • 素材や基幹部品など、スマイルカーブの上流へ事業の中心を移す
  • 用途を絞ったカスタム品で、特定の顧客との擦り合わせを深める
  • 品質への信頼をブランドとして確立し、指名買いを増やす

汎用品は「多くの用途に使える製品」という意味で、コモディティ化と重なる部分が多いものの、同じではない。汎用品であっても、品質や供給の安定性で高い評価を得て、ある程度の価格を維持している例はある。価格破壊は小売業や流通での急な値下げを指すことが多く、業界全体の構造変化を表すコモディティ化とは視点が異なる。破壊的イノベーションとの関係も深い。性能では劣っていても安くて手軽な製品が登場すると、それまでの高機能製品の価値が下がり、市場全体のコモディティ化が一気に進むことがある。2000年代にデジタルカメラの普及でフィルム市場が縮小したことは、その典型的な流れとしてよく引用される。

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