スマートグリッド
スマートグリッドとは、電力系統に情報通信技術とパワーエレクトロニクスを統合し、需給の最適化・信頼度向上・脱炭素を同時に達成するための次世代電力ネットワークである。再生可能エネルギーの変動吸収、分散型電源(DER)や蓄電池の活用、需要側の能動的制御(DR)を、計測・通信・制御・市場連携の各レイヤで連結し、リアルタイムかつ自律的に運用する点に特徴がある。
背景と目的
再エネ比率の上昇に伴い、出力変動による周波数・電圧の不安定化、配電系統の逆潮流、保護協調の複雑化が顕在化した。老朽設備の更改投資を最小化しつつ、SAIDI・SAIFIなど信頼度指標を改善し、脱炭素と経済効率を両立することがスマートグリッド導入の主要目的である。
構成要素とアーキテクチャ
- 計測層:AMI、スマートメータ、PMU、PQモニタ(THD・フリッカ)
- 通信層:無線/光、有線PLC、IEC 61850、DNP3、MQTT、DLMS/COSEM
- 制御層:SCADA、DMS/ADMS、EMS、最適潮流(OPF)、状態推定(SE)
- 電力機器:インバータ、蓄電池(BESS)、SVC、STATCOM、同期調相機
- 送電インフラ:HVDC、FACTS、系統保護・自動回復(FLISR)
- 市場連携:時間別料金、リアルタイムプライシング、需給調整市場
基本機能(オペレーション)
- 需要家側制御:デマンドレスポンス(価格応答・インセンティブ型)、デマンド監視とピークカット/シフト、V2G
- 電圧無効電力制御:Volt/VAR最適化、タップ・SVR制御、分散電源のQ制御
- 障害対応:故障位置推定、区間隔離・迂回送電(FLISR)、自動復旧
- 系統解析:オンライン状態推定、短周期再計算、ホスティングキャパシティ評価
電力品質・周波数安定度
電力品質は電圧偏差、瞬時電圧低下(サグ)、高調波(THD)などで評価する。周波数安定化では、慣性低下下での一次周波数制御(PFR)や高速応答(FFR)が重要である。周波数調整のため、蓄電池・需要応答・インバータのグリッドフォロワ/グリッドフォーミング制御を適用し、短周期の需給不均衡を緩和する。
系統側デバイスと電圧支援
SVCやSTATCOMは無効電力を迅速に供給し、電圧安定とフリッカ抑制に寄与する。同期調相機は慣性・短絡容量を提供し、インバータ比率の高い系統で保護協調や電圧保持を補完する。長距離・大容量連系ではHVDCが潮流制御・系統間安定化に有効である。
通信・データ基盤とサイバーセキュリティ
スマートメータからサブステーション、制御センタまでのデータは低遅延・高信頼で収集・蓄積され、時系列DBとストリーム処理で可視化・予測に用いられる。ゼロトラストを前提に、端点認証、鍵管理、署名付きファームウェア、ネットワーク分離、異常検知(UEBA)を実装し、運用上の権限最小化と監査ログでリスクを低減する。
マイクログリッドとVPP
マイクログリッドは需要家・配電区画内で分散電源と蓄電池を統合し、系統連系/自立運転を切替える。ブラックスタートや島状運転時は基準位相・周波数を形成するグリッドフォーミング制御が要件となる。複数拠点を束ねるVPPは、需給調整・調整力市場への参加を通じて系統全体の安定化に寄与する。
産業・ビルでの活用
- EMS/BEMS/FEMS:需要予測と最適運転、蓄電池・熱源の連携制御
- ピーク抑制:契約電力低減、力率改善、配電設備の余寿命管理
- 再エネ併用:PV出力平滑化、急峻変動の抑制、負荷追従運転
- 品質監視:サグ・スウェル・高調波の常時監視と是正策の自動実行
評価指標と系統計画
信頼度はSAIDI・SAIFI・CAIDI、可用性はASAIで把握する。配電計画ではN-1基準、ホスティングキャパシティ、潮流余裕、短絡容量、電圧変動・高調波規制の遵守を同時に満たす必要がある。市場面では需給ひっ迫時の価格シグナルが需要家行動を誘導し、需給バランスの安定化に資する。
運用最適化とアルゴリズム
OPFは目的関数(損失最小、電圧偏差最小、コスト最小)と電力潮流・機器容量・電圧制約を同時に扱う。加えて、短周期の再エネ出力を扱うために確率的OPFやロバスト最適化を用い、蓄電池のSoC制約や需要応答の不確実性を取り込む。オンラインではMPC(Model Predictive Control)や強化学習の適用も進む。
実装上の課題
相互運用性の確保(データモデル統一)、保護協調の再設計(IBR混在時のFRT、周波数低下時動作)、逆潮流下の電圧維持、需要家データのプライバシー、サイバーリスク、設備投資と料金設計の整合が主な課題である。段階的導入と効果検証を前提に、レギュレーションと市場設計を同期的に更新することが要諦である。
関連概念への導線
計測・料金・需要制御の基盤はAMIとスマートメータであり、運用上はデマンド監視、周波数維持は周波数調整、送配電の電圧安定はSVCやSTATCOMが担う。長距離連系・潮流制御にはHVDC、全体の安定化技術群としてFACTSが位置づけられる。