イオン交換樹脂
イオン交換樹脂とは、水溶液中のイオンを自分の持つ別のイオンと入れ替える機能を持った合成樹脂である。母体となる高分子に、スルホン酸基や第四級アンモニウム基などのイオン交換基を化学的に結合させて作る。外観は直径0.3〜1.2mm程度の球状粒子で、多くは琥珀色から褐色をしている。純水の製造、硬水の軟化、半導体洗浄用の超純水製造、医薬品や食品の精製、貴金属の回収など、使われる分野は広い。工業用の水処理設備にはほぼ必ず組み込まれている基礎素材である。
開発の歴史
イオンを交換する物質としては、天然のゼオライトや粘土鉱物が先に知られていた。20世紀初頭には合成ゼオライトによる軟水化が実用化されたが、酸性条件に弱く、使える範囲は限られていた。転機は1935年に訪れる。英国のアダムズとホームズが、フェノールとホルムアルデヒドの縮合樹脂にイオン交換能があることを報告したのである。続く1944年、米国のダレリオがスチレンとジビニルベンゼンの共重合体をスルホン化する方法を開発した。これが現在の主流品の原型になった。日本では1950年代に国産化が始まり、高度成長期の火力発電所や化学工場の水処理需要を背景に、生産量が急速に伸びた。
骨格構造とイオン交換のしくみ
代表的な骨格はスチレン・ジビニルベンゼン共重合体である。ジビニルベンゼン(DVB)は分子同士をつなぐ架橋剤として働き、標準的な製品ではその割合が約8%に設定される。架橋度を上げると樹脂は硬く膨潤しにくくなり、耐酸化性も増す。その代わり、イオンが内部へ拡散する速度は落ちる。粒子の内部構造には、均一な網目を持つゲル型と、数十nm規模の細孔を人工的に作ったポーラス型(MR型)の2系統がある。ポーラス型は大きな有機分子を吸着しやすく、浸透圧による割れにも強い。
交換反応は可逆であり、強酸性の陽イオン交換樹脂(H形)が食塩水に接すると次のように進む。
R−SO3H + Na+ ⇄ R−SO3Na + H+ (Rは樹脂の骨格)
樹脂はイオンの種類ごとに異なる「選択性」を示す。一般には価数が大きいほど強く保持される。Ca2+がNa+より優先的に吸着されるのはこのためで、軟水化が成り立つ理由もここにある。
種類と性質の比較
交換基の性質によって、陽イオンを扱う樹脂と陰イオンを扱う樹脂に分かれ、それぞれに強酸・弱酸、強塩基・弱塩基の区別がある。主な4種の目安を表に示す。
| 種類 | 代表的な交換基 | 総交換容量の目安 | 最高使用温度の目安 |
|---|---|---|---|
| 強酸性陽イオン交換樹脂 | スルホン酸基(−SO3H) | 約2.0 eq/L-R | 約120℃ |
| 弱酸性陽イオン交換樹脂 | カルボキシ基(−COOH) | 約4.0 eq/L-R | 約120℃ |
| 強塩基性陰イオン交換樹脂(I型) | 第四級アンモニウム基 | 約1.3 eq/L-R | OH形で約60℃ |
| 弱塩基性陰イオン交換樹脂 | 第一〜三級アミノ基 | 約1.6 eq/L-R | 約100℃ |
弱酸性や弱塩基性の樹脂は容量が大きく再生もしやすい。ただし、中性塩を分解する力は持たない。実務では、前段に弱塩基性樹脂、後段に強塩基性樹脂を置いて薬品の使用量を抑える組み合わせがよく見られる。試験方法は日本産業規格 JIS K 1474 に定められており、交換容量や含水率、粒度分布はこの規格に沿って測定される。
キレート樹脂
イミノジ酢酸基などのキレート形成基を持つ樹脂は、特定の金属イオンを選んで捕まえる。めっき廃液からニッケルや銅を回収したり、食塩電解の前処理で微量のカルシウムを除いたりする用途に使われている。
再生と運転方式
交換基がすべて別のイオンで埋まると、樹脂は能力を失う。この状態を「破過」と呼ぶ。破過した樹脂は薬品を流して元の形に戻せる。陽イオン樹脂には5%前後の塩酸か硫酸、陰イオン樹脂には4%前後の水酸化ナトリウム水溶液を使うのが標準的である。家庭用や業務用の軟水器では、10%程度の食塩水でNa形に戻す。
運転方式にも段階がある。陽イオン塔・脱炭酸塔・陰イオン塔を直列に並べた「2床3塔式」で比抵抗0.1〜1MΩ・cm程度の脱塩水を得たあと、両方の樹脂を1塔に混ぜた混床式で仕上げる構成が多い。混床式なら比抵抗10MΩ・cmを超える水も得られる。近年は前段に逆浸透膜を置き、樹脂の負荷と再生薬品の量を減らす設計が主流になった。
産業での使われ方
用途は水処理にとどまらない。代表的な分野を挙げる。
- 発電所のボイラー給水処理、復水の脱塩
- 半導体・液晶工場での超純水製造(25℃で比抵抗18.2MΩ・cmに近い水質が求められる)
- 原子力発電所の一次冷却材の浄化
- 砂糖液や果汁の脱色・脱塩、アミノ酸の分離精製
- 医薬品(高カリウム血症の治療に用いるポリスチレンスルホン酸ナトリウムなど)
- ウランやレアメタルの湿式製錬での回収
超純水用途では、樹脂から溶け出す有機物(TOC)や微粒子までが管理の対象になる。そのため、通常品を追加洗浄した「電子工業グレード」や「核グレード」が使い分けられる。購入価格は汎用の強酸性樹脂の数倍になることも珍しくない。設備の発注側は、水質の要求値から逆算してグレードを決めるのが通例である。
劣化の原因と現場での扱い
樹脂は消耗品である。寿命の目安は陽イオン樹脂で5〜10年、陰イオン樹脂で3〜5年程度とされる。陰イオン樹脂のほうが短いのは、交換基そのものが熱やアルカリで分解しやすいからである。劣化の要因として特に問題になるのは、次の三つ。
一つ目は水道水に含まれる残留塩素などの酸化剤で、架橋が切れて樹脂が膨らみ、粒が崩れていく。前段に活性炭塔を置くのはこれを防ぐためである。二つ目は、フミン質のような天然有機物が陰イオン樹脂の内部に入り込んで抜けなくなる「有機汚染(ファウリング)」である。処理水の比抵抗がなかなか上がらない、再生後の水洗に時間がかかる、といった症状で見つかることが多い。三つ目は鉄やマンガンによる汚染で、井水を原水とする工場で起きやすい。
取り扱いにも注意点がある。樹脂を乾かすと、再び水に浸したときの急な膨潤で粒が割れる。保管は湿った状態のまま密閉し、冬場は0℃以下にならない場所を選ぶ。塔へ充填する量は、運転中の膨潤分を見込んで決めなければならない。強酸性樹脂はNa形からH形に変わるだけで体積が5〜8%ほど増えるため、余裕を取らずに詰め込むと塔内で圧密が起き、通水差圧が上がってしまう。
使用済み樹脂の処分とコスト
使い終えた樹脂は、廃棄物処理法上の産業廃棄物(廃プラスチック類)として扱われる。重金属を吸着した樹脂は、溶出試験の結果によって管理型の処分が必要になる場合もある。原子力施設から出る樹脂は放射性廃棄物として別の枠組みで管理され、セメント固化などの減容処理が研究されている。水処理装置のランニングコストを見ると、樹脂の交換費用そのものより、再生薬品と排水中和にかかる費用のほうが大きくなりやすい。リプレースの時期は、交換容量の実測値と再生頻度の推移を見比べて判断するのが現場の考え方である。
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