防じんマスク
防じんマスクは、作業中に発生する粉じんやヒュームなどの粒子状物質を、ろ過材で捕集して吸入を防ぐ呼吸用保護具である。日本では労働安全衛生法第42条に基づく型式検定の対象品で、国の検定に合格した製品にだけ「検定合格標章」が付けられる。鋳造、研削、溶接、石材加工、解体工事など、粒子が空気中を漂う作業で広く使われている。ガスや蒸気は防げないため、有害ガスがある場所では使えない点に注意したい。
じん肺対策から始まった規格の歩み
日本で防じんマスクの規格が整備された背景には、鉱山や窯業で多発したじん肺の問題がある。1960年にじん肺法が制定され、1979年には粉じん障害防止規則が公布された。現在の性能要件は1988年の労働省告示第19号「防じんマスクの規格」が基礎で、2018年の改正で電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)との区分が整理されている。製品側の規格はJIS T 8151、選び方と使い方の指針はJIS T 8150で定められている。
形式と区分の読み方
形式は2つに分かれる。ろ過材を交換して面体をくり返し使う「取替え式」と、面体そのものがろ過材になっている「使い捨て式」である。区分の記号は、1文字目が形式(R=取替え式、D=使い捨て式)、2文字目が試験粒子の種類、3文字目の数字が粒子捕集効率の等級を表す。S(Solid)は塩化ナトリウム(NaCl)粒子、L(Liquid)はフタル酸ジオクチル(DOP)粒子で試験したものである。DOPはオイルミストを模した試験粒子で、こちらに合格したL区分は油を含む環境でも性能が落ちにくい。
| 等級 | 粒子捕集効率 | 取替え式 | 使い捨て式 |
|---|---|---|---|
| 3 | 99.9%以上 | RS3・RL3 | DS3・DL3 |
| 2 | 95.0%以上 | RS2・RL2 | DS2・DL2 |
| 1 | 80.0%以上 | RS1・RL1 | DS1・DL1 |
海外規格と比べると、米国NIOSHのN95はDS2・RS2とほぼ同じ水準とされる。欧州EN 149のFFP2・FFP3も近い位置づけだが、試験条件が違うため単純に同じものとはいえない。
構造とろ過の仕組み
ろ過材には主に、不織布を帯電させた静電気フィルターが使われる。繊維のすき間より小さい0.1〜0.3μm程度の粒子も、慣性衝突、さえぎり、拡散、静電気による吸着が組み合わさって捕まえられる。ただ、帯電したろ過材は油分や湿気にさらされると帯電が弱まり、捕集効率が下がる。オイルミストの出る切削加工にS区分の製品を使うと、見た目は汚れていなくても性能が落ちている場合がある。面体のほか、吸気弁・排気弁、しめひも、ろ過材の押さえ枠などで構成され、排気弁があると息を吐くときの抵抗と蒸れが減る。
作業内容から決める選び方
粉じん則や特定化学物質障害予防規則では、作業ごとに使うべき区分が指定されている。法令とJIS T 8150を合わせると、目安は次のとおりである。
- 一般的な研磨・清掃などの粉じん作業:RS1・DS1以上
- 金属アーク溶接によるヒューム:RS2・RL2・DS2・DL2以上
- 石綿の除去作業:RS3・RL3の取替え式、またはPAPR
- 放射性物質を含む粉じん、ダイオキシン類を扱う作業:RS3・RL3相当以上
- オイルミストが混じる切削・研削:L区分の製品
現場の実務では、コストの差も選ぶ理由になる。使い捨てのDS2は1枚100〜300円程度で、取替え式の本体は3,000〜8,000円ほど、交換用ろ過材は1個数百円が相場である。1日1枚を使い切る作業者が多い工場では、半年から1年ほどで取替え式の方が安くなるケースが多い。一方で、来客や短時間作業用には使い捨て式を常備しておくと管理しやすい。
フィットテストと密着性の確認
ろ過材の性能が高くても、顔と面体の間にすき間があれば、粉じんはそこから入り込む。そこで2023年4月1日から、金属アーク溶接など一部の作業では1年以内ごとに1回のフィットテストが義務になった。JIS T 8150に定める方法で測り、要求フィットファクタは半面形で100以上、全面形で500以上である。毎回の装着時には、吸気口をふさいで息を吸い面体が顔に吸いつくかを見る「シールチェック」を行う。ひげや無精ひげ、タオルを面体の下に挟む使い方は密着を大きく損なうため、多くのメーカーが禁止している。
指定防護係数の考え方
指定防護係数とは、マスクの外と中で粉じんの濃度が何分の1になるかの目安である。JIS T 8150では、取替え式半面形のRS3・RL3が10、全面形のRS3・RL3が50とされ、使い捨て式のDS2・DS3は10、DS1は4である。作業場の濃度をこの係数で割った値が管理濃度を超える場合は、より上の等級や送気マスクを考える必要がある。
使えない環境と保守のポイント
いちばん注意したいのは、酸素濃度18%未満の場所では使えないことである。タンク内やマンホールなど酸素欠乏のおそれがある場所では、送気マスクか空気呼吸器を使う。有機溶剤の蒸気や一酸化炭素などのガスも通ってしまうので、その場合は防毒マスクを選ぶか、防じん機能付きの吸収缶を組み合わせる。保守では、息苦しさが増したときがろ過材交換の目安になる。排気弁の弁座に粉じんがたまると漏れの原因になるため、作業後に柔らかいブラシで掃除し、直射日光や高温を避けて保管する。使い捨て式は、汚れや型崩れがなくても1日を目安に交換する運用が一般的である。
電動ファン付き呼吸用保護具との違い
PAPRは、電動ファンで送った空気をろ過材に通して面体に送り込む装置で、JIS T 8157と2014年施行の型式検定の対象になっている。面体の中が外より高い圧力に保たれるため、すき間からの漏れ込みが起きにくく、呼吸も楽になる。本体価格は数万〜十数万円と高めだが、石綿除去や長時間の溶接ラインでは、作業者の疲れを減らす効果を理由に導入する企業が増えている。普通の防じんマスクとPAPRを作業時間や粉じん濃度で使い分けることが、現場では現実的な対応となっている。
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