粉じん障害防止規則
粉じん障害防止規則は、労働安全衛生法に基づいて1979年(昭和54年)に制定された厚生労働省令(当初は労働省令第18号)である。略称は「粉じん則」。鉱物や金属、炭素などの粉じんを吸い込むことで起こるじん肺を防ぐことを目的とし、発生源ごとの設備対策、作業環境測定、呼吸用保護具の使用、特別教育などを事業者に義務づけている。鋳造、研磨、溶接、窯業、トンネル工事といった幅広い現場が対象となる。
制定の背景とじん肺の歴史
じん肺は古くから鉱山労働者の職業病として知られ、日本では1960年にじん肺法が成立した。ただ、この法律は健康診断や健康管理区分の決定といった「健康管理」が中心で、粉じんの発生そのものを抑える規定は十分ではなかった。新規の有所見者が年間数千人規模で出続けたことから、発生源対策を体系的に定める省令として粉じん障害防止規則が作られ、1979年10月1日に施行された。現在はじん肺法が健康管理を、粉じん則が作業環境管理と作業管理を受け持つ形で、2本立ての体制になっている。
粉じん作業と特定粉じん発生源
規則の対象は別表第1に列挙された「粉じん作業」である。土石・岩石・鉱物の掘削や粉砕、鋳物の型ばらし、金属の研磨、アーク溶接、セメントや粉状の鉱物の袋詰めなどが含まれる。このうち、発生源が特定でき設備による対策が可能なものは別表第2で「特定粉じん発生源」とされ、そこで行う作業を「特定粉じん作業」と呼ぶ。区分の違いは義務の重さに直結する。特定粉じん発生源には設備の設置義務が課される一方、それ以外の粉じん作業では全体換気や呼吸用保護具の使用が中心となる。
発生源対策として求められる設備
屋内の特定粉じん発生源には、密閉する設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置、湿潤な状態に保つための設備のいずれか、または同等以上の措置を講じなければならない。どれを選ぶかは発生源の種類で決まっている。たとえば研削盤による研磨では局所排気装置が基本となり、岩石の湿式破砕であれば湿潤化でも認められる。局所排気装置にはフードの型式ごとに制御風速が定められており、おもな数値は次のとおりである。
| フードの型式 | 制御風速(m/s) |
|---|---|
| 囲い式フード | 0.7 |
| 外付け式フード(側方吸引型) | 1.0 |
| 外付け式フード(下方吸引型) | 1.0 |
| 外付け式フード(上方吸引型) | 1.2 |
設備選定の実務上の注意点
現場で悩みやすいのは外付け式フードの扱いである。上方吸引型は1.2m/sと最も高い風速が必要で、ファンの能力とダクト径が大きくなり、設備費も電気代もかさむ。中小の金属加工工場では、作業台の形を見直して囲い式に近づけるだけで必要な排気量を大きく減らせる例が多い。排気された粉じんは集じん機で除去してから屋外へ出すのが原則となる。アルミやマグネシウムの研磨粉を扱う場合は粉じん爆発の危険があるため、乾式集じん機の選定には別途の検討が必要になる。
定期自主検査と点検
局所排気装置、プッシュプル型換気装置、除じん装置は、1年以内ごとに1回の定期自主検査を行い、その記録を3年間保存する。ダクトの摩耗や堆積、ファンの回転数、吸気・排気の能力などが検査項目にあたる。初めて使うときと分解・改造・修理をしたときには点検も必要である。
作業環境測定と管理濃度
常時特定粉じん作業を行う屋内作業場では、6月以内ごとに1回、作業環境測定を実施し、結果を7年間保存しなければならない。土石、岩石、鉱物、金属または炭素の粉じんの管理濃度は、遊離けい酸の含有率によって変わり、次の式で求める。
E = 3.0 / (1.19Q + 1)
E:管理濃度(mg/m3) Q:遊離けい酸含有率(%)
けい砂を多く含む鋳物砂のように遊離けい酸が多い粉じんほど、管理濃度は厳しくなる。測定の結果、第三管理区分と評価された作業場では改善措置をとる必要がある。2024年4月1日施行の改正により、改善が難しい場合は外部の作業環境管理専門家の意見を聴くこと、個人サンプリングなどで濃度を測り、その値に合った呼吸用保護具を選ぶこと、フィットテストを行うことが新たに義務になった。
呼吸用保護具の使用
設備対策だけでは粉じんを抑えきれない作業もある。ずい道内部の掘削や、屋外での岩石の切断、金属の溶断などがその例で、これらでは防じんマスクのような有効な呼吸用保護具の使用が義務となっている。2014年7月1日の改正では、屋外でのアーク溶接や岩石・鉱物の研磨作業も保護具着用の対象に加わった。マスクは国家検定に合格したものに限られ、粒子捕集効率によってRS1〜RS3、DS1〜DS3などに区分される。粉じん濃度が高い場面や長時間作業では、呼吸抵抗が小さい電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)が選ばれることも多い。ずい道等の掘削作業などでは、このPAPRの使用が指定されている。
清掃・休憩設備・特別教育
床や設備に積もった粉じんは、作業者が歩いたりエアブローを使ったりするたびに舞い上がる。そのため粉じん則は、毎日1回以上の清掃に加え、1月以内ごとに1回、真空掃除機か水洗による清掃を定めている。圧縮空気で吹き飛ばす方法は再飛散を招くので、実質的には使えない。休憩室は粉じん作業場の外に設け、入口に衣服の粉じんを落とす設備を置く必要がある。常時特定粉じん作業に就く労働者には特別教育が義務づけられており、粉じんの発散防止、作業場の換気、呼吸用保護具の使い方、関係法令などの科目を合わせて4時間30分以上行う。
他の規則との関係と国の総合対策
粉じん則は単独では完結しない。溶接ヒュームは2021年4月1日から特定化学物質障害予防規則の対象にもなり、溶接職場では粉じん則と特化則の両方を守る必要がある。塗装や洗浄の工程が併設されていれば、有機溶剤中毒予防規則の換気要件とも整合をとらなければならない。行政は1981年から5年ごとに「粉じん障害防止総合対策」を推進しており、2023年度からの第10次対策では、ずい道工事、アーク溶接、岩石・鉱物の研磨作業、金属等の研磨作業を重点項目に掲げている。新しく工場を建てたり、ラインを増設したりする際は、設計段階で発生源ごとの対策を盛り込んでおくと、後から局所排気装置を追加するよりも費用を抑えやすい。
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