資本主義的世界経済
資本主義的世界経済とは、特定の国家や帝国に閉じた経済ではなく、広大な範囲にまたがる分業と交易のネットワークが、利潤追求を目的として統合された世界規模の経済構造を指す概念である。16世紀の大航海時代以降、ヨーロッパ諸国が海上進出を強め、銀や香辛料、穀物、砂糖、奴隷などをやり取りすることで、地域ごとの経済が結びつき、単一の世界市場が形づくられていった。この世界市場を軸に、資本の蓄積と再投資が連鎖的に繰り返される構造をとらえたのが資本主義的世界経済という視角である。
成立の背景とヨーロッパの台頭
資本主義的世界経済の起点は、ヨーロッパ諸国の海外進出とその結果として生じた交易の拡大に求められる。新航路の開拓によってアメリカ大陸やアジアとの海上ルートが開かれると、貴金属や香辛料の大量流入がヨーロッパに「価格革命」と呼ばれる物価の上昇をもたらし、それに対応する商業・金融活動が飛躍的に発展した。この動きは、海上貿易や金融を担う商人資本の台頭と、国家が保護貿易政策を進める商業革命・重商主義と結びつき、ヨーロッパを世界経済の中核へと押し上げた。
中核・半周辺・周辺という分業構造
資本主義的世界経済は、単なる交易の広がりではなく、生産と分業の構造に特徴があるとされる。しばしば世界は、中核・半周辺・周辺という三区分で説明される。
- 中核…工業製品や高付加価値商品を生産し、金融や商業を支配する地域。
- 半周辺…一部工業化が進みつつ、周辺との仲介や中間的な生産を担う地域。
- 周辺…原料供給地・農産物生産地として、低賃金の労働や強制労働に依存しがちな地域。
ヨーロッパ西部の諸国家は中核として位置づけられ、アメリカ植民地では砂糖や銀が、アフリカやアメリカでは黒人奴隷労働を利用したプランテーションが原料を生産した。これらはヨーロッパに運ばれ再輸出されることで、世界的な分業と搾取の構造が固定化されていった。
国家・帝国と資本蓄積
資本主義的世界経済においては、主権国家の存在も重要である。ヨーロッパ諸国は常備軍や官僚制を整備した絶対王政国家として、関税政策や植民地支配を通じて自国商人を保護し、競合国との経済戦争を展開した。スペインやポルトガル、のちにはオランダ・イギリス・フランスなどが、アフリカ・アジア・アメリカに植民地を獲得し、銀山支配や奴隷貿易の独占権(アシエント)などを利用して、膨大な富を本国へ集中させた。このように国家権力は、資本蓄積を支える軍事的・法的枠組みとして、世界経済の拡大に深く関与した。
資本主義と世界の一体化
近代以降、産業革命を経て資本主義は工業生産と賃金労働を基盤とする体制として確立し、世界の隅々にまで浸透した。19世紀には蒸気船や鉄道、電信など交通・通信手段の発達により、商品の移動と情報の伝達速度が飛躍的に高まり、世界市場の統合はさらに進んだ。この過程は、世界を単一の歴史的過程として理解しようとする「世界の一体化」の視点とも結びつき、地域史を越えたグローバル・ヒストリーの発展を促した。
歴史認識への意義
資本主義的世界経済という概念は、個々の国家や帝国の歴史を越えて、世界規模の分業・支配構造とその変化を捉えようとする点に意義がある。ヨーロッパの台頭や植民地支配を、単なる「西洋の発展」としてではなく、周辺地域の搾取や抵抗と不可分な過程として理解することを可能にし、現代の格差構造や南北問題を歴史的に位置づける視角を提供する。そのためこの概念は、国別の政治史だけでなく、経済史や社会史、グローバル史研究にとっても重要な理論枠組みとなっている。