大航海時代
大航海時代は、15世紀後半から17世紀にかけて、欧州の海上勢力が大西洋・インド洋・太平洋へと進出し、航路・地理・人・物・知の世界的結合を加速させた時代である。航海技術の発達、香辛料・貴金属を求める商業的欲求、キリスト教布教の動機、そしてユーラシア内陸交易路の不安定化が、外洋志向を推し進めた。結果として、海図と地理認識は刷新され、欧州・アフリカ・アジア・アメリカが恒常的に結びつき、政治秩序・経済構造・自然環境に長期の影響を与えた。
背景
背景には、船体設計と帆走技術の改善、天測航法の普及、羅針盤や測深具などの実用化がある。さらに、オスマン帝国の台頭で東方交易が制約されると、海路による直接到達が現実味を帯びた。イベリア諸国では王権が航海事業を後援し、宮廷・商人・学知共同体が資金と知識を結集した。
航海技術の進歩
カラベル船や大型のガレオン船は横帆とラテン帆を併用し、向かい風への対応力と外洋での安定性を高めた。ジャイル回帰風・貿易風の理解が進み、回送航路の設計が可能となった。
先駆と主要航路
先駆はイベリアである。ポルトガルはアフリカ西岸を南下し、喜望峰を回ってインド洋に至り、香辛料貿易の海上直行ルートを切り開いた。スペインは西回り航路を模索し、新大陸と太平洋世界を把握していく。
人物と航跡
- コロンブス:1492年に西回りで大西洋を横断し、カリブ海に到達した。
- バスコ=ダ=ガマ:1498年に喜望峰経由でインドのカリカットに到達。
- マゼラン:1519年の遠征隊は世界周航を達成し、地球規模の海洋連結を実証した。
国際秩序と条約
スペインとポルトガルの競合は、1494年のトルデシリャス条約で一定の線引きを得た。のちに境界の調整や現地勢力との同盟・征服が進み、航海の成果は外交・軍事・法の枠組みに組み込まれた。
交易の拡大と文化交流
胡椒・丁香・肉桂などの香辛料、銀・金・砂糖・綿織物・絹・陶磁が大洋を循環し、港市と後背地を再編した。イエズス会をはじめとする宣教活動は言語・天文学・地図学の交流を促し、宗教対話と文化受容の多様な形を生んだ。
経済への衝撃
大量の銀流入と交易圏の拡張は物価上昇を誘発し、欧州では価格革命と呼ばれる長期インフレが進行した。商業資本の肥大化は金融・保険・遠隔取引の制度化を促し、国家は関税・独占・植民会社を通じて収奪と統制を強め、重商主義的政策が広がった。
商業革命
遠距離取引の常態化は都市の階層分化と商人エリートの台頭をもたらし、会計・為替・信用の革新が定着した。
植民地支配と社会変容
アメリカ大陸では征服とプランテーション経営が拡大し、銀山の開発や農園生産が先住社会を激変させた。労働力不足と収奪構造は大西洋世界に奴隷貿易を定着させ、のちの三角貿易の骨格となった。
アジアとの出会い
インド洋から東アジアに至る海上交易では、イスラーム商人やインド・東南アジアの港市国家と欧州勢力が交錯した。中国の明は海禁と勘合・朝貢の枠組みを維持しつつ、銀の流入が市場経済を刺激した。日本との接触は火器・キリスト教・新作物を媒介に社会と文化へ影響を及ぼした。
自然環境・疫病・「コロンブス交換」
旧世界と新世界の生物・作物・病原体の双方向移動は、人口動態と生態系を一変させた。トウモロコシ・ジャガイモなどの新作物は旧世界の食料事情を改善し、反対に疫病の流入は新大陸の先住民社会に甚大な打撃を与えた。
知の集積と地図学
航海日誌や海図帳、星表の整備は海上知の共有を生み、地球球体論に実証的確度を与えた。測位・測深・造船の改善は軍事・商業・学術を横断して反復的に強化され、海洋世界は「測れる空間」として編成されたのである。