BOD
BOD(Biochemical Oxygen Demand、生物化学的酸素要求量)は、水中の有機物が微生物によって分解されるときに消費される酸素の量を、mg/Lで表した水質指標である。標準的な方法では、試料を20℃の暗所で5日間培養し、その間に減った酸素量を測る。このためBOD5とも表記される。河川の汚れの程度や、工場・事業場の排水処理の性能を評価する代表的な項目であり、日本では環境基本法にもとづく環境基準や水質汚濁防止法の排水基準に組み込まれている。
培養期間が「5日」になった理由
指標の起源は20世紀初頭のイギリスにある。1898年に設置された王立下水処理委員会(Royal Commission on Sewage Disposal)は、1912年の報告で河川水の汚濁を評価する方法として5日間の酸素消費量を採用した。テムズ川などの英国の河川では、排出された水が5日ほどで海へ流れ出るため、それ以上の期間を測っても実際の河川への影響とずれると考えられたのである。当初の培養温度は英国の夏季平均水温にあたる65°F(約18.3℃)で、のちに国際的に20℃へ統一された。100年以上前に決まった条件が、ほぼそのまま現在のISO 5815-1やJIS K 0102に受け継がれている。
測定の手順と計算式
まず試料を希釈水で薄め、培養瓶に満たして溶存酸素(DO)を測る。次に瓶を密栓し、20±1℃の恒温器で5日間置いた後、もう一度DOを測定する。JIS K 0102では、5日間に消費されるDOが初期値の40〜70%に収まる希釈倍率が望ましいとされる。消費が少なすぎると誤差が大きくなり、酸素を使い切ってしまうと分解量を正しく評価できないためである。DOの測定には、ウインクラー法か隔膜電極法を使う。
植種をしない場合、計算は次の式による。
BOD(mg/L)=(D1 − D2)÷ P
D1:培養前のDO(mg/L)、D2:5日後のDO(mg/L)、P:希釈試料に占める試料の割合(小数)
植種と硝化抑制
殺菌された排水や微生物の少ない工場排水では、下水処理水の上澄みなどを加えて微生物を補う。これを植種と呼ぶ。植種液が自分で消費する酸素は、ブランクの値から差し引いて補正する。アンモニア性窒素を含む試料では、硝化菌による酸素消費が混ざるため、アリルチオ尿素(ATU)を添加して抑えることがある。この方法で求めた値はC-BOD(炭素系BOD)と呼ばれ、通常の値とは区別して扱う。
環境基準と排水基準の数値
河川の生活環境項目では、利用目的に応じて6つの類型ごとに基準値が決まっている。
| 類型 | 主な利用目的 | BOD基準値 |
|---|---|---|
| AA | 水道1級、自然環境保全 | 1mg/L以下 |
| A | 水道2級、水産1級、水浴 | 2mg/L以下 |
| B | 水道3級、水産2級 | 3mg/L以下 |
| C | 水産3級、工業用水1級 | 5mg/L以下 |
| D | 工業用水2級、農業用水 | 8mg/L以下 |
| E | 工業用水3級、環境保全 | 10mg/L以下 |
排水側では、水質汚濁防止法の一律排水基準として160mg/L(日間平均120mg/L)が定められ、これは主に河川へ排出する特定事業場に適用される。湖沼や海域への排出では、代わりにCODで規制される。下水道へ流す場合には下水排除基準があり、5日間BODで600mg/L未満が一般的な上限である。都道府県の上乗せ条例によって、さらに厳しい値が課される地域も少なくない。
COD・TOCとの違い
似た指標にCOD(化学的酸素要求量)とTOC(全有機炭素)がある。CODは過マンガン酸カリウムなどの酸化剤で有機物を化学的に分解するため、約30分で結果が出る。TOCは燃焼酸化と赤外線検出によって数分で測れる。それに対し、BODは「微生物が実際に分解できる量」を示す点が特徴で、自然の浄化作用に最も近い。BOD/COD比は生物分解のしやすさを判断する目安になり、0.5を超えれば活性汚泥法での処理に向き、0.2を下回るようなら難分解性物質を多く含むと推定される。
製造現場での使われ方
結果が出るまで5日かかるため、日々の運転管理にBODそのものを使うのは難しい。多くの工場では、自社排水でCODやTOCとの相関式をあらかじめ作り、オンラインのTOC計で連続監視しながら、法定の測定だけをBODで行う。食品工場や飲料工場の原水は数千mg/Lに達することも珍しくなく、下水道へ放流する事業場では、濃度に応じた水質使用料(いわゆる悪質下水の割増料金)が加算される自治体がある。前処理設備への投資と料金の負担を比べ、どこまで濃度を下げるかを決めるのが実務上の判断ポイントになる。処理設備の設計では、活性汚泥1kgあたりの1日のBOD負荷(BOD-SS負荷)を0.2〜0.4kg程度に収めるのが標準的な目安とされる。
測定値が実態とずれる主な要因
生物を使う試験であるため、試料の性質によっては実際より低い値や高い値が出る。代表的な要因は次のとおりである。
- 残留塩素が残っていると微生物が死滅し、値が低く出る(亜硫酸ナトリウムで除去する)
- 銅・亜鉛などの重金属や有害物質が分解を妨げる
- pHが6.5〜7.5の範囲から大きく外れると、微生物の活性が落ちる
- 硝化による酸素消費が加わり、有機物の量より高い値になる
- プラスチック由来の成分など難分解性の有機物は、5日間ではほとんど分解されない
5日間で分解される量は、最終的に分解される量(最終BOD)の約70%といわれる。このため、低い値が出たからといって汚濁物質が少ないとは限らない。湖沼のように滞留時間が長い水域では、分解されにくい有機物や藻類の増殖が富栄養化に関わるため、CODが主な評価指標として使われている。
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