FinFET
FinFETとは、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor) の進化形として登場した3次元構造の半導体デバイスである。微細化の限界が近づく中、リーク電流やゲート制御の問題を解決する手段として開発され、現在の集積回路において重要な役割を担っている。
背景
従来の平面的なMOSFETは、トランジスタチャネルを横から制御する構造であったが、微細化が進むにつれてゲートによる制御が不十分になり、オフ時のリーク電流が増大する問題が顕在化した。さらに集積度向上のためにゲートの長さを縮小すると、チャネルが短くなることで短チャネル効果が顕著となり、スイッチング特性の低下や高消費電力化が懸念されるようになった。こうした背景から、ゲートがチャネルをより立体的に包み込む構造が求められ、従来のプレーナ型に代わる選択肢としてFinFETが提案されたのである。
FinFET 16nm~2nm(10年)、CFET 1nm~
原子10個分のゲート幅に到達しようとしている今の時代、プロセスが進む度にトランジスタの構造を大きく変える他なく半導体工場の投資額は指数関数的に跳ね上がる。ラピダスが如何に無謀な世界に突入しようとしているか、AIで盛り上がってるバカどもは考えないよね https://t.co/XKNRjHdKvR pic.twitter.com/rJ00TALlR2— △P (@triangle_p) June 9, 2024
構造
FinFETの最大の特徴は、名前の由来でもある「フィン(fin)」と呼ばれる突起状のシリコン領域をゲートが3方向または複数方向から覆う構造にある。具体的には、シリコン基板から立ち上がったフィンの両サイド、さらには上面にゲートが接しており、これによってチャネル領域を立体的に制御できる。フィンの厚みを適切に設定することで、ゲート下部での電界制御を強化し、短チャネル効果やリーク電流を抑制する効果が得られる。このように、ゲートとチャネルの接触面積を従来より拡大することで、スイッチング性能の向上と低消費電力化を同時に達成している。
これとは別に、新しく、割とガチめの半導体の展示ができていた。AppliedMaterials協賛らしい。FETの立体化の模型(FinFET/GAA FE)もある。#TPdiary pic.twitter.com/OOBBY68R7w
— akita11/JunichiAkita (@akita11) November 29, 2024
特性
通常のプレーナ型トランジスタと比較して、FinFETはゲート制御能が大幅に向上するため、オフ電流が低減しつつドライブ電流を高められる特徴を持つ。これはゲートがチャネルを三次元的に取り囲むことで電界を強く制御できるためであり、特に微細化が進むプロセス世代で大きな恩恵が得られる。また、ゲート容量の増加を抑えつつ高いオン電流を確保できるため、動作周波数の向上や消費電力削減にも寄与する。さらに、プロセス変動や温度特性に対する耐性が高い点も注目されており、超微細化が進む集積回路設計において優れた選択肢となっている。
imecが出してるロジック半導体のロードマップにはメタルピッチが書かれてますけど、プロセスノードの数字とは全然一致してない。
これは何気にFinFETになる以前からそう。
今情報が出ている中で最も先進的なものと思われるプロセスノード、Intel 3の最も狭いピッチ(幅)でも30nm。
フィーリングです。 https://t.co/juxOKkJGTQ pic.twitter.com/sklp4zh9vA— かも (@R3000C) September 30, 2024
製造プロセス
FinFETを製造する際には、従来の平面プロセスに加えてフィンのエッチング工程や側壁形成など、より複雑な微細加工技術が必要となる。一般的にはSOI (Silicon On Insulator) やバルクシリコンウェハの上にフォトリソグラフィを用いて細かなフィン形状をパターン化し、次にエッチングでフィンを形成してからゲート酸化膜とゲート電極を積層する。多重パターニング技術やEUV (Extreme Ultraviolet) リソグラフィなどを用いて極微細なライン幅を実現し、均一かつ高精度なフィンを多数形成することが重要となる。この一連の工程は複雑化する半導体製造における歩留まりやコスト面の課題とも直結している。
応用と利点
FinFETは高いゲート制御性とリーク電流の抑制によって、低電圧動作が求められるモバイル機器から高速演算が必要な高性能プロセッサまで幅広い分野で利用が進んでいる。特に電力効率が重要視されるスマートフォンやデータセンター用CPUなどにおいて、その低消費電力と高性能の両立が大きな利点となっている。さらに、SRAMなどのメモリ分野でも微細化と省電力化を両立させるためにFinFETの導入が推進されており、これまで以上にトランジスタあたりの性能向上が期待される状況にある。
課題
一方でFinFETには、複雑な加工プロセスからくる製造コストの上昇や、高アスペクト比のフィン形成に伴うパターンばらつきなどの課題が存在する。特に、微細なフィンを多数形成する際の寸法ばらつきが、トランジスタ特性のばらつきへと直結し、大規模集積回路における歩留まりにも影響を及ぼす懸念がある。さらに、シリコン以外の材料や異なるチャネル構造を検討する動きも活発化しているため、FinFETが持つ優位性が将来的に他の新技術と競合する可能性も指摘されている。ただし、現時点では微細化されたCMOS技術の中核として幅広く採用され続けている状況である。