粘度指数
粘度指数(Viscosity Index、略称VI)とは、潤滑油などの粘度が温度によってどの程度変化するかを表す無次元の数値である。40℃と100℃における動粘度から算出され、値が大きいほど温度変化に対する粘度変化が小さい。国内ではJIS K 2283、国際的にはISO 2909およびASTM D2270に算出方法が規定されており、エンジンオイルや作動油の品質を比べる基本指標として使われている。
1929年に生まれた経験的な尺度
考案者はアメリカのE.W.DeanとG.H.B.Davisで、1929年に発表された。当時、ペンシルベニア産原油の潤滑油は温度が変わっても粘りが保たれやすく、米国メキシコ湾岸(ガルフコースト)産の油は高温で急に薄くなることが経験的に知られていた。そこで前者を100、後者を0とする基準油を定め、試料油がその間のどこに位置するかを数値化した。もとは華氏100°Fと210°Fでの粘度を用いていたが、SI化にともない現在は40℃と100℃が基準温度となっている。物理法則から導かれた量ではなく、あくまで比較のための経験尺度である点は押さえておきたい。
算出方法
計算には、試料油の40℃動粘度Uと100℃動粘度Y(単位mm2/s)を用いる。続いて、100℃で試料油と同じ動粘度をもつ基準油のうち、VI=0の油の40℃動粘度をL、VI=100の油の40℃動粘度をHとして規格の数表から読み取る。VIが100以下の場合は次式で求める。
VI = (L − U) ÷ (L − H) × 100
たとえば100℃で同じ粘度の油どうしを比べたとき、40℃での粘度が低い油ほどUが小さくなり、VIは高く出る。低温側で粘度が上がりにくい油が、高評価を受ける仕組みといえる。
VIが100を超える場合
上式のままでは高VI域で値が不自然に伸びるため、JIS K 2283では対数を使った別式を定めている。
N = (log H − log U) ÷ log Y
VI = (10N − 1) ÷ 0.00715 + 100
現在の市販油の多くは100を超えるので、実務で目にする数値はほぼこちらの式によるものである。
基油の種類と粘度指数の目安
VIの大部分は基油の分子構造で決まる。直鎖状のパラフィン分が多いほどVIは高く、環状構造の多いナフテン系や芳香族分を含む油は低くなりやすい。米国石油協会(API)の基油分類と代表的な値を以下に示す。
| 区分 | 主な内容 | VIの目安 |
|---|---|---|
| ナフテン系鉱油 | 溶剤精製のナフテン基原油由来 | 40〜80 |
| APIグループI | 溶剤精製パラフィン系鉱油 | 80〜120(実際は95前後が多い) |
| APIグループII | 水素化精製鉱油、硫黄分0.03%以下 | 80〜120 |
| APIグループIII | 高度水素化分解油 | 120以上 |
| APIグループIV | ポリαオレフィン(PAO) | 125〜150程度 |
| APIグループV | エステルなど他の合成油 | 種類により幅広い |
鉱油を精製するとき、溶剤脱ろうでワックス分を除くと流動点は下がるが、同時にVIもいくらか低下する。低温流動性とVIは必ずしも同じ方向に動かないため、基油メーカーは両者のバランスを見ながら精製条件を調整している。
粘度指数向上剤とその弱点
基油だけでは届かない高いVIを得るには、粘度指数向上剤と呼ばれる添加剤を配合する。代表例はポリメタクリレート(PMA)、オレフィンコポリマー(OCP)、ポリイソブチレンなどの高分子である。これらのポリマーは低温では油中で縮こまり、高温になると糸まりがほどけるように広がって流れを妨げる。結果として高温側の粘度低下が抑えられ、0W-20や5W-30といったマルチグレード油ではVI150〜200に達するものも珍しくない。
弱点はせん断安定性にある。ギヤのかみ合い部や高圧ポンプの隙間で強いせん断を受けると、長い分子鎖が切れて粘度が恒久的に下がる。評価にはASTM D6278(ディーゼルインジェクタ法)などが用いられ、30サイクル後の100℃動粘度の低下率で比べる。
現場での使い分け
屋外で使う建設機械や、冬季に−15℃を下回る地域の設備では、ISO VG46クラスの高粘度指数作動油(ISO 6743-4でいうHV油)がよく指定される。始動時の粘度上昇を抑えつつ、夏場の油温70〜80℃でも油膜を保てるからである。反対に、空調の効いた工場内で油温がほぼ一定の工作機械なら、VI100前後の一般的なHM油で足りることが多い。高VI油は1缶あたりの単価が2〜3割高くなる例もあり、温度条件を確認せずに一律採用すると無駄なコストになりかねない。
向上剤を多く含む油を油圧ポンプの高圧回路で長く使うと、新油時より40℃動粘度が下がっていく。油分析で新油値から±10%を外れたら更油を検討する、という社内基準を設けている事業所は多い。カタログのVIは新油時の値にすぎないため、使用中の変化を追う視点が欠かせない。
自動車用エンジンオイルの場合
自動車分野では、SAE J300の粘度分類を満たすかどうかが先に問われ、VIそのものは規格項目に含まれない。ただし0W-16や0W-8のような省燃費の低粘度油では、冷間始動時の抵抗を下げながら150℃での油膜を確保しなければならず、結果として高いVIが必要になる。グループIII基油やPAOに向上剤を組み合わせる処方が主流となっているのはこのためである。
数値を読むときの注意
VIは40℃と100℃の2点だけから求めるため、−30℃のような極低温での挙動までは保証しない。低温性能を知るにはCCS(コールドクランキングシミュレータ)粘度や流動点を別に確認する必要がある。そのうえ、100℃動粘度が2mm2/s未満の低粘度油ではJIS K 2283の算出範囲から外れるので、VIは参考値扱いとなる。酸化安定性や耐摩耗性とは独立した指標であり、VIが高いからといって油の総合性能まで高いとは限らない。
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