作動油|油圧装置で動力を伝達する専用の油

作動油

作動油(さどうゆ)は、油圧装置の内部を循環し、ポンプが生み出した圧力をシリンダやモータへ伝える液体である。英語ではhydraulic fluidまたはhydraulic oilと呼ばれ、日本ではJIS K 2001とISO 6743-4にもとづいて品種と粘度が区分される。建設機械、射出成形機、プレス機、工作機械、航空機の操縦系統など、使われる場所は幅広い。単に力を運ぶだけでなく、摺動部の潤滑や回路の冷却も同じ液体が受け持つため、機械の寿命は油の状態に大きく左右される。

水から油へ――作動流体の変遷

液体で大きな力を得る仕組みは、1795年にジョゼフ・ブラマーが特許を取得した水圧プレスにさかのぼる。当初の媒体は水で、ロンドンなどでは19世紀に配水管網を使った水圧動力の供給事業まで生まれた。ただ、水は錆を招き、冬には凍り、潤滑性もほとんどない。こうした弱点を避けるため、20世紀前半から鉱油をベースにした作動流体が主流になっていく。戦後の1960年代には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を配合した耐摩耗性の油が普及し、ポンプの高圧化を後押しした。

油圧回路の中で果たす役割

油圧の原理はパスカルの原理に立脚している。密閉された液体に加えた圧力は全方向へ等しく伝わり、出力される力は F = P × A(F:力、P:圧力、A:受圧面積)で表される。たとえば内径100mmの油圧シリンダに21MPaを供給すると、受圧面積は約7,854mm2なので、推力はおよそ165kNに達する。この力を損失少なく伝えるため、油には圧縮されにくい性質が欠かせない。現場で期待される機能は次の5つに整理できる。

  • 動力伝達:ポンプの吐出圧をアクチュエータへ届ける
  • 潤滑:ポンプやバルブの摺動面に油膜をつくり、摩耗を抑える
  • 冷却:圧力損失や摩擦で生じた熱をタンクへ運び出す
  • 防錆:鉄鋼部品の表面を覆い、水分による腐食を防ぐ
  • 密封:すき間を油膜で満たし、内部漏れを少なくする

ISO 6743-4による品種分類

国際的には、ISO 6743-4が記号で品種を定めている。日本の装置メーカーが取扱説明書で「HM46」のように指定するのも、この記号と粘度グレードの組み合わせである。

記号 組成 主な特徴・用途
HH 添加剤なしの精製鉱油 低負荷の簡易な回路向け。現在はほとんど使われない
HL 鉱油+酸化防止剤・防錆剤 中低圧の一般産業機械
HM HLに耐摩耗剤を加えたもの ベーンポンプ・ピストンポンプを使う高圧回路。国内で最も流通量が多い
HV HMに粘度指数向上剤を加えたもの 寒冷地の建設機械、屋外設備
HFAE / HFC 水を主成分とする難燃性液 製鉄所、ダイカスト、鉱山
HFDR リン酸エステル 高温熱源の近く、発電所タービン制御

難燃性作動油の扱い

鉱油系の引火点は200℃以上あるものの、高圧配管から霧状に噴き出すと火源に触れて燃え広がるおそれがある。そこで溶融金属の近くでは水-グリコール系(HFC)が多く選ばれる。HFCは水分を35〜50%ほど含むため、使用温度はおおむね50℃以下に抑える必要があり、ポンプは定格圧力を下げて運転するのが通例となっている。リン酸エステル系は耐熱性に優れる半面、一般的なニトリルゴム(NBR)を膨潤させてしまう。シールをフッ素ゴム(FKM)などへ交換しないまま油種だけ切り替え、短期間で漏れが多発した例は珍しくない。

生分解性作動油

河川工事や林業機械、農業機械のように漏れた油が土壌や水域へ流れ込みやすい現場では、ISO 15380に定められたHETG(植物油系)、HEES(合成エステル系)、HEPG(ポリグリコール系)、HEPR(ポリアルファオレフィン系)が使われる。植物油系は安価で生分解性が高いが酸化に弱く、交換周期は鉱油系より短くなりやすい。

粘度グレードを決める考え方

粘度グレードは40℃における動粘度(mm2/s)の中心値で示され、ISO VG 46なら41.4〜50.6mm2/sの範囲に収まる。国内工場ではVG 32、46、68の3種でほぼ大半をまかなっている。
選定の目安はポンプ側にある。粘度が低すぎると内部漏れが増えて容積効率が落ち、高すぎると吸込み不良からキャビテーションを起こす。多くのポンプメーカーは運転時の粘度を十数〜100mm2/s程度に収めるよう求めており、冬場の始動時の上限も別に定めている。屋内の小型ユニットならVG 32、油温が60℃近くまで上がる高圧のピストンポンプ回路ならVG 68という使い分けが、現場ではよく見られる。粘度指数が100前後のHMに対し、HVは140を超える製品が多く、夏と冬で油温差が大きい屋外機に向く。

劣化と汚染管理

油の寿命を縮める最大の要因は熱である。経験則として、油温が60℃を超えると10℃上がるごとに酸化の速度は約2倍になるといわれる。酸化が進むと有機酸が生まれ、やがてスラッジやワニス状の付着物となってサーボ弁のスプールを固着させる。
汚染も見過ごせない。油圧トラブルの7〜8割は固形異物や水分の混入が原因とされ、清浄度はISO 4406のコードで管理する。一般的な比例弁回路で18/16/13、サーボ弁を使う回路では16/14/11程度がひとつの目標値になる。古い装置の仕様書には旧米国規格NAS 1638の等級で記されている場合もある。水分については0.1%(1,000ppm)を超えると油が白濁し始め、添加剤の加水分解や錆の原因となる。定期分析では次の項目を順に確認していくのが一般的である。

  1. 外観と臭い:白濁、黒変、焦げ臭の有無
  2. 動粘度:新油比で±10%を超えていないか
  3. 全酸価:酸化の進み具合の指標
  4. 水分:カールフィッシャー法などで測定
  5. 汚染度:パーティクルカウンタによる粒子数

更油とフラッシングの実務

鉱油系HM作動油は200Lドラムで数万円程度が相場だが、リン酸エステル系はその数倍から10倍近い価格になる。このため高価な油ほど、全量交換よりフィルタの強化や部分補充で延命を図る判断が増える。銘柄や油種を切り替える際は、旧油の添加剤と新油が反応して沈殿物をつくることがあるため、フラッシング油で配管とタンクを洗ってから充填する。とくにHFCから鉱油系へ戻す場合は残留水分が問題になりやすく、メーカーの推奨手順に従って複数回の洗浄を行うのが確実である。給油時に缶やホースから異物が入る例も多く、補充用にも10μm程度のろ過装置付きポンプを使う工場が増えている。油圧ポンプの交換費用と比べれば、こうした管理にかかる手間はわずかで済む。

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