油圧ポンプ|機械動力を油の圧力に変える装置

油圧ポンプ

油圧ポンプは、電動機やエンジンの回転エネルギーを、作動油の圧力と流量という流体エネルギーに変換する機器である。油圧回路の心臓部にあたる。吐出された油は制御弁を通って油圧シリンダや油圧モータへ送られ、直線運動や回転運動として仕事を取り出す。産業用のものはほぼすべて容積式で、密閉空間の容積を変えることで油を押し出す。そのため遠心ポンプとは違い、負荷圧力が上がっても吐出量はほとんど減らない。用語はJIS B 0142で定義され、図記号はISO 1219-1に対応するJIS B 0125-1で規定されている。

発明から量産化までの歩み

油圧技術の始まりは1795年にさかのぼる。この年、英国のジョセフ・ブラマーがパスカルの原理を応用した水圧プレスの特許を取得した。当時の作動媒体は水で、ポンプも手動のプランジャ式にすぎなかった。転機は1905年である。米国のハーヴェイ・ウィリアムズとレイノルド・ジャニーが、鉱物油を作動流体とするアキシアルピストン式の可変容量ポンプを開発し、米海軍の戦艦の砲塔駆動に採用された。1920年代にはハリー・ビッカースがバランス形ベーンポンプを実用化し、工作機械の送り機構に油圧が広く使われるようになった。日本では戦後、油研工業、ダイキン工業、不二越などが量産を始めた。1960年代以降に油圧ショベルが普及すると、需要は一気に拡大した。

構造別に見た三つの方式

容積式の油圧ポンプは、油を閉じ込める仕組みによって主に三つに分類される。下表は一般的な工業用製品の目安で、メーカーや機種によって数値は前後する。

方式 最高使用圧力の目安 全効率の目安 騒音 価格帯 主な用途
歯車ポンプ 20〜25 MPa 80〜90% やや大きい 低 建機の補助回路、農業機械、潤滑装置
ベーンポンプ 7〜21 MPa 80〜88% 小さい 中 工作機械、中小型プレス
ピストンポンプ 35〜42 MPa 85〜95% 中程度 高 油圧ショベル、大型プレス、船舶

斜板式と斜軸式

ピストンポンプの主流はアキシアル形である。斜板の傾き角でピストンのストロークを変える斜板式と、シリンダブロックそのものを傾ける斜軸式がある。斜板式は小型で可変容量化しやすく、国内建機向けの大半がこの方式を採用している。斜軸式は傾転角を最大40°程度まで取れる機種もあり、高効率を生かしてボッシュ・レックスロスなど欧州メーカーの定容量機に多く見られる。

吐出量と所要動力の求め方

ポンプが1回転で押し出す理論上の体積を押しのけ容積q[cm3/rev]という。回転数をn[min-1]、体積効率をηvとすると、実吐出量Q[L/min]は Q = q × n × ηv / 1000 となる。軸動力L[kW]は、吐出圧力p[MPa]と全効率ηを使って L = p × Q / (60 × η) で求められる。たとえば押しのけ容積20 cm3/revのポンプを1,500 min-1で回し、体積効率を0.95とすると、吐出量は28.5 L/minになる。吐出圧力14 MPa、全効率0.85なら軸動力は約7.8 kWである。現場ではこの値に余裕を見て11 kWの電動機を選ぶことが多い。7.5 kWではピーク負荷のときに過負荷トリップを起こしやすいためである。もう一つ見落とされやすいのが電源周波数で、東日本の50 Hzと西日本の60 Hzでは同じ4極電動機でも回転数が約2割違う。装置を東西間で移設すると、吐出量もそれに比例して変わってしまう。

可変容量形の制御方式

定容量形は構造が簡単な反面、必要な流量が少ないときでも全量を吐出する。余った油はリリーフ弁から逃がすことになり、その分が熱損失になる。可変容量形は押しのけ容積そのものを変えるので、無駄な吐出を抑えられる。代表的な制御方式は次のとおりである。

  • 圧力補償制御:設定圧力に達すると、吐出量を自動的にゼロ近くまで絞る
  • ロードセンシング制御:アクチュエータの負荷圧より1.5〜2.5 MPa程度高い圧力で、必要な流量だけを吐出する
  • 馬力制御(定出力制御):圧力と流量の積を一定に保ち、エンジンの過負荷を防ぐ
  • 電磁比例制御:比例ソレノイドに流す電流で斜板の傾転角を連続的に変える

異音と摩耗を招くキャビテーション

吸込側の圧力が作動油の空気分離圧や飽和蒸気圧を下回ると、油の中に気泡ができる。この気泡が吐出側でつぶれると、その衝撃で部品の表面が削られていく。これがキャビテーションで、砂利をかみ込んだような「ガラガラ」という異音で気づくことが多い。対策としては、吸込配管の流速を0.6〜1.2 m/s程度に抑えること、サクションストレーナの目詰まりを防ぐこと、タンク油面とポンプ吸込口の高低差を小さくすることが挙げられる。作動油の粘度も大きく影響する。冬場の始動時のように油温が低く粘度が高い状態でいきなり高速回転させると、吸込不良が起きやすい。ISO VG 46の油を使う回路であれば、油温は30〜55℃の範囲で運転するのが望ましい。

現場での選定と保守の勘どころ

カタログ上の最高圧力だけで機種を決めると、寿命の面で失敗しやすい。軸受寿命は荷重のほぼ3乗に反比例して短くなるため、連続定格圧力の7割前後で使う設計がよく採られる。同じ吐出量で比べると、ピストンポンプの価格は歯車ポンプの5〜10倍になることもある。稼働率の低い補助回路にまで高価な機種を使う必要はない。据付時にも注意点があり、ピストンポンプは初回起動の前にケース内を作動油で満たしておかないと焼付きを起こす。このため、ケース内への注油は試運転手順書に必ず入れておくべき項目である。汚染管理についても、ISO 4406の清浄度コードで18/16/13以下を推奨値とするメーカーが多い。最近は、定容量ポンプをACサーボモータで回転数制御する方式が射出成形機やプレス機械で広がっている。待機時の消費電力を従来機の半分以下に減らした事例も報告されている。

主な用途と国内外のメーカー

油圧ポンプは建設機械、プレス機械、船舶の操舵装置、航空機の操縦系統など幅広い分野で使われている。航空機では長く20.7 MPa(3,000 psi)系が標準だったが、エアバスA380やボーイング787では34.5 MPa(5,000 psi)系が採用された。国内の主要メーカーには川崎重工業、KYB、油研工業、ダイキン工業、不二越がある。海外ではボッシュ・レックスロスやパーカー・ハネフィンが大きなシェアを持つ。ビッカースの流れをくむイートンの油圧部門は、2021年にダンフォスへ統合された。

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