酸化アルミニウム
酸化アルミニウムは化学式Al2O3で表される無機化合物で、一般にアルミナと呼ばれる。天然ではコランダムとして産出し、高い硬度と化学的安定性をもつため、研磨材、耐火物、電子基板、触媒担体、表面保護皮膜など幅広い用途に用いられる。結晶学的には安定相であるα-Al2O3と、加熱により相転移して最終的にα相へ至る一連の準安定相(γ、δ、θなど)が知られている。工業的にはボーキサイトを原料にしたバイヤー法によって大量生産され、粉体設計と焼結制御により所望の物性を引き出す材料である。
結晶多形と相転移
酸化アルミニウムの安定相であるα-Al2O3(コランダム構造)は六方最密充填に近い酸素配列をとり、高い結晶安定性と低い比表面積を示す。一方、γ-Al2O3はスピネル様の欠陥構造を持ち、高比表面積で多孔質となるため触媒担体として重要である。準安定相は焼成温度の上昇に伴ってγ→δ→θ→αへと段階的に相転移し、一般に1,000〜1,200℃付近でα化が進む。転移温度や結晶成長速度は不純物、粒径、雰囲気などに依存する。
天然鉱物と宝石
天然のコランダムは純粋な酸化アルミニウム結晶であり、微量のCrを含むとルビー、FeやTiを含むとサファイアとなる。コランダムのモース硬度は9で、ダイヤモンドに次ぐ高い硬さを示す。この硬さと化学的安定性が研磨材や耐摩耗部品としての有用性を支えている。
物性(機械・熱・電気)
- 機械特性:焼結アルミナのビッカース硬さはおおよそ1,500〜2,000HV、破壊靱性は3〜5MPa√m程度である。
- 熱特性:多結晶体の熱伝導率は概ね20〜35W/m·Kで、高純度・高緻密材ではより高い値を示す。熱膨張係数は約8×10^-6/Kである。
- 電気特性:体積抵抗率は10^14Ω·cm以上と高く、誘電率はεr≈9〜10、絶縁破壊強度はおよそ10MV/mとされる。
- 耐熱性:融点は約2,050〜2,072℃で、耐熱衝撃性は微細構造や残留気孔に影響される。
製造法と原料(バイヤー法を中心に)
酸化アルミニウムは主にバイヤー法で製造される。ボーキサイトを苛性ソーダ溶液により消化してアルミン酸ナトリウムとして溶解し、種晶添加や温度制御により水酸化アルミニウムを析出させる。これを乾燥・焼成してAl2O3を得る。バイヤー法の副産物として赤泥が生じるため、その処理・再資源化が環境課題となる。高純度粉末は溶膠-ゲル、沈殿、火炎法などの化学合成も用いられる。
粉体設計と焼結プロセス
粉末の粒径分布、比表面積、一次粒子の凝集状態は焼結挙動を左右する。成形はプレス、CIP(冷間静水圧)、テープキャストなどが適用され、MgOやY2O3などの微量添加により粒成長抑制や緻密化促進が図られる。焼結は常圧焼結のほか、ホットプレスやHIPにより高緻密・高信頼性の部材が得られる。
用途と応用分野
- 研磨材:白色アルミナや褐色アルミナとして研削・研磨・ラッピングに広く使用される。
- 耐火物:高温耐食性を活かし、れんが、るつぼ、スライディングノズルなど製鋼関連で重要である。
- 電子材料:96%や99.6%アルミナ基板は絶縁・耐熱に優れ、厚膜回路や高放熱パッケージに用いられる。
- 触媒担体:多孔質のγ-Al2O3は高比表面積を活かし、石油精製・排ガス浄化などで担体として機能する。
- 医療:高純度緻密体は生体適合性が高く、人工関節摺動材などに応用される。
- 機械部材:シール、ベアリング、ノズルなど耐摩耗・耐食が要求される部位に適する。
表面酸化膜と陽極酸化アルミナ
アルミニウム金属表面には自然酸化により数nmのバリア型酸化アルミニウム皮膜が生成する。電解処理(陽極酸化)では多孔質酸化アルミニウム(PAA)が得られ、孔径10〜100nm程度の規則配列孔を制御できる。PAAは染色・封孔による装飾耐食化に加え、ナノテンプレートとしての機能も注目される。
微細構造制御と特性発現
酸化アルミニウムの特性は粒径・気孔率・結晶相によって大きく変わる。微細粒化により靱性や強度のバランスを取り、残留気孔を最小化することで絶縁性と機械特性が向上する。界面制御(粒界清浄化や第二相分散)はクリープ抵抗や耐熱疲労の改善に有効である。
接合・金属化
セラミックスである酸化アルミニウムは金属との線膨張差に配慮した接合設計が必要である。活性金属法やメタライズ(Mo-Mn法など)を介したろう付けが行われ、電子部品封止や高温用絶縁部材で利用される。表面粗さや前処理は接合強度に直結する。
評価・規格
強度試験には3点・4点曲げ、硬さはビッカース法、破壊靱性はSEVNBなどが採用される。国内ではJISのファインセラミックス関連規格群、国際的にはISOの試験標準が参照され、ロット間ばらつき管理やトレーサビリティ確保に用いられる。電気特性、熱特性、耐食・耐摩耗性も用途に応じて規格化されている。
環境・安全とリサイクル
酸化アルミニウム自体は化学的に安定で不燃・難溶であるが、粉じんの吸入は作業環境上の配慮が必要である。製造過程で生じる赤泥の管理、焼成時のエネルギー使用量低減、スクラップ粉末の再資源化はサーキュラーエコノミーの観点から重要である。用途後の分離回収は設計段階からのDfR(Design for Recycling)が有効である。